2023年02月14日

●「植田新総裁への内外専門家の評価」(第5906号)

 政府が植田日銀新総裁を決めたことに対しての国内だけでなく
世界の反響について、もう少し探ることにします。このEJは、
12日(日)に書いていますが、11日は土曜日と建国記念日が
重なっているので祝日であり、夕刊は休刊です。おまけに13日
の月曜日は新聞休刊日ですべての新聞が休刊です。肝心な時に新
聞はきちんと報道できないのです。全新聞が休む新聞休刊日は廃
止すべきです。
 実は、経済専門紙の日経が大チョンボを冒しています。日経は
6日の夕刊、7日朝刊において「日銀新総裁雨宮氏に打診」とい
うスクープを放っていますが、これが大間違いだったことです。
しかし、10日になると、「総裁に植田氏」の報道が一斉に流れ
雨宮副総裁説は一掃されています。これは、官邸からのリークで
あると思われます。
 実は読売新聞の解説によると、新日銀総裁の人選は首相、木原
官房副長官らが、水面下で折衝を重ね、1月下旬には、植田和男
氏の起用が固まったとあるので、2月7日の日経の大スクープは
まさに大間違いだったことになります。読売新聞は、どうして何
でも知っているのでしょうか。
 10日夕方に政府が植田氏を日銀新総裁に起用するとの人事を
固めたという報道が流れると、長期金利(10年物国債の金利)
は上限の0・5%まで上昇し、円相場は「1ドル=129円台」
まで円高が進みましたが、植田氏が「当面金融緩和を継続する」
と発言すると、131円台まで円が売られています。
 植田氏にはこのようなエピソードがあります。2000年8月
こと。植田氏は日銀審議委員をしていましたが、当時日本経済は
バブルが崩壊し、デフレで苦しんでいたのです。その8月の金融
政策決定会合で、「ゼロ金利を解除して利上げをする」という案
に植田氏は、審議委員として反対投票を投じています。
 そのとき、反対したのはたったの2人で、ゼロ金利政策の解除
は賛成多数で決まっています。しかし、その後、国内景気は一層
悪化し、利上げの決定は日銀の拙速であったとの批判が数多く出
されています。景気の動向を見極めないで、利上げをするとこう
いうことが起きるのです。今回もそれに似ています。
 植田日銀新総裁について、日本をよく知る海外のストラテジス
トの評価を拾ってみます。ストラテジストとは、経済動向などを
分析し、投資に関するストラテジー(Strategy=戦略)や方針を
立案する専門家のことです。
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◎バンダ・リサーチ/ビラジ・バテル氏(ロンドン在勤)
 これは私の臆測に過ぎないが、雨宮氏が就任を辞退したという
ことは、ハト派でイールドカーブコントロール支持者と見なされ
る同氏と岸田政権との間に明らかな緊張があるということではな
いか。結論として、市場は「クロダノミクス・アベノミクス」か
ら離れた新たな日銀の政策枠組みの確率が高まったことを織り込
まなければならないだろう。これは究極的に円にプラスだ。
◎ノルディア銀行/ヤン・フォンヘリッヒ氏(ヘルシンキ在勤)
 植田氏の下では、少なくとも雨宮氏の場合よりは政策修正の可
能性が高いと市場は考えている。しかし見通しは、数カ月前や日
銀が、10年物国債の許容変動幅を拡大した時に比べ、はるかに
不透明である。
◎CIBC/ジェレミー・ストレッチ氏(ロンドン在勤)
 植田氏は次期日銀総裁の有力候補の中には入っていなかったが
1998〜2005年に日銀審議委員を務めた経歴から、明らか
にある程度の信頼性がある。雨宮氏が起用されるとの観測がかね
てからあり、同氏は路線継続のための候補で、アベノミクスを延
長すると見なされていた。従って、雨宮氏以外の誰であっても政
策正常化を進める確率は比較的高いと考えられ、米国債と日本国
債の利回り格差縮小を促し、円高には寛容になるだろう。
 註:CIBC/カナディアン・インペリアル・バンク・オブ・
   コマース           https://bit.ly/3IhyABX
─────────────────────────────
 続いて、植田和男氏について、日本の専門家の評価はどうなっ
ているでしょうか。
─────────────────────────────
◎三菱UFJ銀行の関戸孝洋氏
 どれ程の難局が待ち受けているか、大げさに言っても言い切れ
ない。日銀は過去10年で相当のことをしてきた。政策も非常に
複雑になった。わずかな政策修正でも多くの市場が影響を受ける
だろう。
◎クレディ・アグリコル証券の会田卓司氏
 植田体制でも日銀が2023年中に金融引き締めに転じること
はないとの従来の予想を変えていない。新執行部の下、日銀が現
行の金融政策の点検・検証を行うとしても、金融緩和効果の持続
性を維持するための手段が議論となり、必ずしも金融引き締めに
つながるものにはならない可能性が高い。
◎元日銀審議委員/野村総合研究所の木内登英氏
 植田氏は、黒田氏の政策姿勢とは距離を置いている。慎重かつ
緩やかに金融緩和の枠組みの見直し、金融政策の正常化を進めて
いくだろう。
◎東短リサーチの加藤出氏
 例えば、米景気が悪化して利下げが視野に入ってくるような状
況になれば、政策の変更を見送るなどの柔軟性を持つ人である。
─────────────────────────────
 以上の専門家の意見を総合すれば、植田和男新日銀総裁は、黒
田政策を急激に変更することはなく、当面は金融緩和を継続しな
がら、じっくりと状況を見極めて、少しずつ政策を変更していく
人のように考えられます。リフレ派とか、構造改革派のように、
「何とか派」というくくり方に当てはまらない人であり、現総裁
を引き継ぐ人材としては最適の人といえます。
           ──[メタバースと日本経済/022]

≪画像および関連情報≫
 ●首相が日銀総裁起用意向の植田氏“現状は金融緩和継続
  が重要”
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   こと4月で任期が切れる日銀の黒田総裁の後任に、岸田総
  理大臣は、日銀の元審議委員で経済学者の植田和男氏を起用
  する意向を固めました。
   植田氏は10日夜、都内で記者団に対し後任の日銀総裁へ
  の起用について「現時点では何も申し上げられません」と述
  べました。一方で今の日銀の大規模な金融緩和については、
  「金融政策は景気と物価の現状と見通しにもとづいて運営し
  なければいけない。そうした観点から現在の日本銀行の政策
  は適切であると思います。現状では金融緩和の継続が必要で
  あると考えています」と述べました。
   在任日数が歴代最長となっている日銀の黒田総裁は、今の
  2期目の任期が4月8日に満了を迎えることから岸田総理大
  臣は、後任人事の検討を進めてきました。そして、日銀の元
  審議委員で経済学者の植田和男氏を起用する意向を固め与党
  幹部らに伝えました。
   岸田総理大臣としては、植田氏が、日銀の政策運営に深く
  関わった経験があることに加え、経済や金融をめぐる幅広い
  研究実績を重視したものと見られます。日銀総裁の交代は、
  10年ぶりで、新たな総裁は、ひずみも指摘されている「異
  次元の金融緩和」の「出口戦略」をどう描くかといった難し
  い課題に取り組むことになります。
                  https://bit.ly/3jOxEvJ
  ───────────────────────────
植田和男氏.jpg
植田和男氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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