2023年03月06日

●「第3極の位置づけを変えた米国」(第5919号)

 なぜ、突然コンピュータの話になったのかというと、日本初の
コンピュータが、国家プロジェクトである「TAC」ではなく、
富士写真フィルムという一企業の一部門に所属するたった1人の
エンジニアが、わずかな予算で組み立てた「FUJIC」であっ
たという事実を知っていただきたかったからです。なぜなら、そ
の事実を知っている日本人が非常に少ないからです。
 FUJICの完成時期は1956年です。世界初のコンピュー
タの「ENIAC」の完成からわずか10年後のことです。この
年の7月に発行された『経済白書』は日本の経済の状況について
次のように書いています。
─────────────────────────────
          もはや戦後ではない
                ──1956年「経済白書」
─────────────────────────────
 敗戦で疲弊した日本経済は1950年の朝鮮戦争の特需景気を
きっかけとして回復し、戦前の水準を上回るほどになっていたの
です。白書では、日本経済は復興の段階を過ぎ、成長の原動力を
技術革新を求める段階に入っていると書いています。当時の日本
は先進国から大きく遅れていた電子技術の壁を超える勢いという
ものがあったのです。
 しかし、現在の日本はどうでしょうか。国に勢いというものが
ありません。2023年3月3日付の朝日新聞には、次のような
ショッキングな記事が掲載されています。
─────────────────────────────
◎先端技術 中国が米国圧倒
 オーストラリアのシンクタンク、豪戦略政策研究所/ASPI
は2日、経済や社会、安全保障などの基盤となる先端技術の国別
ランキングを公表した。8割以上の項目で中国が1位で、ASP
Iは中国が、「これまでの認識以上に多くの分野で先を行ってい
る」と指摘した。  ──2023年3月3日付の朝日新聞より
                  https://bit.ly/3y9007g
─────────────────────────────
 この記事において、中国と米国以外の国で5位以内に入った項
目数は次の通りです。
─────────────────────────────
        英国・インド ・・ 29
            韓国 ・・ 20
           ドイツ ・・ 17
       オーストラリア ・・  9
          イタリア ・・  7
           イラン ・・  6
        カナダ・日本 ・・  4
─────────────────────────────
 日本について、東大先端科学技術研究センターの井形彬・特任
講師(経済安全保障)は、「2軍でも3軍でもなく4軍との結果
は衝撃。守るべき技術がなくなっているということだ。資産や技
術の『集中と選択』を改めて考えるべきだ」と述べています。
 このところ米国の中国に対する姿勢が一段と厳しくなっている
ように感じます。それは、米連邦議会下院を共和党が制したこと
にも関係があります。
 米連邦議会下院の外交委員会は、3月1日、中国発の動画共有
アプリ「ティックトック」の米国内での一般利用を禁ずる法案を
可決しています。その採決は「賛成24/反対16}だったので
す。これまでは、政府機関などの利用の禁止であったものが、一
般利用の禁止であり、影響はきわめて大きなものがあります。
 しかし、この法案が成立するには、下院本会議での可決と上院
の審議・可決が必要であり、成立するかどうかは、現時点ではわ
からないものの、ティックトックの一般利用が制限されると、米
国国内に止まらず、日本をはじめとする西側同盟国にも大きな影
響を及ぼすことになります。
 どうしてこうなったかというと、ロシアによるウクライナ侵攻
によって、米国の中国に対する位置づけが変化したからです。ウ
クライナ侵攻前は、世界は、米国を中心とする自由体制(西側)
と、ロシアなどをはじめとする強権体制(東側)、そして、その
中間に位置し、西側との貿易、投資を通じて経済大国になりつつ
ある中国とインドなどの第3極が存在していたのです。
 西側諸国としては、その第3極をどのように位置づけるか、自
国の発展のカギを握っているといえます。その対応については、
次の3つが考えられます。
─────────────────────────────
         @敵国として位置づける
         A 警戒が必要な第3極
         B警戒が必要ない第3極
─────────────────────────────
 米国と米国企業は、ロシアのウクライナ侵攻前までは、中国を
Bの「警戒が必要ない第3極」として位置づけていたのです。少
なくとも米民主党、バイデン政権はそうです。だからこそ、アッ
プルは、最先端の主力生産拠点を中国の「アイフォーンシティ」
に長年かけて築いてきたのです。
 しかし、ウクライナ危機が起きると、米国は中国の位置づけを
BからA「警戒が必要な第3極」に切り替えて、バイデン政権は
「半導体支援法」を成立させるとともに、「人工知能(AI)と
スーパーコンピュータ」向けの半導体技術の中国への輸出禁止を
打ち出しています。
 これによって、日本を含めた中国とのビジネス関係の深い国々
は、早急な見直しと、対応を迫られています。前トランプ政権は
中国を@の「敵国」とみなし、中国の経済弱体化に向けて、無秩
序に中国製品に追加関税をかけましたが、この関税はバイデン政
権でも撤廃されていないのです。
           ──[メタバースと日本経済/035]

≪画像および関連情報≫
 ●米中新冷戦下の世界とは?
  ───────────────────────────
   第二次世界大戦後の世界は、米国を盟主とする自由民主主
  義陣営とソビエト連邦(ソ連)を盟主とする社会主義陣営に
  分断された世界だった。それが1990年前後に米国を盟主
  とする自由民主主義陣営の勝利で終結すると、世界一の経済
  力・軍事力・情報力・科学技術力を有する米国が唯一の超大
  国として、国際秩序の在り方を決めるパクス・アメリカーナ
  の時代に入った。そして世界経済はひとつに統合されてグロ
  ーバリゼーションが加速することとなった。
   それから30年余りを経たいま、パクス・アメリカーナの
  世界を脅かす国が出現した。グローバリゼーションで経済力
  を飛躍的に向上させた中国である。中国の国内総生産(GD
  P)はおよそ17・5兆ドルと米国経済の4分の3の規模に
  達し、世界第2位の経済大国となった。購買力でみた国際ド
  ルではおよそ27兆ドルと米国の1・2倍に達している。軍
  事面においても米国を脅かす存在となりつつある。世界各国
  の軍事力に関する評価を公表している、グローバル・ファイ
  ヤーパワーによれば、第1位は米国、第2位はロシア、そし
  て中国は第3位となっている。安全保障を考える上でカギを
  握る情報戦においても、中国は北斗衛星導航系統という独自
  の衛星測位システムを整え、米国がGPSを使う情報戦にお
  いても対抗できる体制を築こうとしている。
                  https://bit.ly/3YeQavq
  ───────────────────────────
ティックトックの一般利用の禁止?.jpg
ティックトックの一般利用の禁止?
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。