2023年04月24日

●「GFがIBM提訴/ラピダスに影響か」(第5939号)

EJを半月ぶりに復刊します。体力はまだ万全ではないものの
EJを復刊できるレベルに達したと考えています。3日間の新入
社員研修も無事に終了できています。
 今回のテーマにおいて、EJは、3月31日付の5937号ま
でお送りしています。半導体製造装置の規制のことを書いていま
したが、最新のニュースから入ることにします。いずれにしても
半導体に関する話です。
 4月19日のことです。米半導体受託製造大手企業であるグロ
ーバルファウンドリーズ(GF)が、IBMを提訴したのです。
日本の半導体ファンドリとして新設したラピダスはIBMと提携
を結んでおり、ラピダスに影響が及ぶ恐れがあります。これにつ
いて、4月20日の日本経済新聞は次のように報道しています。
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【シリコンバレー=渡辺直樹】米半導体受託製造大手のグローバ
ルファウンドリーズ(GF)は19日、知的財産と企業秘密を不
正に利用したとして米IBMを提訴したと発表した。GFは20
15年にIBMの半導体部門を買収したが、IBMが、その後も
提携する日本のラピダスと米インテルに技術を開示したとしてい
る。日本の先端半導体戦略に影響が及ぶ可能性がある。
 米ニューヨーク州の南部地区の連邦裁判所に提訴した。GFは
IBMが部門をすでに売却したにもかかわらず、知的財産と企業
秘密をラピダスなどの提携企業に開示し、「IBMが数億ドルの
ライセンス収入やその他の利益を不当に受け取っている」と主張
している。日本経済新聞はIBMにコメントを求めたが返答がな
かった。同日の決算会見でも訴訟について言及しなかった。ラピ
ダスの広報担当者は「コメントする立場にない」と話し、インテ
ルもこの件についてコメントはないとした。
         ──2023年4月20日付、日本経済新聞
              https://s.nikkei.com/3H51mop
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 なぜ、米IBMはGFから提訴されたのでしょうか。
 これについて知るには、日本の半導体企業「ラピダス」がなぜ
誕生したかについて知る必要があります。ラピダスは、2022
年8月に設立されています。それも「ビヨンド・2ナノ」を目指
す本格的なファウンドリです。
 日本に本格的な半導体企業を設立することを一番望んでいたの
は米国政府です。米国としては、米中摩擦の緊張が高まるなかに
あって、地政学的に安全性の高い日本から先端半導体を調達した
かったからです。現在は台湾のTSMCに依存している状況です
が、その依存度がさらに高まるのは、地政学的にも好ましくない
と考えているのです。それに、日本はかつての半導体製造王国で
あり、そのDNAを持っていると米国は考えたのでしょう。
 米国政府と同じ思惑を米IBMも持っていたのです。IBMと
しては、スーパーコンピュータや量子コンピュータの開発に先端
プロセス半導体は欠かせないし、それによってTSMCへの依存
度がさらに高まることは経営戦略上も不安がある──IBMはこ
のように考えたのです。
 一方、米国政府から先端半導体工場設立の要望を受けた日本政
府と国内の半導体関連団体は揺れに揺れていたといいます。なぜ
なら、政府がこれはという企業に打診しても、先端半導体製造を
担おうとする企業が1社も現れなかったからです。それは、技術
的にも資金的にも高い壁があったからです。
 そういうときに、米IBM社から、2ナノ世代プロセスの製造
に必要な「GAA構造」という構造技術を提供するという提案が
きたのです。これを受けて、浮上したのは、既存の企業ではなく
新会社を設立するという考え方です。それは、ラピダスとLST
Cを設立するというアイデアです。LSTCとは、中央研究所機
能を担う半導体研究機関です。STCとは次の省略形です。
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  ◎LSTC/技術研究組合最先端半導体技術センター
   Leading-edge Semiconductor Technology Center
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 ところで「GAA構造」とは何かです。GAAは「ゲート・オ
ール・アラウンド」(Gate All Around) の省略形で、既存の設
計よりも性能と効率が大幅に向上し、多くの高性能製品の競争力
が変わる可能性があるといわれる半導体の技術です。このGAA
構造を巡って、インテル、サムスン電子、TSMCは、莫大な投
資を行い、技術を競っているのです。GAA構造をやさしく説明
するのは極めて困難なことですが、これは明日のEJ以降で概要
を説明することにします。
 「GAA構造技術を提供する」というIBMからの提案は、新
会社設立を模索していた関係者にとって大きな朗報であり、設立
への決断になったことは確かです。そして、ラピダス設立から4
カ月後の2022年12月、IBMと最先端の回路線幅2ナノメ
ートルの半導体製造で提携しています。そのIBMが、GAAを
含む技術権利の件で、そのGFから訴えられたのです。ラピダス
にとっては大事件です。
 このニュースについて朝日新聞デジタルは、次のように報道し
ています。
─────────────────────────────
◎「ラピダスに秘密を提供」──米半導体受託製造大手がIBM
 を提訴
 GFによると、IBMは、2015年に半導体事業をGFに売
却。GFは、その際、IBMと共同開発した技術の独占的な権利
を譲り受けたにもかかわらず、IBMが提携先のインテルやラピ
ダスに技術を提供し、数億ドルの収入を不正に得ていたと主張し
た。GF側は損害賠償や技術提供の差し止めを求めている。
                 ──朝日新聞デジタルより
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/055]

≪画像および関連情報≫
 ●存在感増すラピダス、2ナノ半導体量産へ打つ布石
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   回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)以下とい
  う世界最先端のロジック半導体の量産を目指すラピダス(東
  京都千代田区、小池淳義社長)が本格的に始動した。3月に
  は北海道千歳市に新工場の建設を決めたほか、ベルギーの世
  界的な次世代技術の研究機関imec(アイメック)と次世
  代半導体の微細加工に必要な極端紫外線(EUV)露光技術
  の開発で連携するなど着々と布石を打っている。
   「新工場は、顧客が望む最終製品に近い形で提供する最初
  のファブ(工場)にしたい。人工知能(AI)を駆使した完
  全自動のファブにするが、後工程でチップを3次元に重ねる
  3Dパッケージング(実装)技術も、融合することを検討す
  る」。4月19日、日刊工業新聞などの取材に応じた小池社
  長は千歳市に建設する新工場について試作ライン段階から、
  ウエハーに回路を形成する前工程だけでなく、ウエハーから
  半導体を切り分けてチップにする後工程も含め、一貫生産を
  する可能性があるとの考えをあらためて示した。こうした半
  導体工場は世界的にも例がない。
   小池社長は、「我々が供給する先端半導体を非常に速いス
  ピードで届けることで、それを使った企業が新たな価値や商
  品を生み出す、そういういい循環を期待している」とした上
  で、「サイクルタイムを極限まで短くするには(複数の半導
  体を一つのチップのように扱う)『チップレット』の技術が
  重要で前工程と後工程が融合しないと成果が刈り取れない」
  と指摘した。          https://bit.ly/3oy3bE4
  ───────────────────────────
ラピダス米IBMと提携.jpg
ラピダス米IBMと提携
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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