うです。ところで、ラピダスは果たして成功するのでしょうか。
そういう不安が生ずるのは、これが経済産業省が中心となる国策
プロジェクトだからです。日本は、過去の例を見ても、こういう
国策プロジェクトの運営が上手ではないからです。
西村康稔経済産業相は、記者会見において、次のように抱負を
語っています。
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次世代半導体はあらゆる分野で大きなイノベーション(技術革
新)をもたらす中核技術だ。米国をはじめとする海外の研究機関
産業界とも連携しながら、わが国の半導体関連産業の基盤の強化
競争力強化につなげていきたい。 ──西村康稔経済産業相
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しかし、景気の良いことばかりはいってはいられない。かつて
政府の主導で作られ、最終的に経営破綻したエルピーダの失敗が
あり、今回のラピダスも、同じことを繰り返すのではないかとい
う不安が一部にあることは確かです。
ところで、「エルピーダ」という企業をご存知ですか。
エルピーダは、1999年以降、NEC、日立製作所、三菱電
機のDRAM事業を統合して設立され、2003年には三菱電機
の半導体部門を吸収し、日本で唯一であるDRAM専業メーカー
となった企業です。「日の丸半導体メーカー」といえます。
DRAMは、PCのメインメモリに使われているメモリですが
現在、DRAMの分野では、韓国勢が圧倒的なシェアを誇ってい
るのです。サムスン電子とSK・ハイニックスを合わせると、実
に70%を超えるシェアを有しています。しかし、1980年代
では、この分野は日本が圧倒的なシェアを独占していたのです。
ところが「日の丸半導体メーカー」のエルピーダは、2012
年に破綻してしまうのです。
なぜ、エルピーダは破綻したのでしょうか。微細加工研究所所
長の湯之上隆氏は、エルピーダの破綻について、次のようにコメ
ントしています。
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事業は各社の不採算部門の寄せ集めで、各社からエルピーダに
配属された従業員は、「能力もやる気もない、指示待ち族の集ま
り」と酷評された。
出身会社ごとの規格を統一することもかなわず、エルピーダの
収益力は低迷。経営危機に陥り、リーマン・ショック後の200
9年には、日本政策投資銀行を通じて300億円の公的支援が行
われた。だが、それでも持ち直すことはできず、最終的に12年
会社更生法の適用を申請して経営破綻した。
https://bit.ly/3Lebgpe
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しかし、ラピダスの設立はエルピーダのときとその背景事情が
大きく異なるのです。その一番大きなものは、米中対立の激化で
す。「半導体の開発では絶対中国には負けられない」という強い
決意のもと、2022年8月9日、バイデン米大統領は「CHI
PS法」に署名し、法案を成立させています。CHIPS法とは
次の言葉の省略形です。
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◎CHIPS法
The CHIPS and Science Act of 2022
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この法律の目的は、先端半導体技術において、米国がリーダー
シップを取り戻し、中国の競合をかわすことにあります。この法
律では、安全保障上の懸念のある国において、最先端および先端
半導体製造能力の「実質的な拡張を含む重要な取り引き」が禁止
されます。
この法律により、米国内の半導体の生産や開発を支援する補助
金として527億ドル(約7兆5000億円)が使われることに
なっています。支援を受ける企業は、今後10年間、28ナノ以
降の半導体製造にかかわる中国向けの投資が禁止されます。これ
に加えて、2022年10月からは、18ナノ以下のDRAM、
128層以上のNANDメモリ、3ナノ以下の回路や基盤を設計
するEDAツールが輸出できなくなっています。これによって、
中国が大きな打撃を受けることは確実です。
以上が米国の状況ですが、EUも同様の半導体開発支援を目的
として、公的資金110億ユーロを投資し、その他、民間を加え
て、430億ユーロ(約6兆円)を投資することが12月のEU
閣僚理事会で決定しています。
そもそも半導体不足は何で起きたかですが、それは、コロナ禍
が原因です。これについて、英国の調査会社オムディアの杉山和
弘コンサルティング・ディレクターは、次のようにコメントをし
ています。
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コロナ禍の半導体不足から、半導体サプライチェーンにおいて
製造は、台湾・韓国依存が高いことが認識されました。これに加
えて、米中対立による地政学的なリスクから、日本も自国で必要
な半導体は自国で生産する必要がある、という自国に回避するこ
とが前提にあると思います。この理由は、経済安全保障のリスク
マネージメント要因が大きいとみています
──杉山和弘コンサルティング・ディレクター
https://bit.ly/3HguQQt
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ラピダス設立は、日本にとって周回遅れの状態から脱出する最
後のチャンスといえます。日本は、世界の半導体の技術レベルと
比較して、10年〜20年以上遅れています。果たして、ラピダ
スによって世界のレベルに追いつくことができるのか、大きな関
心をもって、注視していく必要があります。
──[メタバースと日本経済/059]
≪画像および関連情報≫
●エルピーダ破綻に見る産業政策の「不在」
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2012年2月末に、日本唯一のDRAMメーカーで、D
RAM世界市場3位のエルピーダメモリが会社更生法の申請
を行い、製造業として戦後最大の負債総額4480億円で経
営破綻した。2009年6月末に産業活力再生特別措置法の
認定を経済産業省から受けて、日本政策投資銀行(政投銀)
の増資引き受け(300億円)や、政投銀と民間銀行団の融
資(約1000億円)によってテコ入れされてから、3年弱
だった。この失敗を日本政府、経済産業省の産業政策との関
わりで評価し、今後のあるべき政策を示唆したい。
結論を先回りすると、筆者の考えでは、この失敗は産業政
策の過剰ゆえではなく深いレベルの産業政策の不在ゆえであ
り、また政策における賢さと断固たる粘り強さの不足ゆえで
ある。以下、その点を示すが、最初にエルピーダ社自身の問
題も指摘せねばならない。
あまり報道されていないが、同社を救済したときの法的認
定を正確にみると、携帯電話などに向けた「プレミアDRA
M」を中核とした事業再構築計画に対する認定だった。確か
に、2010年度に同社のプレミアDRAM売り上げは大き
く伸びた。だが、それでもその売り上げ比率は同年度に金額
で30%に過ぎなかった。2009年の救済認定当時から、
パソコン用などの一般DRAMの生産能力を台湾に移管し、
同社の広島工場は、プレミアDRAMの生産に傾斜するはず
だったが、2011年9月末の報道によると、実際は広島工
場の能力12万枚/月のうち約4割に当たる5万枚分を「こ
れから」台湾に移管するとされていた。
https://bit.ly/3V826ix
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エルピーダメモリ広島工場