2007年08月01日

●米国にとって石油のドル表示は生命線(EJ第2134号)

 1970年代−−カーター大統領は自国の大きな貿易赤字を解
消するためドル安容認発言を繰り返したのです。その結果、アラ
ブの産油国の怒りを買い、石油のドル表示をSDR表示にするた
めの研究会を発足するという事態になったのです。
 この事態になってはじめてカーター政権は愕然とし、パニック
に近い状況に陥ったのです。これをやられるとドルは暴落し、経
済は破たんする−−カーター大統領は緊急対応として、当時ニュ
ーヨーク連銀総裁をしていたボルカー氏をFRB議長に抜擢し、
インフレ退治という名目で、短期金利を22%まで引き上げ、ド
ル防衛を行ったのです。
 これでアラブ産油国による石油のドル表示のSDR表示への転
換の動きはなんとか収まったのですが、そのかわりとんでもない
経済への後遺症を残してしまったのです。
 FRBが短期金利を22%に引き上げた結果、米国の貯蓄貸付
組合(S&L)は全滅してしまう事態になります。それもそのは
ず、当時のS&Lの資産は30年固定ローンであり、その利回り
は約10%だったのです。それまでは短期金利は7%前後であり
利益が出ていたのです。しかし調達サイドの金利が7%から22
%に急騰してしまったので、すべてのS&Lは債務超過に陥り、
破綻してしまったのです。今でも米国はこのときの失敗を教訓と
して持っているといわれます。
 しかし、米国の貿易赤字問題の解決は不可避なのです。そこで
貿易黒字国に対して内需拡大策を求めてきているのですが、一向
に進展がないのです。
 それはなぜなのかというと、内需拡大策を進めるにはどうして
も財政出動が必要であるからです。しかし、ドイツや日本をはじ
めとする貿易黒字国には今まで見てきたように財政政策を使うこ
とを封印するムードがあるのです。「こんなに財政赤字を抱えて
いるのに財政出動なんてとんでもない」−−そういう空気ができ
てしまっているからです。
 既出の大阪学院大学経済学部教授の丹羽春喜氏は、その著書の
中で、これは「反ケインズ主義」の思想的大攻勢の成功であると
して次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1970年代以降、「新古典派」理論を中核とした新自由主義
 と称する「反ケインズ主義」の思想的大攻勢がはじまったので
 ある。これは単なる経済理論の域を越え、従来のマルクス主義
 に代って、一つのアグレッシブな巨大イデオロギーと化してし
 まっていると言ってよい。そのような反ケインズ主義の思想攻
 勢は、しばしば、新自由主義とマルクス主義的な左翼陣営との
 共同戦線のような形で、行われるようになってきた。
 −−丹羽春喜著、『謀略の思想「反ケインズ」主義/誰が日本
            経済をダメにしたか』より。展転社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この丹羽春喜教授の説はとても興味深く納得性があるので、い
ずれEJの新しいタイトルとして取り上げる予定です。
 リチャード・クー氏のいうように、経済が「陰」の局面にある
ときは金融政策、「陽」の局面にあるときは財政政策というよう
に経済政策を使いわけるべきなのですが、財政政策だけが制限さ
れたり、ムード的に使いにくくなっているというのは問題です。
 クー氏によると、現在日米独と中国の経済は、次の位置にある
と述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ≪バブル発生≫
   「陰の第1段階」
   「陰の第2段階」
   「陰の第3段階」 ドイツ
   「陰の第4段階」 日本 米国
  ≪不況の終焉≫
   「陽の第1段階」
   「陽の第2段階」
   「陽の第3段階」 中国
   「陽の第4段階」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 クー氏の分析では、日本は既に多くの企業でバランスシートの
修復が終わっており、「陰の第4段階」に入ったところにきてい
るとしています。
 米国は、2000年のITバブルの崩壊のダメージは限定的で
あったので、2003年末には企業のバランスシートは修復され
日本と同様に「陰の第4段階」にいると考えられます。
 しかし、米国の場合、現在進行中の住宅バブルの崩壊の状況い
かんでは「陰の第3段階」か、悪くすると「陰の第2段階」に戻
りかねない不安定さがあります。
 それでは、ドイツはどうでしょうか。
 ドイツの場合は、2000年のITバブルに大きくのめり込ん
でしまっており、バランスシートの修復に時間がかかっていると
考えられるのです。したがって、現在ドイツ経済は「陰の第3段
階」にあると考えられます。
 このように米日独の3大経済大国の経済がいずれも「陰」の局
面にある中で、中国だけが「陽」の局面にあると考えられます。
中国は巨額の経常黒字を出していることからわかるように資本を
輸出しています。
 世界3大経済が「陰」の局面にあるということは、資金需要が
低迷していることを意味しています。それに加えて「陽」の局面
の中国が資本輸出国になっている−−これは世界的に資金があふ
れているということであり、世界的に低金利が続いている原因と
なっています。
 このように世界経済を見ていくと、今まで見えなかったことが
見えてくるはずです。そういう意味でバランスシート不況論は経
済学の革命といえます。   −−[日本経済回復の謎/44]


≪画像および関連情報≫
 ・世界的な国際収支の不均衡/竹森俊平氏
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  資本は先進国から発展途上国に輸出されるという「定型」に
  反して、東アジアなど貯蓄過剰な途上国から先進国への資本
  輸出が拡大している。先進国での家計貯蓄率の低下もこの傾
  向に拍車をかけており、日本も5年後には資本輸入国に転じ
  る可能性がある。
  http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/takemori/01.html
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ≪参考≫
  資本輸出国/2005
   日 本     ・・・ 14.2%
   中 国     ・・・ 13.7%
   ドイツ     ・・・  9.7%
   ロシア     ・・・  7.5%
   サウジアラビア ・・・  7.5%

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posted by 平野 浩 at 04:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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