カギを探っています。既に述べているように、2023年は日本
にとって経済復活の年になる可能性があります。好循環が働くと
日本は経済成長率でG7のトップになるといわれています。
現在、欧米はかなり激しいインフレに襲われ、なかなか脱出で
きないでいます。米FRBのパウエル議長は、縮小させるとみら
れていた利上げ幅を再加速させることを示唆しています。インフ
レが克服できないからです。
もちろん日本もインフレですが、そのレベルは欧米ほど深刻で
はなく、政府の政策次第で何とか抑えられるレベルにあります。
これは日銀の金融政策と無関係ではありません。それに加えて、
2023年は日本にとって経済を活性化させる要素が多い年とい
えます。そのひとつに製造業の国内回帰の傾向があります。とく
に、半導体の生産を国内でやろうという動きが加速しています。
TSMCの熊本工場の建設、「ビヨンド2ナノ」を目指す日の
丸半導体メーカー「ラピダス」の新設など、半導体を中心に動き
が急ピッチになっています。なお、「ラピダス」は、北海道・千
歳市に工場を建設することに決まっています。
ところで、なぜ、TSMCは、熊本に工場を新設することに同
意したのでしょうか。
それは、TSMCの最大のサプライヤーがソニーであるからで
す。そしてTSMCの最大の顧客がアップルであり、TSMC、
ソニー、アップルの3社の関係によって、TSMCが熊本に工場
を作ることになったのです。アップルのクックCEOは、早速熊
本工場を視察に訪れています。
さて、次世代半導体製造企業「ラピダス」は、果たして成功で
きるでしょうか。
その道が険しいことは確かですが、「ラピダス」にとって有利
なことは、ソフトバンクが投資陣に加わっていることです。なぜ
有利かというと、ソフトバンクは傘下に半導体設計大手のARM
を有しているからです。そのARMが現在、半導体の世界におい
て、革命を起こしつつあるのです。そのことについて、今書いて
いるわけです。
少し歴史をたどってみます。以下の記述は、既に部分的にご紹
介しているアーム株式会社社長の内海弦氏の2019年12月の
講演をベースにしています。
ARMの創立は1990年ですから、今年で創立33年になり
ます。本社は英国のケンブリッジにあります。ここはケンブリッ
ジ大学が有名ですが、かなり中心都市から離れていて、日本でい
うと、茨城県つくば市のような位置関係にあります。
従業員は約6000人程度であり、設計部隊と多少の営業マー
ケティング部隊がいるだけです。もちろん世界展開をしており、
米のシリコンバレー、米テキサツのオースティン、フランスのソ
フィア、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、台湾、中国
などに展開しています。
売上高は、約2000億円程度と小さく、設計専門のファブレ
スで、IP(Intellectual Property Rights)という知的所有権
だけを有しており、在庫、製造装置などを一切持っていない企業
です。当然知る人ぞ知る企業であって、ARMの名前が一躍有名
になったのは、2016年7月18日の次のニュースです。
─────────────────────────────
◎ソフトバンク、英・ARMホールディングス買収
ソフトバンクは18日、ARMホールディングス(イギリス)を
買収することで合意したと発表した。買収金額は、約240億ポ
ンド(約3兆3000億円)で、ソフトバンクはARM株1株に対
し、15日の終値(11・89ポンド)に、43%上乗せした、
17ポンドを支払う。 https://bit.ly/4269zl6
─────────────────────────────
昔から、半導体の製造というと、電気を使い放題使うという重
厚長大型のビジネスだったといえます。それに対してARMの半
導体設計は、なるべく電気を使わない省電力設計を目指しており
そういう意味で、軽薄短小型のビジネスです。
実は、この経営方針は、ARMの創業時からのもので、アップ
ル社がARMの中心株主だったことと関係があります。なぜ、米
国企業のアップルが、英国のARMのなぜ株主になったのかとい
うと、当時アップルは、「アップル・ニュートン」というPDA
(パーソナル・ディジタル・アシスタント/携帯情報端末)を開
発していたからです。
PCではなく、PDAのプロセッサということになると、電気
を大量に食うのは困るわけです。したがって、ARMの省電力設
計に期待して、株主になったものと思われます。ARMは、近い
将来、携帯電話がブームとなり、それによるデータ通信を行うよ
うになることを見据えて、省電力のプロセッサの設計に注力して
いたのです。
私は、アップルのニュートンという端末をよく知っています。
今にして思えば、アップルは、ニュートンというPDAを手掛け
ていたからこそ、後にアップルは、アイフォーンを誕生させるこ
とができたのだと思います。そういえば、ニュートンは、初期の
アイフォーンとそっくりです。
日本でいうと、3GのFOMAと、iモードの時代から携帯電
話でデータ通信ができるようになりましたが、そのときには既に
ARMのプロセッサが携帯電話に入っていたのです。そのときの
ARMの最大の得意先は、フィンランドのノキア──世界一の携
帯電話会社です。やがて、ウェブブラウジングが始まり、携帯電
話でウェブサイトが見られるようになると、携帯電話のPC化が
一挙に進むことになります。
この時代を一貫して支えてきたのが、ARMのプロセッサであ
り、小さなデバイスながら、やがて、複数個のARMのプロセッ
サが入るようになっていったのです。
──[メタバースと日本経済/041]
≪画像および関連情報≫
●アップルの革新的製品なぜ失敗 「ニュートン」の不幸
───────────────────────────
ニュートンは、スティーブ・ジョブズをアップルから追い
出した当時の最高経営責任者(CEO)、ジョン・スカリー
が構想した商品です。
1990年代初頭、パソコン専業メーカーだったアップル
でしたが、野心的なスカリーは、パソコン市場だけに限定せ
ず、家電業界に参入できないか、という構想を持っていまし
た。アップルのヒットPC「マッキントッシュ」を手軽に持
ち運べるマルチメディア家電にできれば、一気に市場を支配
できる・・スカリーはそのような青写真を描いて、新製品の
開発を進めていたのです。
紆余(うよ)曲折を経て、92年5月、スカリーは「来年
初めには新世代の情報家電機器、ニュートンを発売する」と
宣言します。スカリーはその宣言の中で、PDA(パーソナ
ル・デジタル・アシスタント=個人用携帯情報端末)という
新たな造語を公開するとともに、この情報家電という領域で
やがて3兆ドルという巨大市場ができることを予言します。
この宣言は業界に大きな影響を与えました。「現在のパソ
コン市場の10倍の新市場を作る可能性がある」(「サンフ
ランシスコ・クロニクル」紙)と書かれたように、スカリー
の情報家電構想は、多くの人に新しい市場の到来を予感させ
るものだったのです。 https://bit.ly/3ZWAgXN
───────────────────────────
アップルのPDA/ニュートン


