フレが加速します。米国のIT業界では、コンシューマー向けの
ネットサービスの多くがその影響を受けて、深刻な不況に突入し
ています。なかでも、メタの場合は、GAFAMのなかでもとく
に経営に深刻な影響が出つつあります。
メタによるメタバース事業がうまくいくかどうかは、連続して
そこへの投資が続けられるかどうかにかかっています。そもそも
世の中が不況になると、広告を出す企業は減少するので、広告収
入が企業収益のほとんどを占めるメタにとっては、深刻な事態を
招くのです。
メタの経営が厳しくなっていることについては、12月13日
のEJでも述べていますが、インフレによる影響以外でもメタに
とっては、経営を圧迫する要因があります。整理すると、次の4
つになります。4つの要因について以下に簡単に説明します。
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@フェイスブックのブランド価値が下落している
Aターゲッティング広告が出しにくくなったこと
B同種ライバル企業との競合が厳しくなったこと
CインフレでHMDの大幅値上げが不可避である
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@の「フェイスブックのブランド価値が下落している」ことに
ついては、同社の個人情報の扱いをめぐってさまざまな問題が噴
出したことです。これは、後を引く問題であり、メタバース事業
にも良くない影響を与えることは必至です。
Aの「ターゲッティング広告が出しにくくなったこと」につい
ては、アップルがプライバシーを重視して導入したATTに原因
があります。ATTとはApp Tracking Transparrency の省略語
で、iOS版アプリがユーザーの個人データを取得するさいに、
事前に本人から許可を得ることを義務付けるものです。
Bの「同種ライバル企業との競合が厳しくなったこと」につい
ては、文字中心のSNSが人気を失いつつあるなかで、画像中心
のインスタグラムがティックトックに押されており、メタの広告
収入に影響を与えています。
Cの「インフレでHMDの大幅値上げが不可避である」ことに
ついては、メタの唯一のハードウェアである「メタクエスト2」
の製造・出荷コストの上昇で値上げをせざるを得なかったことで
す。米国では、299ドルからだった製品が、399ドルからと
100ドルの値上げ、日本の場合は、円安の影響もあり、ストレ
ージ容量128GBモデルが3万7180円だったものが、5万
9400円、ストレージ容量が256GBモデルでは、4万92
80円だったものが7万4400円という大幅値上げです。
「メタクエスト2/Meta Quest 2」は、2022年9月の時点
では、メタの最新のHMDです。このHMDは、それまで全世界
で約1600万台売れていたとみられます。もちろん、この程度
の台数ではまだ赤字ですが、ゲーム機としてみた場合、ソフトが
ヒットすることで収益が大きくなるギリギリの数であるといわれ
ています。もっと売り上げを伸ばす必要があるのです。
しかし、インフレによる大幅値上げで、売れ行きは相当ダメー
ジを受けると思われます。売れ行きに影響を与えるのが必至であ
るのになぜ値上げしたかというと、赤字の額をなるべく小さくす
るためと思われます。
メタは、2022年10月に、「メタクエスト2」よりも性能
が高い次のHMDを発表しています。
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◎メタクエストプロ/Meta Quest Pro
1499ドル
日本価格/22万6800円
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「メタクエストプロ」は、ゲーム機ではなく、仕事に使える機
器として開発されているHMDであり、むしろPCに近い存在と
いえます。「メタクエストプロ」の最大の特色は、VRだけでな
く、MR(複合現実)にも対応できるデバイスとして、現実世界
と仮想世界をシームレスつなぐことが目的です。遠方にいてもア
バターを介して3DCGオブジェクトを共有したり、同じ空間に
存在しているかのように共同作業を進めることができます。
ここで、VRだけでなく、ARやMRが出てくるようになった
ので、ここでは簡単に整理しておくことにします。
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・VR/仮想現実 Virtual Reality
・AR/拡張現実 Augmented Reality
・MR/複合現実 Mixed Reality
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第1は「VR」です。
VRは、コンピュータ・グラフィックスなどのテクノロジーに
よって、メタバースの世界を作り出すことができます。この世界
に入るのは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)や専用ゴー
グルを装着する必要があります。目の前に映像が映し出され、そ
の中で、ユーザーは自由に動き回わることができます。
第2は「AR」です。
VRがメタバースを作り出すのに対して、ARは現実世界を拡
張させるのが特徴です。具体的にいうと、現実世界に本来存在し
ないものが出現します。現実世界のさまざまな情報に対し、コン
ピュータで作り上げた画像や情報を重ねるようにして、目の前の
世界を拡張させるのです。
第3は「MR」です。
ARの技術をさらに発展させたのがMRです。ARが現実世界
を拡張しているのに対し、MRはあたかも現実世界にデジタル画
像が存在するように投影することができます。代表的な事例とし
ては、マイクロソフト社の「マイクロソフト・ホロレンズ」が上
げられます。 ──[ウェブ3/メタバース/054]
≪画像および関連情報≫
●ザッカーバーグ氏の苦境はどれほど深刻か?
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夜更けのソープストーン・コメディ・クラブに来ている。
と言っても、ここはいつも夜更けだ。
米メタ(旧フェイスブック)の主力メタバースアプリ「ホ
ライゾン・ワールズ」のなかにあるスペースで、ユーザーは
仮想現実(VR)でコメディを見ることができ、自ら演じる
こともできる。
「足がないと難しいんだよね、立ち上がるのって」自分の
アバターが宙に浮いていることを身振り手振りで表現しなが
ら、ある演者がそんな皮肉を口にしたところ、次の瞬間、何
かのはずみで仮想マイクを落とし、ステージの外に、飛んで
行ってしまった。VRの夜のバーには、本物のバーの雰囲気
にはある何かが少し欠けているものの、本物そっくりのめま
いと吐き気を引き起こしてはくれる。
会社の名前がフェイスブックからメタに変わるとマーク・
ザッカーバーグ氏が発表してほぼ1年が過ぎた。メタバース
への取り組みの真剣さを示すためだったが、悪化した企業イ
メージから逃げ出すためでもあったことは間違いない。
メタバースという言葉が何を意味しているのかピンとこな
い人が多かったものの、同社の市場時価総額が1兆1000
億ドルという過去最高に近い水準にあったこと、中核のSN
S(交流サイト)広告事業がパンデミックを背景に、絶好調
だったことから、投資家はこの実験の成り行きを見守ること
にした。その後の1年で状況は変わったようだ。
https://bit.ly/3PyB6pu
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「メタクエストプロ」発売