2023年04月27日

●「GAA構造チップとはどういうものか」(第5942号)

 ラピダスが米IBMから提供を受けるのは「GAA構造」の技
術です。2ナノ世代プロセスの製造に必要な半導体の技術です。
日本の半導体メーカーが量産化できるレベルは40ナノ〜60ナ
ノ程度でしかないのです。IBMでも2ナノ世代プロセスの製造
の技術は持っているものの、量産化技術は持っていないのです。
 トップランナーは、台湾のTSMCと韓国のサムスン電子です
が、この2社も2ナノ世代プロセスのチップは作れるが、量産化
技術はまだ持っていないといわれています。
 このように考えると、ラピダスの目標がいかに高いかわかると
思います。半導体の生産において、よく「微細化」という言葉を
使いますが、微細化とは何でしょうか。なぜ、微細化が必要なの
でしょうか。
 それにはトランジスタの基礎について知る必要があります。ど
こまでやさしく説明できるか自信はありませんが、以下説明を試
みることにします。これから半導体不足問題は、世界レベルで、
さらに深刻になり、話題になることが多くなるので、知っておい
て損はないと考えます。
 半導体にもいろいろありますが、これから説明するのは、「ロ
ジック半導体」の話です。ロジック半導体とは、スマホやPCの
CPUとして使われるもので、電子機器の頭脳の役割を担うもの
です。これまで回路を微細にして、トランジスタ(素子)の数を
増やし計算能力を高めてきています。
 ロジック半導体で使われている「MOSFET」と呼ばれる半
導体があります。「MOSFET」とは次の言葉の省略形です。
─────────────────────────────
  ◎MOSFET/金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ
   Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor
─────────────────────────────
 添付ファイルの「図A」をご覧ください。これがMOSFET
の一種であるプレーナFETの構造図です。「G(ゲート)」と
呼ばれる部分がありますが、そこに一定以上の電圧を与えるか、
与えないかによって「S(ソース)」と「D(ドレイン)」とい
う部分に電流が流れます。つまり、G(ゲート)は、ON/OF
Fのスイッチの働きをしているのです。これが2進数の0と1に
対応します。
 しかし、チップの微細化によって──これはゲート幅が短くな
ることを意味する──このスイッチの働きが曖昧になります。具
体的には「リーク電流」が起きてしまうのです。つまり、OFF
のときでも電流が流れてしまう現象です。S(ソース)とD(ド
レイン)が水平なので、微細化によって、SとDが近づきすぎる
と、リーク電流が生ずるのです。
 この現象をホースで庭に水をまくさい、ホースを足で踏みつけ
たり、離したりすることに例えることがあります。これではON
/OFFがうまく機能しなくなるのです。
 そもそもなぜ「微細化」が必要なのでしょうか。その理由には
4つあります。
─────────────────────────────
           @ コスト削減
           A 低消費電力
           B動作速度向上
           C  高機能化
─────────────────────────────
 @は「コスト削減」です。
 ここでいうコストとは、トランジスタの製造コストの削減のこ
とです。半導体は、1枚のウェハーという物質の上にトランジス
タを積み上げるのですが、1枚のウェハーに含まれるトランジス
タが増えれば増えるほど、トランジスタ1個当たりの製造コスト
が下がることになります。ちなみにウェハーとは、半導体材料を
薄く円盤状に加工してできた薄い板のことで、半導体基板の材料
として用いられています。
 Aは「低消費電力」であり、Bは「動作速度向上」です。
 微細化とは、トランジスタが小さくなることをいいます。トラ
ンジスタが小さくなるということは、ゲート長が短くなることを
意味しますが、これに成功すると、オン/オフに必要とされる電
子の個数および移動時間が小さくなり、小さな電力かつその素早
い移動によって、低消費電力と高速化が可能になります。
 Cは「高機能化」です。
 これまで複数のチップで実現していた機能を一つのチップ内に
収めることができれば、AとBの理由によって、機能間の通信を
高速化できるし、省電力化も実現できます。
 プレーナFETは、オフのときでも電流が漏れるリーク電流が
問題だったのです。これを防ぐため「FinFET」が考案され
ています。添付ファイルの図Bの真ん中の図形をご覧ください。
リーク電流を防ぐため、チャネルをゲートに食い込ませることで
3面から囲み、リーク電流を抑制しています。「Fin」とは、
英語で魚のヒレを意味し、そのように見えることから「FinF
ET」というのです。
 実は、この「FinFET」は日本が開発した技術です。19
89年に日立製作所が発表しています。しかし、商用生産ができ
るようになったのは20年後の2011年で、その担い手は日本
企業ではなく、インテルだったのです。
 その発展形が図2の一番右の図です。これが「GAA」です。
GAAは「ゲート全方向(Gate All Around)」 と呼ばれ、その
名の通り、ゲートが全方向からチャネルを包み込む構造になって
います。「FinFET」との大きな違いは、チャネルの制御面
を3面から4面に増やしたことです。具体的にいうと、「Fin
FET」のチャネルを90%回転し、縦に積層し、リーク電流を
ほぼ完璧に抑えていることです。いずれにしても、現在ではこの
ように立体構造になっているのです。
           ──[メタバースと日本経済/058]

≪画像および関連情報≫
 ●IBMが「2nm」プロセスのナノシートトランジスタ公開
  ───────────────────────────
   IBMは、米国ニューヨーク州アルバニーにある研究開発
  施設で製造した「世界初」(同社)となる2nmプロセスを
  適用したチップを発表した。同チップは、IBMのナノシー
  ト技術で構築したGAA(Gate-All-Around) トランジスタ
  を搭載している。同社は、「この新しいプロセス技術によっ
  て、2nmチップは、現在生産している最先端の7nmチッ
  プと比べて45%の性能向上と75%の消費電力削減を実現
  できる」と述べている。
   IBMは、7nmと5nmのテストチップのデモンストレ
  ーションも業界で初めて行っている。IBMが発表したテス
  トチップは、約500億個のトランジスタを搭載し、GAA
  トランジスタの一部にナノシート構造を採用している。GA
  Aは、その前身となるFinFETのスケーリングの限界に
  対する解決策として開発された新しいトランジスタアーキテ
  クチャである。         https://bit.ly/3n245s9
  ───────────────────────────
GAA構造とは何か.jpg
GAA構造とは何か
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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