2023年02月07日

●「日銀保有国債は政府債務と相殺される」(第5901号)

 知識を整理して先に進みます。政府の借金である国債の残高は
2022年末には1029兆円に上るとみられています。この額
は、国の経済規模(GDP)の2倍を超えており、主要先進国の
中で最も高い水準にあります。
 しかし、この国債残高の半分の約500兆円は日銀が保有して
います。これは、2012年から発足した安倍政権が、日銀と連
携して2020年9月まで推し進めてきた経済政策「アベノミク
ス」の結果であるといえます。
 この日銀の保有する国債約500兆円について、2つの意見が
あります。
─────────────────────────────
    @政府の借金である国債の半分はなくなっている
    A中央銀行による過大な国債保有はリスクがある
─────────────────────────────
 @の根拠は、日銀は政府の子会社であり、政府と中央銀行を合
わせた統合政府バランシートで見れば、政府の国債残高の約半分
は相殺されるという考え方です。
 Aの根拠は、中央銀行が国債の約半分を引き受けても、それは
統合政府バランシート上で負債に計上され、それは、日銀にリス
クをもたらすという考え方です。
 大量に国債を引き受けたことによる中央銀行(日銀)のリスク
について考えてみます。リスクの1つに「日銀が大損をする」リ
スクがあるといいます。
 日銀は金融機関から高値で国債を買っていますが、景気が良く
なると、国債価格は下落します。景気が回復したので、日銀が、
金融緩和策から金融引き締め策へと転ずると、日銀には逆ザヤと
なって巨額の損失が生じます。だから、中央銀行が国債を買うこ
とには強い批判があるのです。
 これに関して、米国の中央銀行であるFRB元議長のベン・バ
ーナンキ氏が、来日したとき、日銀関係者などから、日銀のリス
クについて質問があったのですが、そのとき、バーナンキ元FR
B議長は、次のように答えています。
─────────────────────────────
 日銀資産の評価損は政府資産の評価益だから問題はない。もし
気にするなら、政府と日銀の間で損失補填契約を結べはいい。
             ──ベン・バーナンキ元FRB議長
                 ──高橋洋一著/あさ出版
    『新・国債の真実/99%の日本人がわかっていない』
─────────────────────────────
 それでは、日銀はどのようにして、国債を入手したのでしょう
か。国債は民間金融機関が保有しているので、日銀は各金融機関
が日銀に対して設定している日銀当座預金に代金を振り込んで国
債を入手しています。
 この場合、政府債務である国債は、当座預金ということになっ
ていますが、投資家は貨幣そのものと認識します。つまり、国債
は貨幣に置き換わっただけです。したがって、統合政府バランシ
ート上では、国債は「資産」に、貨幣や当座預金は「負債」に記
載されます。つまり、国債を貨幣化したに過ぎず、実際としては
それ以上でもそれ以下でもありません。
 これをめぐって、経済学者の高橋洋一氏と田中秀明明治大学教
授が「日銀の当座預金に債務性はあるかないか」というかなりテ
クニカルな論争を繰り広げています。この論争について、経済評
論家の加谷珪一氏は、2016年の時点で、次のように論評して
います。
─────────────────────────────
 高橋氏が主張するように、政府と日銀のバランスシートを統合
すれば政府がもつ負債900兆円のうち、日銀が保有する400
兆円分の国債は相殺され、政府の負債は実質的に500兆円に減
少する。理屈上は、政府が持つ負債をすべて日銀が買い取れば、
政府の借金をゼロにすることも可能だ。
 では、消えてしまった借金はどこに行ったのだろうか。それは
日銀当座預金ということになる。日銀は400兆円の国債を保有
する代わりに、同じ金額分の通貨(日本銀行券と当座預金)を発
行しているので、この会計上の操作は、政府債務を貨幣化したこ
とにほかならない。簡単に言ってしまえば輪転機を回して借金分
だけお札を印刷したというわけだ。
 ここで両氏は、当座預金の債務性について論争を繰り広げてい
る。田中氏は、当座預金を帳消しにはできず、しかもこれを維持
するためには、相応の金利負担が必要であり、実質的に国債と変
わらないと主張。高橋氏は、原則として当座預金は無利息で償還
期限はないので、実質的な債務性はないと主張し、両氏の主張は
対立している。というよりも、両氏の主張はあまり噛み合ってい
ない。               https://bit.ly/3joJXPf
─────────────────────────────
 「日銀の当座預金に債務性はあるかないか」という議論はテク
ニカルで難しいですが、高橋洋一氏のいう通り、日銀当座預金は
一般的な意味での「債務」という解釈にはなりにくいと考えられ
ます。したがって、日銀が国債を買うということは、高橋氏のい
う通り、有償還・有利子の国債を無償還・無利子のマネタリーベ
ースに置き換えることを意味しているのです。
─────────────────────────────
 統合政府のバランスシートで考えるというのは、日銀が購入し
た有償還・有利子の国債が、無償還・無利子のマネタリーベース
と置き換えられることを意味する。このため統合政府のバランス
シートの負債は、負債側は国債等950兆円、日銀券100兆円
日銀当座預金300兆円となるが、マネタリーベースの400兆
円は実質的に負債から除いて考えてもいい。  ──高橋洋一氏
                  https://bit.ly/3jsXtkP
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/017]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀当座預金を民間銀行の「預金」と勘違いする人々へ
  高橋洋一氏
  ───────────────────────────
   この「ダイヤモンド・オンライン」(DOL)で興味深い
  論考があった。11月1日の田中秀明氏による「『日本は借
  金が巨額でも資産があるから大丈夫』という虚構」である。
  田中氏は財務官僚出身で、民主党政権時代にブレーンになっ
  ていた人だ。
   この記事は、2015年2月5日の筆者の「国の債務超過
  490兆円を意外と簡単に減らす方法」への反論だろう。こ
  れは、日銀のマネタリーベースには実質的な債務性がないこ
  とを使うと、統合政府ベースで実質的に国債はなくなること
  を書いたものだ。
   田中氏の論考は長く誤りが少なくないが、ここでは次の一
  点に絞っておこう。
   11月1日付けのDOLの論考で、《「統合政府ベースで
  日銀が保有する国債を相殺することができても、日銀に預け
  た民間の預金は負債として残り、統合ベースで見た場合に負
  債が減ることはない。もし、政府が強制的に負債の部から預
  金を落とし政府の負債を減らすというのであれば、それは国
  民から貯蓄を奪うことであり、言い換えれば、預金に対して
  100%の税率で課税することになる。先ほど連結のBSで
  説明した、日本郵政が保有している国債と同じことだ。」》
  と説明している。この記述は誤りである。
                  https://bit.ly/3XVhtvj
  ───────────────────────────
加谷珪一氏.jpg
加谷珪一氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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