2022年12月28日

●「メタバースとWeb3との関係」(第5884号)

 今回のテーマは「Web3/メタバース」ですが、Web3と
メタバースは基本的には関係がないのではないかと思います。な
ぜなら、Web3にならないと、メタバースが構築できないわけ
ではないからです。メタバース関連の本を何冊も読んでみました
が、既に述べたように、これらのテーマに関する本には、次の2
つのタイプがあります。
─────────────────────────────
       @Web3からの解明を試みる本
       Aメタバースから説明を試みる本
─────────────────────────────
 @のWeb3からメタバースの解明を進めると思われる本をい
くら読んでも、メタバースにはスムーズにつながってこないし、
GAFAMに代表されるビックテックの問題点ばかりが強調され
てしまうことになります。Web3になっても、ビックテックか
らの支配から逃れられるわけではないのです。
 Aのメタバースから入る本は、今度はWeb3がなかなか出て
こないし、まったく出てこない本もあります。だから、両者は関
係がないともいわれるのです。Web3が出てきても、とって付
けたような感じの解説でしかないのです。ここまで、60回にわ
たって書いてきたEJの今回のテーマの解説がまさにそれに当て
はまります。
 これについて、中央大学国際情報学部教授の岡嶋裕史氏は、次
のように述べています。
─────────────────────────────
 メタバースはどうだろう。これをWeb3にくっつけるのは、
流行りものをセットにする以上の意味はないと思う。
 メタバースはネット上に構築される仮想世界だが、これを構築
するのにこそ大組織、大資本が必要だ。利用者が満足するほどの
精度の「世界」を作り上げるには、莫大なお金と技術の蓄積と人
的資源がいる。
 だからAAAと呼ばれる水準のゲームは、その開発に数十億を
かけ、トツプクラスのクリエイタを引き抜き、それでも足りずに
建築物や山野河川などの背景を、AIで作ろうとしているのであ
る。たとえばロボロックスなどのメタバースで、「子どもたちが
自由な発想で仮想世界ならではのゲームを制作して自分を表現し
ている。主役は彼らだ」などと言われるが、ロボロックスこそ、
その主たるコンテンツはゲームであって、無償かそれに近い形で
子どもたちをその生産に従事させていると捉えることもできる。
 メタバースはその成り立ちからいっても、自然発生的なものに
はなり得ない。だからこそ、あまた数多のプレイヤが勝ち名乗り
を上げるためにメタバースに参入してしのぎを削り、先行者利得
を手にしようともがいているのである。その様子は「巨大IT企
業の支配から個人が解放されたWeb」からはかけ離れている。
                ──岡嶋裕史著/光文社新書
『Web3とは何か/NFT、ブロックチェーン、メタバース』
─────────────────────────────
 しかし、メタバースが、ひとつの経済圏として機能する場合は
そこに”お金”が必要になります。かつての「セカンドライフ」
では「リンデンドル」という独自通貨を使っていましたが、メタ
バースでは仮想通貨を使うことになります。Web3はブロック
チェーンという基盤技術の上に成り立っているので、その世界で
は仮想通貨が使えるのです。
 この場合、メタバースは、Web3という「次世代分散型イン
ターネット」を構成するさまざまな技術革新の「受け皿」のよう
な存在として機能することになります。つまり、メタバースが経
済圏を構築するさいに、はじめてWeb3と深く結び付くことに
なります。Web1からWeb2、Web2からWeb3への変
化は、整理すると、次のようになります。
─────────────────────────────
    Web1.0  ・・   見る → 一方通行
    Web2.0  ・・   書く →  双方向
    Web3.0  ・・ 参加する →   分散
─────────────────────────────
 このブロックチェーンとメタバースとの関連について、岡嶋裕
史氏は、さらに自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 メタバース自体は「閉じた系」であるから、その系の中で真正
性の確保や、永続性の担保のためにブロックチェーンを使うとい
う言い方はできる。
 でも、その系そのものがビックテックが作ったものであって、
当然その中で使われる仮想通貨もビックテックの手が入るであろ
うから、ブロックチェーンが使われていたとしても、あまり意味
がない。ありそうなシナリオとしては、
・メタバースについてはそこで住むような使い方をする(仕事や
 勉強もメタバース内で完結させる)から、現実世界とお金をリ
 ンクさせたい
・と同時に、あるメタバース内で稼いだお金を、複数のメタバー
 スでまたいで使えるようにもしたい
 これを満たす共通金融基盤をブロックチェーンで作ることだろ
う。ただ、同じしくみは個別の仮想通貨を相互接続する形でも作
れるし、それで使い勝手が悪ければそこから基軸通貨が出てくる
こともあるだろう。不正利用が心配なら第三者監査のしくみを入
れてもよい。
 逆に上記の仕様を満たすとなると、けつこうな数のトランザク
ション(取引)が発生するが、その量にブロックチェーンが耐え
られるかは疑問である。 岡嶋裕史著/光文社新書の前掲書より
─────────────────────────────
 2022年のEJは本日で終了とします。新年は、1月4日か
ら配信します。よいお年をお迎えください。
       ──[ウェブ3/メタバース/060/最終回]

≪画像および関連情報≫
 ●「本質的にWeb3とメタバースは相互に関連していない」
  :メタバース専門家 マシュー・ボール氏
  ───────────────────────────
   昨年マーク・ザッカーバーグが、フェイスブック――では
  なくメタが「メタバース企業」になる方向に旋回していると
  宣言した後、メタバースというコンセプトが、時代の潮流と
  なった。しかし、シリコンバレー内外の未来学者たちは、メ
  タバースの構築方法について、それよりもずっと以前から真
  剣に議論してきた。
   マシュー・ボール氏はそのような先見の明のある人の一人
  だ。ボール氏は、いくつかの有名なメディア企業やテクノロ
  ジー企業(最近ではアマゾンスタジオで、2016年から、
  2018年にかけて戦略部門の責任者を務めた)の役員を経
  て、現在はベンチャーファンド、エピリオン社のマネージン
  グパートナー、ならびにゲームおよびメタバース分野のベン
  チャーファンドや投資グループのパートナーおよびアドバイ
  ザーを務めている。
   ボール氏は「メタバース分野のリーダー」としても知られ
  ている。これは、このテーマについて彼が自分のドメインで
  発表してきた一連のエッセイの影響が大きい。これらのエッ
  セイは、近年になってメタバースが一般の人々の意識に浸透
  するのに貢献した。ワシントン・ポスト紙は2020年4月
  メタバースとゲーム業界を結び付けた重要なレポートのなか
  で同氏に言及している。そして中国の政府系メディアである
  セキュリティ・タイムズが2021年8月にメタバースの概
  念に反対する公式声明を出した際にも、同氏の研究を引用し
  ている。            https://bit.ly/3jtPrrq
  ───────────────────────────
メタバース経済圏.jpg
メタバース経済圏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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