会合で、次の発言をして、大騒ぎになったのを覚えているでしょ
うか。奇しくもその2か月後に、安倍首相は銃撃され、亡くなっ
ています。そのときの発言は次の通りです。
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政府の1000兆円の借金(国債)の半分は日銀に国債を買っ
てもらっている。しかし、日銀は政府の子会社なので、60年で
返済の満期が来たら、返さないで借り換えて構わない。心配する
必要はない。 ──安倍晋三元首相
https://s.nikkei.com/3JuOV7H
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この発言の趣旨は、日本政府は約1000兆円の借金(国債)
を抱えているが、政府の子会社である日本銀行(日銀)がその約
半分を買ってくれているので、財政破綻などを心配しなくてもよ
いということです。しかし、この安倍発言には、次の2つの問題
点があります。
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1.日本銀行は本当に政府の子会社であるかどうか
2.日本銀行が半分相当の国債を持つとなぜ安心か
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最初に「1」について考えます。
この安倍元首相の発言について、鈴木俊一財務相は次のように
明確に否定しています。2022年5月13日のことです。
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日銀は政府の子会社にはあたらない。政府は日銀に55%出資
しているものの、議決権を持たないことなどから、政府が経営を
支配している法人とは言えず、会社法でいうところの子会社には
あたらない。 ──鈴木俊一財務相
https://bit.ly/3Ds0hFI
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当の黒田総裁も安倍元首相の発言に対して、5月13日にオン
ラインで行った講演で次のように反論しています。
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日本銀行は、政府から過半の出資を受けているが、議決権が付
与されていないし、金融政策は、政策委員会が決定を行う仕組み
である。日本銀行の金融政策や業務運営は、日銀法により自主性
が認められていて、日本銀行は政府が経営を支配している法人で
はない。 ──黒田東彦日銀総裁
https://bit.ly/3RiN7jO
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安倍元首相の発言に対して、肯定的発言も多数あります。国民
民主党代表の玉木雄一郎氏は、ツイッターで次のコメントを発信
し、これに対して「アゴラ」を運営する経済学者、池田信夫氏は
玉木氏のツイートに関連して、次のコメントをしています。
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◎国民民主党代表玉木雄一郎氏
安倍元総理の「日銀は政府の子会社」発言に反発が出ているが
政府は日銀の株の55%保有しており、「統合政府」の考え方は
国際的にも常識。さらに財政法5条但書に基づき借換え債の直接
引受は行われている。その上で、一般的な直接引受は禁止されて
いるので、にわかに独立性が害されているわけではない。
◎池田信夫氏/「アゴラ」
野党では玉木さんだけが正確に理解している。「統合政府」で
考えるのは常識で、問題は「直接引き受け」を認めるかどうか。
今の日銀法では認めていないが、これも検討の余地がある。
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そして、極め付きは、やはり高橋洋一氏です。高橋洋一氏は、
5月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK!Cozy up!」 に出
演し、次のやり取りをしています。
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飯田:この発言に対して「日銀の独立性を脅かす発言だ」と一部
が報じています。
高橋:この件については私は昔から「マスコミが間違っている」
と言っているし、安倍さんは小泉政権のときに、副長官や幹事
長、官房長官をされていましたので、安倍さんには何回も説明し
たことがあります。
高橋:何が間違っているかと言うと、「独立性」という意味をマ
スコミが勘違いしているのです。「子会社としての独立性があ
る」ということですが、日々のオペレーションについては親会
社から指示は受けませんよね。指示を受けるのは、大きな方針
だけです。そういう意味での「独立性」ということです。これ
は元FRB議長のバーナンキさんも言っています。
飯田:FRBの議長だった方。
高橋:バーナンキさんが日本へ来たときに、日銀で講演したので
す。そのときに「どういう話をしたらいいか」と私に聞くので
「独立性の話について、日本の解釈は間違っています」と言っ
たら、彼はいま私が言ったようなことと同じような話をしてく
れたのです。しかし、マスコミの報道では、なぜかそこだけ落
ちていた。
飯田:報じられなかった。
高橋:そこだけすっぽり落ちていた。「ええ?」と思ったので、
FRBのホームページを確認したら、FRBのホームページに
は全部きちんと書いてありました。 https://bit.ly/3kRzlIS
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このように、政府や日銀は公式には「日銀は政府の子会社では
ない」と否定しているものの、「日銀の独立性」の解釈の違いで
あって、安倍元首相の発言は、間違いではないといえます。問題
は、「2」の国債の保有の問題ですが、これについては、明日の
EJで検討することにします。
──[メタバースと日本経済/014]
≪画像および関連情報≫
●「日銀は政府の子会社」/安倍氏発言は本音か?
焦りの表れか?
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「日銀は政府の子会社だ」。安倍晋三・元総理のこの発言
が大きな波紋を広げている。政府・日銀はこれを真っ向から
否定しているが、政府内では「安倍さんの本音が出た」と見
る向きも多い。
発言が飛び出したのは2022年5月9日、大分市で開か
れた会合だった。安倍氏は1000兆円の政府債務のうち、
半分は国債の形で日銀が購入しているとしたうえで「日銀は
政府の子会社なので満期が来たら、返さないで何回借り換え
てもかまわない。心配する必要はない」と解説してみせた。
安倍氏は2012年末に政権に返り咲くと、翌13年1月
に日銀に「物価目標2%」の導入を飲ませ、日銀にアベノミ
クスの一翼を担わせてきた。黒田東彦氏を総裁に据えたほか
副総裁、審議委員といった日銀の最高意思決定機関の人事も
任命権者とし牛耳り、日銀を事実上、政府の支配下に置いて
きた。
この間、空前の異次元の金融緩和を続けさせるなど、日銀
を「便利使い」してきたと言っても過言でない安倍氏として
は、「政府の子会社」発言に何の違和感も抱かなかったのか
もしれない。しかし、思わぬ批判が沸き起こった。「身内」
であるはずの政府・与党内からの猛批判にさらされているの
だ。「日本銀行は政府がその経営を支配している銀行とは言
えず、会社法でいうところの子会社にはあたらない」
https://bit.ly/3XRrOZ1
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「日銀は政府の子会社」発言の安倍元首相