2022年12月12日

●「『FTC』マイクロソフトを提訴」(第5872号)

 12月10日付の日本経済新聞に、今回のテーマに関係する次
の記事が掲載されています。
─────────────────────────────
◎ゲームも米テック独占警戒/マイクロソフトをFTC提訴
 成長市場/囲い込み阻止
 ゲーム業界で最大のM&A(合併・買収)に、「待った」がか
かった。米連邦取引委員会(FTC)が8日、米マイクロソフト
による米ソフト大手アクティビジョン・ブリザードの買収を差し
止める訴訟を起こした。ゲーム機に加え、定額制の配信サービス
やクラウドゲームでの競争阻害を懸念する。新市場での「独占」
にも警戒を強める当局の姿勢は、減速が目立ち始めたテック大手
には新たな逆風となる。    https://s.nikkei.com/3Y51Odr
        ──2022年12月10日付/日本経済新聞
─────────────────────────────
 米マイクロソフトによる米ゲームソフト大手企業のアクティビ
ジョン・ブリザード(以下、アクティビジョン)の買収について
は、12月1日のEJで取り上げています。このニュースは、今
年の1月18日に687億ドル(約7兆8700億円)での買収
が発表されています。この買収が成功すると、マイクロソフトは
テンセント、ソニーに次ぐ世界第3位のゲーム会社になるところ
だったのです。
 問題は、米連邦取引委員会(FTC)は、なぜ、この買収にス
トップをかけたかです。FTC競争局のホリー・ベドバ局長は、
その理由について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 マイクロソフトが大手ゲーム会社を支配し、急成長するゲーム
市場の競争に害を及ぼすのを食い止める。
             ──FTCホリー・ベドバ競争局長
─────────────────────────────
 アクティビジョンは、多くの人気ゲームソフトを保有しており
なかでも「コール・オブ・デューティ」や「オーバーウォッチ」
の人気が凄いです。その1カ月当たりのプレーヤー数は3億68
00万人にもなるからです。
 「コール・オブ・デューティ」や「オーバーウォッチ」が、ど
ういうゲームかというと、超人気の「シューティングゲーム」と
いえます。すなわち、シューティングゲームとは、敵を撃つこと
がメインのコンピュータゲームのジャンルの一つです。「コール
・オブ・デューティ」は一人称視点のシューティングゲームであ
り、オフラインで4人まで対戦可能です。
 「オーバーウォッチ」は、6人ずつのチーム対チームで対戦す
るアクションシューティングゲームです。オーバーウォッチとは
英語で「見張る・監視する」を意味する言葉です。
 FTCは、マイクロソフトがアクティビジョンを買収すること
によって、それらの人気ゲームソフトを囲い込んで、他のゲーム
会社にソフトが供給されなくなり、競争阻害につながることを警
戒したのです。
 しかし、既に述べているように、マイクロソフトのナデラCE
Oは「ライバルに力を与える」戦略を実施し、それまでの囲い込
み戦略を否定しています。そのため、任天堂をはじめソニーグル
ープなどに積極的に働きかけ、ソフトの供給を続けることを約束
していますが、FTCはそれを認めず提訴に踏み切っています。
それは、これまで認めてきた買収において、既に囲い込みが生じ
ていると判断したたからです。
 なお、これには、現バイデン政権の産業政策が色濃く反映され
ています。このところを12月10日付けの日本経済新聞は次の
ように報道しています。
─────────────────────────────
 米国の産業政策の変化も影響している。バイデン政権は大企業
による独占が働き手の所得格差を広げ、技術革新を阻害するとの
問題意識を持つ。とりわけ21年にFTCの委員長に就任したリ
ナ・カーン氏は、巨大テック企業に対する規制強化を訴えてきた
人物だ。カーン氏はテック大手がM&Aを重ねて成長する戦略に
否定的な考えを持ち、新しい技術領域で将来起こりうる「独占」
に対しても監視を強めている。 https://s.nikkei.com/3Y51Odr
        ──2022年12月10日付/日本経済新聞
─────────────────────────────
 マイクロソフトだけではないのです。米フェイスブック(現メ
タ)は、画像共有ソフト「インスタグラム」の運営会社を201
2年4月に買収しています。買収金額は10億ドルといわれてい
ます。当時運営会社には、従業員が13人しかおらず、大きな収
益を上げていないインスタグラムに対して、フェイスブックは、
10億ドルの大金を支払って買収したのです。その理由は、競合
相手になることを恐れたからです。
 確かにザッカーバークCEOの先見の明による判断ということ
はできますが、今やインスタグラムのユーザーは10億人を超え
フェイスブックの年間収益に200億ドル以上貢献しています。
一部のアナリストからは、インスタグラムが1000億ドル以上
つまり、フェイスブックの時価総額の5分の1を占めていると評
価されています。そういう意味では、この買収によってフェイス
ブックは大成功したといえます。
 しかし、国として見た場合は違うのです。もし、インスタグラ
ムが買収されなければ、そこに激しい競争が起き、多くの画像共
有アプリが誕生していたはずです。その結果、もっと便利なもの
が生まれた可能性は大です。当然フェイスブックとしても対抗上
いろいろなアイデアを案出したものと思われます。そういう意味
では、芽が出ないうちに買収し、将来の競合対手を消し去ってし
まうと発展も止まってしまいます。競争がないところには発展は
あり得ないのです。そのため、FTCは監視を強めています。こ
の取引はおそらく破談必至でしょう。
           ──[ウェブ3/メタバース/048]

≪画像および関連情報≫
 ●マイクロソフトのアクティビジョン買収計画FTCが阻止へ
  ───────────────────────────
   米連邦取引委員会(FTC)は8日、マイクロソフトによ
  690億ドル(現在のレートで約9兆4300億円)規模の
  アクティビジョン・ブリザード買収計画を阻止するための手
  続きに入ることを決めたと発表した。ゲーム機「Xbox」
  のメーカーであるマイクロソフトと人気ゲームを開発するア
  クティビジョンの統合は競争阻害につながるとしている。
   FTCによると、マイクロソフトの傘下に入ることで競合
  他社によるアクティビジョンの主力ゲームソフトへのアクセ
  スが制限され、2000億ドルを超える規模のゲーム市場の
  競争を抑制する恐れがある。
   FTCのベドバ競争局長は「マイクロソフトはゲーム分野
  の競合相手に、コンテンツを提供しないことが可能でその姿
  勢を既に示している」とした上で、「同社が独立系の主要ゲ
  ーム制作会社を支配し、それを通じて、活力があり急成長中
  の複数の市場における競争を損なうことをわれわれは阻止す
  る」と説明した。
   マイクロソフトのブラッド・スミス社長は、アクティビジ
  ョンとの「合意が競争を拡大し、ゲーマーやゲーム開発業者
  にとって、より多くの機会を創出すると引き続き確信してい
  る」とコメント。競争上の懸念を解消する決意であり、今週
  にはFTCに譲歩案を出したとも指摘。「当社の主張には完
  全に自信を持っており、審判で主張を示す機会を歓迎する」
  とした。            https://bit.ly/3VNK98p
  ───────────────────────────
コール・オブ・デューティ.jpg
コール・オブ・デューティ
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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