2023年04月25日

●「なぜ、GFはIBMを提訴したのか」(第5940号)

 IBMがGF(グルーバルファンドリーズ)に訴訟を起こされ
ている件ですが、このGFという半導体製造企業について知る人
は少ないようです。なぜなら、「GF」をキーワードとして検索
しても出てこないからです。
 GFは、インテルと並んでウィンテル陣営を支え、このところ
「ライゼン」という名前のCPUが人気のAMD(アドバンスト
・マイクロ・デバイセズ)から、2009年3月、分離・独立し
たファウンドリです。つまり、GFはもともとはAMDの半導体
製造部門だったのです。
 今回GFがIBMを訴えたという訴訟は、IBMの方が先にG
Fを契約不履行であるとして訴えている訴訟と無関係ではないと
いえます。そもそもIBMとGFは、どのような関係にあるので
しょうか。IBMとGFの関係について、ネット上に次の情報が
あります。
─────────────────────────────
 IBMは2014年当時、半導体製造事業から撤退しようとし
ていた。老朽化した製造施設の一部を売りに出したが、一つも売
却先を見つけることができず、最終的にはGFに実質的に15億
米ドルを支払い引き取ってもらった。両社は当時IBMがそれま
で開発に取り組んでいた14nmの製造プロセスをGFが完了さ
せることで合意した(実際にGFはそうした)。GFはIBMに
14nmチップを供給し(これも実際にそうした)、同時に次の
ノードの開発に取り組む計画だった。
 「次のノード」には10nmが想定されていたが、半導体製造
事業での競争状況を踏まえ、GFは10nmを飛び越えてすぐに
7nmに進んだ。GFは、IBMがこの決定にも賛同したと主張
している。
 当時GFは、7nm開発においてTSMCとサムソン電子に大
幅に後れを取っており、2018年には、同プロセスの開発を完
了できない見込みであることを発表した。7nmの開発を完了さ
せていたら、財務面で破滅的な状態に陥っていた可能性があると
同社は主張している。IBMによる契約不履行の訴えの核心は、
GFが7nmチップ製造プロセスの開発に失敗したことである。
                  https://bit.ly/3V1i0LB
─────────────────────────────
 上記のいきさつから判断すると、IBMは自社の半導体部門を
売却するにあたって、GFに15億米ドルを提供し、さらに追加
として10億米ドルを支払っています。これは、半導体部門の売
却というよりも、条件付き資金付きの譲渡のようなものです。そ
れは、GFに対して、生産する最先端の半導体をIBMに優先的
に提供するという約束のためであると思われます。
 GFは、IBMから得た資金を投じて、IBMの製造設備を改
修し、14nmプロセスを開発、続いて7nmプロセスの開発に
着手したのです。なぜ、10nmプロセスではなく、7nmプロ
セスとであるかというと、IBMとは最先端の半導体生産の約束
をしていたからです。
 しかし、競合相手のTSMCやサムソン電子は、既に数百億ド
ルの資金を投入して7nmプロセスに着手しており、GFとして
は大きく遅れていたのです。実際問題として、14nmプロセス
から7nmプロセスへの飛躍は、技術的にきわめて困難であると
判断し、GFは7nmチップの生産を断念し、戦略を転換したの
です。2018年のことです。
 どのように戦略を転換したかというと、1桁台のプロセスノー
ドの生産を断念し、TSMCやサムスン電子では引き受けてもら
えない半導体の生産に切り換えたのです。実は、この需要はたく
さんあって、そのための設備が充実しているGFは売り上げが増
大します。そして、2020年には、IPO(新規株式公開)の
情報もあります。この戦略転換がうまくいって、現在、ファウン
ドリとしては、TSMC、サムソン電子に次いでGFは、世界第
3位になっているのです。
 しかし、IBMはGFの変化を契約違反であるとして、7nm
チップをサムソン電子に委託しています。そして、2020年に
なってGFを契約違反であるとして提訴したのです。その内容は
次のようなものです。
─────────────────────────────
 GFは、高性能半導体チップの開発/供給を含め、IBMに対
する法的義務を果たしていない。この訴訟は、そうした不正と意
図的な契約不履行を隠蔽するためのGFによるさらにもう一つの
試みである。IBMはGFが次世代チップを供給できるよう同社
に15億米ドルを提供したが、GFは最後の支払いを受けてすぐ
にIBMから完全に離れ、自社の発展のためにIBMとの取引で
得た資産を売却した。それによる重大な損害の回復を探る機会を
IBMは歓迎する。         https://bit.ly/3V1i0LB
─────────────────────────────
 2020年といえば、日本が米国政府からの強い要請を受けて
本格的な半導体企業を設立しようと模索していたときです。その
動きをIBMが知らないはずはなく、1桁台の最先端半導体を求
めていたIBMは、日本の関係者に接近し、IBMの技術提供を
提案したのではないかと思われます。つまり、IBMとしては、
GFに期待していたものの、GFが約束を守らなかったので、ラ
ピダスに生産を委託しようと考えたものと思われます。実際に、
IBMとラピダスは、2022年12月に提携を発表し、2ナノ
メートル(ナノは10億分の1)の半導体製造において、協力し
ていくことを約束しています。
 この事実を知ったGFは、IBMが2021年に次世代半導体
技術で協業すると発表したインテルに知的所有権を不法に開示し
悪用したと主張し、「IBMは、潜在的に数億ドルのライセンス
収入やその他の利益を不当に受け取っている」として、IBMを
提訴したものと考えられます。
           ──[メタバースと日本経済/056]

≪画像および関連情報≫
 ●グローバルファウンドリーズがIBM提訴、「ラピダスと
  知財不法共有」
  ───────────────────────────
   [オークランド(米カリフォルニア州)19日ロイター]─
  米半導体受託生産大手グローバルファウンドリーズは19日
  トヨタ自動車やソニーグループなど日本企業8社が出資して
  設立した半導体メーカー、Rapidus(ラピダス)と知
  的所有権および営業秘密を不法に共有したとして、米IBM
  を提訴した。
   IBMとラピダスは2022年12月に提携を発表し、2
  ナノメートル(ナノは10億分の1)の半導体製造で協力し
  ている。グローバルファウンドリーズはまた、IBMが20
  21年に次世代半導体技術で協業すると発表したインテルに
  知的所有権を不法に開示し悪用したと主張。「IBMは、潜
  在的に数億ドルのライセンス収入やその他の利益を不当に受
  け取っている」とした。訴状によると、グローバルファウン
  ドリーズとIBMはニューヨーク州オールバニで数十年にわ
  たり共同で技術を開発。15年にその技術のライセンスと開
  示の独占権がグローバルファウンドリーズに売却された。グ
  ローバルファウンドリーズはIBMに対し、補償的損害賠償
  および懲罰的損害賠償のほか、営業秘密の使用を禁止する差
  し止め命令を求めている。またIBMがグローバルファウン
  ドリーズのエンジニアを採用する動きがラピダスとの提携発
  表から加速しているとし、こうしたリクルート活動の停止を
  命じるよう裁判所に求めた。IBMはロイター宛ての電子メ
  ールで「申し立てには全く根拠がない」と反論した。インテ
  ルはコメントを控えている。ラピダスは「コメントする立場
  にない」としている。      https://bit.ly/3H2I4jt
  ───────────────────────────
4ナノメートルまで微細化された半導体チップ.jpg
4ナノメートルまで微細化された半導体チップ
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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