2022年12月09日

●「セカンドライフはなぜ失速したか」(第5871号)

 第1次VRブームの2000年代に「セカンドライフ」が登場
します。その開発元はリンデンラボ社、運営を開始したのは20
03年6月。2007年には一種のブームになり、NHKの「ク
ローズアップ現代」に取り上げられ、当時のキャスター、国谷裕
子氏のアバターが紹介されるなど、話題を集めたものです。
 実は、EJでも「セカンドライフ」は、次のようにテーマとし
て取り上げています。
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    2007年 8月 6日付/EJ第2137号〜
    2007年10月19日付/EJ第2188号
  「経営者はセカンドライフをどのようにとらえるべきか」
   ―― ネットの世界に起こっている革命を追う ――
―――――――――――――――――――――――――――――
 このEJの連載の第1回で、「セカンドライフ」の定義にふれ
ている部分があります。その部分を再現します。
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 ところで、「セカンドライフ」とは何なのでしょうか。このあ
たりで、一応定義しておく必要があると思います。数ある「セカ
ンドライフ」の定義の中で、一番優れていると思われるものをご
紹介しましょう。
*****************************
 セカンドライフとは「メタバース」と呼ばれる3次元(3D)
 仮想空間の中を自分自身の分身である「アバター」を操って動
 き回る、見た目は多人数参加型オンラインゲームそのものとい
 うプラットフォームである。
      ――前掲『週刊/東洋経済』2007・8/4より
*****************************
 確かに、ここでいうところのアバターなるものが動き回る3D
空間を見せられると、オンラインゲームの一種という感じがしま
すし、「人形芝居」という表現もそんなには外れていないと思う
のです。アバターは人形には違いないのですから。
 しかし、セカンドライフは、2005年頃から顕著になって現
在も続いているインターネットにおける激変というか革命のひと
つとしてとらえないと、本質を見失うことになります。
       ──2007年 8月6日付/EJ第2137号
─────────────────────────────
 興味深いのは、セカンドライフの時点で既に「メタバース」と
いう言葉が出てくることです。つまり、「3次元仮想空間=メタ
バース」というわけです。
 しかし、セカンドライフは、ヘッドマウントディスプレイ(H
MD)をかぶるわけではなく、PCのディスプレイに表示される
3Dのリアルタイムグラフィックスの世界に自分の分身であるア
バターを潜入させて操作するのです。したがって、「人形芝居」
と揶揄されたわけです。この仮想空間では、ゲームを楽しむこと
もできますが、ビジネスとして重視されたのはコミュニケーショ
ンです。ジャーナリストの新清士氏は、セカンドライフについて
次のように述べています。
─────────────────────────────
 セカンドライフには、ゲームのように倒すべき敵や最終的なゴ
ール、クリアすべき具体的な目標などが存在しません。ユーザー
は、自分の似姿であるアバターを作成し、仮想空間内のバーチャ
ルな土地を借りて家を作り、3Dデータでモノを制作して、現実
の通貨と互換性を持つ仮想通貨リンデンドルを使って売買するこ
とができます。サービス内で恋人を作り、結婚式を挙げる人もい
ます。これまでのコンピュータゲームとは違い、仮想空間での生
活そのものを楽しめるところが決定的に違ったのです。まさに、
VRが目標とする現実世界の延長線上を作り出していました。
               ──新清士著/NHK出版新書
  『VRビジネスの衝撃/「仮想世界」が巨大マネーを生む』
─────────────────────────────
 それでは、なぜ、セカンドライフは、うまくいかなかったので
しょうか。その原因は2つあります。
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    @当時としては高価な高性能のPCが必要である
    Aネット上でつながるためのサーバー処理の限界
─────────────────────────────
 原因はコンピュータの能力の問題です。セカンドライフを立ち
上げてアバターを自由に動かすには、2007年当時の通信環境
と、一般の人が保有していたPCではセカンドライフに入るのは
困難で、仮想空間内の基本単位である256メートル四方の空間
には、サーバー処理の関係上、100人前後のユーザーしかアク
セスできないというネックがあったのです。したがって、大勢の
人の集まるイベントを仮想空間内で実施するのは、困難だったと
いえます。つまり、セカンドライフは、アイデアは秀逸であった
ものの、時代を先取りし過ぎたともいえます。早過ぎたアイデア
というわけです。
 もうひとつセカンドライフが失速した原因は、スマホの登場に
よるSNSの普及です。メールとは異なる普通の言葉で、簡単に
コミュニケーションがとれるSNSは、急激にユーザーを増加さ
せ、セカンドライフは完全に忘れ去られたといえます。
 その原因を作ったのは、ほかでもないフェイスブックの創業者
であるマーク・ザッカーバーク氏です。今やフェイスブックはS
NSの王者であり、そのユーザー数は世界レベルで実に約30億
人に達しています。
 しかし、その同じザッカーバーク氏がセカンドライフならぬ本
物のメタバースの実現を目指して、社名を「メタ」に変更し、そ
の構築を目指しているのです。皮肉な話です。本当にメタバース
はうまくいくのでしょうか。セカンドライフの二の舞になるとい
う厳しい意見もあります。
           ──[ウェブ3/メタバース/047]

≪画像および関連情報≫
 ●メタバースは「セカンドライフ」の二の舞になる?
  /識者が対談
  ───────────────────────────
  ――まずは、お二人がこれまでセカンドライフとどのように
  関わってきたか、教えてください。
  杉山知之氏:「バーチャルリアリティー」は僕がずっと好き
   なもので、1980年代から研究などを続けてきました。
   Webの時代に入ってからは「Web3D」というムーブ
   メントが起こり、その次にブームとなったのがセカンドラ
   イフでした。セカンドライフを見た三淵啓自先生(デジタ
   ルハリウッド大学教授)や、当時の大学院生たちはすぐに
   米国へ行って「何か面白いことをやりましょう!」と言っ
   てきました。そこで僕らも会社で島を買ってみたのです。
   当時は月々でも結構な値段でしたね。そしてみんなで集ま
   り、何もない開拓地に家を建てるところから始めました。
   一番驚いたのは、「リンデンドル」というお金があったこ
   とです。まだ暗号資産(仮想通貨)という概念もない時代
   に、セカンドライフの中だけで通じるお金があって、なお
   かつ両替所もあり、本物の米ドルに交換できる。そこに引
   き付けられましたね。もしかして儲かるんじゃないかと。
  渡邊信彦氏:私は当時、金融機関のSI(システムインテグ
   レーター)をやっていました。ちょうど、「金融ビッグバ
   ン」が起きた頃で、金融機関がインターネットに参入し始
   めた時期です。そんな中、みずほ銀行の方と一緒に米国の
   フィンテックイベントを見に行き、そのとき隣に座ってい
   た人が連れて行ってくれたのが、セカンドライフ運営企業
   のリンデンラボでした。    https://bit.ly/3UCfcTl
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クローズアップ現代と週刊東洋経済.jpg
クローズアップ現代と週刊東洋経済
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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