ーバークCEOが、第2世代の開発機「DK2」を出荷したばか
りのオキュラスVR社を買収すると発表し、騒然となりました。
その時点でオキュラスVR社は、設立からまだ1年半しか経って
おらず、消費者向けの製品も発売していないのです。そんなスタ
ートアップ企業への買収価格は超破格の20億ドルです。
買収は成立し、それから約1年後の2015年5月、オキュラ
スVR社主催のカンファレンス「オキュラス・コネクト2」で、
ザッカーバークCEOは次のように述べています。
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フェイスブックのミッションは、世界をよりオープンにしてつ
なげることです。人々が世界のさまざまな側面をシェアする力を
持つことができれば、世界はよりよくなる。人々はリッチなツー
ルを持つことができるようになり、より深く没入するメディアの
コンテンツを使うようになつていきます。
(新しい技術の)VRはフェイスブックのミッションに合致し
ます。VRは次のプラットフォームです。ほんの数年前、VRは
まだサイエンスフィクションの夢物語でした。しかし、オキュラ
スがあればゲームをプレイして、友達とコミュニケーションをと
り、いっしょにコラボレーション作業をするチャンスが生まれま
す。コンピュータやスマートフォンは発売された最初の年に、1
億台も売れるようなことはありませんでした。しかし、アイデア
は現実になっていきます。 ──新清士著/NHK出版新書
『VRビジネスの衝撃/「仮想世界」が巨大マネーを生む』
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異常ともいえるザッカーバークCEOのVRへの力の入れよう
ですが、その真の狙いは何でしょうか。
それはGAFAMにおける基盤の確立です。なぜなら、フェイ
スブックの90%は広告事業であり、ハードウェアは持たず、G
AFAM内での基盤が脆弱であるからです。
アップル、マイクロソフト、グーグルはいずれもOSを有して
います。アップルのiOS、マイクロソフトのウィンドウズ、グ
ーグルのアンドロイド──このうち、ウィンドウズとアンドロイ
ドは最大のシェアを誇っています。
フェイスブックはハードウェアを持っていません。これに対し
てアップルは、マックPC、アイフォーン、アイパッド、アップ
ル・ウォッチなど、マイクロソフトは、サーフェス(PC)、X
ボックスなどがあります。グーグルは、ピクセル(スマホ)とそ
の関連商品を有しています。アマゾンは、ECで世界中にネット
ワークを広げており、AWSでクラウド業界を制覇しており、そ
の基盤は盤石です。
このような状況において、フェイスブックが「オキュラスリフ
ト」というヘッドマウントディスプレイ(HMD)を持てば、念
願のハードウェアが持てるし、それをプラットフォームとして提
供することによって、ゲーム業界を支配できるし、GAFAM内
のポジションを高めることができると、ザッカーバークCEOは
考えているのです。
オキュラスVR社が、フェイスブックに買収された直後の20
14年3月に、フェイスブックに参加した重要人物がいます。マ
イケル・アブラッシュ氏です。この人もジョン・カーマック氏と
並び称されるゲーム分野における伝説的なプログラマーとして知
られる人物です。カーマック氏とは友人の関係であり、イドソフ
トウェアで一緒に仕事をしたことがあります。
アブラッシュ氏は、もともとマイクロソフトでウィンドウズの
開発に携わっていた人物です。しかし、プログラミング雑誌に専
門的なレポートを何本も発表しており、有名なプログラマーとし
て知られています。
そういう人が、なぜ、ゲームなのか、なぜ、VRなのかという
と、彼が次の2つのSF小説に大きな影響を受けたからです。
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ニール・スティーブンソン著/1992年
『スノウ・クラッシュ/上下』/ハヤカワ文庫
アーネスト・クライン著/2011年
『ゲーム・ウォーズ/上下』/ SB文庫
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ニール・スティーブンソンの描く舞台は、近未来の米国で、国
家経済が破綻し、国土が非常に小さな区画に分割されているとい
う状態で、フリーランスのハッカーである主人公は、世界最高の
剣士であり、現実世界ではピザの配達人という設定です。
アーネスト・クラインの描く舞台は、革新的なVR空間のネッ
トワーク「オアシス」が張りめぐらされた近未来の世界です。イ
ンターネットがオアシスと一体化し、世界中の多くの人が生活の
大半をVRデバイスをかぶって暮らしているという設定です。
ニール・スティーブンソンの描く世界は、まさにメタバースそ
のものといえる高度なバーチャル空間であり、メインストリート
だけで、6万5000キロの長さがある巨大な仮想空間です。小
説の主人公たちは、ゴーグルとイヤホーンを装着して、メタバー
スにアクセスし、自分の分身であるアバターを操作して、他のプ
レイヤーたちと、コミュニケーションをとりながら暮らすことが
できます。これを読んだとき、アブラッシュ氏は、この本の世界
のほとんどは実現可能であると感じ、カーマック氏と話し合った
といいます。
アーネスト・クラインの小説を読んで、アブラッシュ氏は「こ
れはVRの将来のロードマップが示されている」と感じたそうで
す。アブラッシュ氏は、それまでVRよりもAR(拡張現実)の
方に関心を持っていたのですが、VRの方が奥が深いのではない
かと感ずるようになったといいます。なお、この小説は、スピル
バーク監督によって2018に映画化され、「レディ・プレイヤ
ー1(ワン)」として上映されています。
──[ウェブ3/メタバース/052]
≪画像および関連情報≫
●世界はいかにハックされうるか?/『スノウ・クラッシュ』
解読/鈴木健
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『スノウ・クラッシュ』の舞台は、近未来のアメリカであ
る。グローバル経済が行き着くところまで達し、世界はフラ
ット化したあげく、アメリカの経済力は世界でも最低レベル
になった。アメリカが世界に誇れるのは、音楽、映画、ソフ
トウェア、高速ピザ配達の4つだけになってしまった。
大統領の権威も失墜した。物語の後半、アメリカ合衆国大
統領が登場するシーンでは、まわりの人物は誰も彼が大統領
だと気づかない。政府は数あるステイクホルダーのひとつに
すぎず、様々なフランチャイズ国家が国土を分割統治するよ
うになっている。例えば、マフィアのドンであるアンクル・
エンゾが経営する〈ノヴァ・シチリア〉や、〈ミスター・リ
ーの大ホンコン〉のように、マフィアや資本家がフランチャ
イズ国家を運営しており、その中は治外法権で、大統領とい
えども口出しできない。
近年アメリカでみられるゲーテッド・コミュニティとフラ
ンチャイズを合体させ、それが国家に並ぶような力を得たの
が、フランチャイズ国家である。会員以外が区域に入れない
よう、それぞれのフランチャイズは技術を駆使した物理的抑
止力で守られている。
一方でメタヴァースの中も同様の世界が構築されている。
主人公ヒロの友人のDa5idがメタヴァースの中で経営す
る会員制のバー〈ブラック・サン〉には、普通の人は入るこ
とはできず、会員だけが静かな会話を楽しむことができるよ
うになっている。 https://bit.ly/3Pr1FwU
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マイケル・アブラッシュ氏