攻に踏み切った日です。それから約1年が経過しようとしていま
す。ロシアが特別軍事作戦と呼称する”戦争”は、まだ終結する
どころか、ますます激しくなっています。
この1年で日本には大きな変化が起きつつあります。これにつ
いては、添付ファイルを参照してください。このグラフは次の2
つのことを示しています。
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@2022年1月〜12月のドル円相場の推移
A2022年度の製造業の設備投資額の伸び率
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@は「2022年1月〜12月のドル円相場の推移」です。
こういう危機になると、これまでであれば、円は買われる傾向
にあったのですが、今回の危機では、ドル高が一気に進み、3月
頃から円安の傾向が顕著になり、一時は「1ドル=150円」を
付けるなど、約32年ぶりの円安水準になっています。
Aは「2022年度の製造業の設備投資額の伸び率」です。
正確にいうと、2022年度の製造業の設備投資額の前年比伸
び率を示したものです。以下に数字を書き出してみます。
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2022年 3月 ・・ 9・0%
2022年 6月 ・・ 20・5%
2022年 9月 ・・ 21・2%
2022年12月 ・・ 20・3%
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現在、日本企業の設備投資意欲が増加しています。22年度の
製造業による設備投資の計画額は、2022年6月以降、20%
増加しています。その中心にあるのは、海外ではなく、国内への
投資です。一体何が起きたのでしょうか。
1つは円安傾向です。2021年の始めは、1ドル=100円
強だったのですが、ウクライナ危機が起きると、1ドル=120
円を超え、秋までに1ドル=150円まで駆け上がるのです。
思えば、日本企業の海外生産は、90年代以降の急激な円高を
背景に急進展しています。日本の有力メーカーは、円高でも利益
が出せる生産体制を求めて、中国をはじめ、東南アジア、そして
欧米へと海外生産を拡大させてきたのです。
しかし、今その海外生産の潮流に変化が生じています。円安に
なると、日本国内での生産に優位が生まれ、海外からの輸入は割
高となり、デメリットを発生させる恐れがあります。問題は、今
回の円安が一時的なものかどうかの見極めです。なぜなら、円安
傾向になったからといって、国内生産に回帰して、また円高にな
るリスクもあるからです。
こう1つは国際情勢の変化があります。米中対立の激化による
世界経済の分断の動きです。米国による対中国制裁関税の影響は
脱中国を加速させています。さらにそれにウクライナ危機が加わ
り、経済安全保障の面でも過度の海外依存は、有事のさいに国民
生活を脅かすリスクになり、国内回帰の必要性が高まりつつある
のが現状といえます。
このような情勢変化を受けて、すでに多くの日本の有力メーカ
ーが海外生産を減らし、国内回帰に向けて、実際に行動を起こし
ています。その具体的な例を以下に示します。
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◎半導体大手のルネサスエレクトロニクスは、5月に電気自動車
(EV)向けに需要が拡大するパワー半導体の生産能力増強を
発表。14年にいったん閉鎖した甲府工場を復活させることを
明らかにした。
◎SUBARUは、EV専用として約60年ぶりに国内新工場の
建設を決め、既存工場でのEV生産を含め約2500億円を投
資する方針である。
◎SMCは岩手県遠野工場(遠野市)のエリアを整備して、「遠
野サプライヤーパーク」を建設。サプライヤーを誘致し、生産
能力を拡大する計画である。
◎TDKは、秋田県にかほ市に電子部品の新たな生産拠点となる
「稲倉工場西サイト」を建設中で、秋田地区の電子部品の生産
拠点強化を進めている。
◎セイコーエプソンは、水平多関節(スカラ)ロボットの生産能
力を25年度までに、国内で20年度比で5倍に高める方針で
あることも伝わっている。米国輸出時の対中制裁関税の影響を
避けるため、国内での生産能力を増強する意向があるとみられ
ている。 https://bit.ly/3jWlMrt
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今回の動きのきっかけになったと思われるのは、先端半導体の
量産で世界一の台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県での新工
場建設です。日本政府は数千億円規模の支援をするというかたち
での国策誘致であり、これが、日本への設備投資回帰の呼び水に
なったといえます。
岸田首相は、2022年10月の所信表明演説で、TSMCの
熊本工場について、次のように述べています。
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大きな経済効果・雇用創出が見込まれ、経済安全保障の要とな
る半導体には、今後とくに力を入れる。この分野に官民の投資を
集める。 ──岸田首相
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TSMC熊本工場は、敷地面積約21ヘクタール(東京ドーム
約4・5個分)もあり、2024年末までに稼働予定とされてい
ます。TSMC子会社には、ソニーグループやデンソーも出資し
ており、その投資額は総額86億ドル(約1兆1000億円)で
あり、同工場の雇用予定者は1700人を見込んでいます。まさ
に日本は大きく変化しようとしています。
──[メタバースと日本経済/024]
≪画像および関連情報≫
●製造業、国内回帰相次ぐ 円安で輸出強化の動きも
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製造業の間で生産の「国内回帰」が相次いでいる。新型コ
ロナウイルスや米中貿易摩擦などで混乱したサプライチェー
ン(供給網)見直しの一環だが、急速な円安を踏まえ、輸出
競争力の強化をにらんだ動きも出てきた。海外移転を進めて
きた製造業にとって、歴史的な円安は大きな転機となる可能
性もある。
生活用品メーカーのアイリスオーヤマ(仙台市)は9月以
降、衣装ケースなど約50種類のプラスチック製品の生産を
中国から国内の複数工場に移し始めた。原油高で日本への輸
送費用が膨らんでおり、「国内生産への切り替えでコストを
平均2割削減できる」(同社)という。
アパレル大手のワールドは、岡山県の工場などで生産能力
を増強し、百貨店向け製品の国内生産比率を4割から9割に
高める。コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)で、海外か
らの輸入が滞ったためだ。JVCケンウッドは、カーナビの
製造をインドネシアや中国から日本に移し、長野県伊那市に
ある工場の生産規模を5倍に増やす。
これらは国内販売分を国内で生産する取り組みだが、日立
製作所の子会社は冷蔵庫などの白物家電に関し、国内生産に
占める輸出の割合を来年3月までに従来の2倍の10%に引
き上げる方針だ。円安は海外での価格競争力強化につながり
企業収益へのメリットも大きい。政府も月内に策定する経済
対策に、円安を生かして事業展開する企業への支援策を盛り
込む考えだ。 https://bit.ly/3JZ8SDP
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●グラフの出典/日経ビジネス/02.13
円安の進行と企業の設備投資意欲