2007年07月31日

●米政府がドル安容認発言をやめた理由(EJ第2133号)

 石油価格が急騰すると、米国金融当局はピタリとドル安容認発
言を封印しましたが、どうして封印したのでしょうか。実はこれ
には次の2つの理由があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.石油価格が上ると、ガソリンスタンドの小売価格も同じ比
   率で値上がりする。この状況でドル安容認発言をすると、
   ドルベースでみた石油価格は上ることになる。
 2.石油はドル表示であり、米国は自国通貨で石油を購入でき
   る。ドル安容認発言をすると、産油国の強い反発を招き、
   石油のドル表示をやめようとする動きが出る。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の理由について述べます。
 米国は石油に課されている税金が他の国に比べて非常に少ない
のです。ですから、石油価格が上がると、ガソリンスタンドの小
売価格はそのまま同じ比率で上がってしまうのです。日本やヨー
ロッパでも小売価格は上がりますが、即座に上がるとか、同じ比
率で上がることはないといえます。
 そういう状況において政策当局者がドル安容認発言をするとド
ルが下がり、ドル当たりの石油価格が上がることになる−−これ
は絶対に避けなければならないことなのです。
 第2の理由について述べます。
 米国は多額の貿易赤字を出しながら、まだ石油を海外から買え
るのは石油価格がドル表示だからです。貿易赤字国は国内に外貨
が乏しいわけですが、石油はドル表示なので、米国は自国通貨で
石油が買えるのです。米国にとってこれは生命線です。
 どうして、石油はドル表示−−正確にいうと「石油・ドル本位
制」になったのでしょうか。
 「石油・ドル本位制」は、米国と世界最大の産油国サウジアラ
ビアとの間に築かれている「密約」−−ワシントン・リヤド密約
によって成立しているのです。そして、その密約は次のような内
容だといわれています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ワシントンは、サウド王家に安全保障を提供する。リヤドは引
 き換えに、米国国益の増進を心がける。
 −−谷口智彦著、『通貨燃ゆ/円・ドル・ユーロの同時代史』
                     日本経済新聞社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この「リヤドは引き換えに米国国益の増進を心がける」という
部分によって実現したのが、「石油代金はドルでのみ受け取る」
というサウジの米国に対する約束なのです。
 現在では、アラブの産油国と米国との関係はイラク問題もあっ
て良くないのです。そんなときにドル安容認発言をすれば、石油
のドル表示をやめることに動きかねないのです。加えて、最近米
国の気に障ることを次々と行い、第2の冷戦かと緊張を高めてい
るロシアのプーチン大統領はロシア産油国の輸出はユーロ建てに
したいとはっきりいっているのです。この発言が飛び出したのは
2003年10月9日のプーチン大統領の次の発言です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 我々は、ロシア産油国の輸出をユーロ建てとする可能性を除外
 していない。ヨーロッパの貿易相手国は、それを面白いと思う
 のではないだろうか。
             −−ロシア・プーチン大統領の発言
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 おそらくこれほど米国を苛立たせた発言はないでしょう。なぜ
なら、その提案が経済合理性に合っており、EU諸国にはこれを
歓迎するムードが存在するからです。それと、このプーチン発言
はドイツと相談したうえで行われている可能性が高いからです。
 EUのなかで中心的役割を果たしているドイツは、ユーロをド
ルに代えて基軸通貨にしようとしています。そのドイツとロシア
は、前シュレーダー政権の時代から仲が良いのです。ですから、
プーチンの発言は明らかに米国を刺激し、ドイツに肩入れしよう
とする意思のあらわれといえます。
 もし、石油のドル表示が廃止され、ユーロ表示になったら米国
はどうなるでしょうか。
 リチャード・クー氏はこれについて、次のようにコメントして
いるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 アメリカはもともととんでもない赤字国だから、国内に外貨が
 乏しい。もしも石油がユーロ表示になったら、アメリカは自ら
 ドルを為替市場で売って、ユーロを調達し、そのユーロで石油
 を買わなければならない。そのような巨額なドル売りが出てく
 るということは、それこそドルが大暴落するシナリオになる。
 このような事態になったら、それこそ1ドル=50円か、40
 円になるかも知れない。このようなシナリオは、アメリカとし
 ては絶対に避けなければならない。 −−リチャード・クー著
     『「陰」と「陽」の経済学』 −−東洋経済新報社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 実はかつて米国はこの種の問題で大失敗をしたことがあるので
す。1970年後半のことです。当時はカーター大統領の時代で
したが、彼はこういう問題に無頓着であったのです。当時は第2
次オイルショックで石油価格が上がっていたのに、カーター大統
領は巨額な貿易赤字を解決しようとして、ドル安容認発言をやっ
てしまったのです。
 当時のアラブの産油国は、彼らの憎むべき敵国であるイスラエ
ルを支持する米国を快く思っていなかったのです。カーター大統
領の発言の結果、ドルはどんどん下がっていったので、アラブの
産油国は怒り、石油のドル表示をやめてSDR表示にしようとす
る動きが出てきたのです。SDRというのは、IMFの通貨なの
です。その結果がどういう事態になったかについては明日のEJ
で述べます。        −−[日本経済回復の謎/43]


≪画像および関連情報≫
 ・SDR――特別引出権
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ブレトン・ウッズの固定為替相場システムは、1960年代
  に困難に陥りました。世界貿易の拡大と金融発展をまかなう
  ために必要とされる準備資産の成長を調節するメカニズムが
  なかったことによります。当時、金と米ドルが2つの主要準
  備資産でしたが、金の生産は準備資産の供給源として不十分
  かつ信頼性を欠くものでした。また、米ドル準備資産の継続
  的増加によって米国の国際収支が絶えず赤字となり、そのこ
  と自体が米ドル価値への脅威となりました。こうしてIMF
  主導による新しい外貨準備資産の創設が決定されたのです。
   http://www.imf.org/external/np/exr/facts/jpn/sdrj.htm
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

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posted by 平野 浩 at 04:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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