られます。
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黎明期 ・・・ 1960年代
第1次ブーム ・・・ 1990年代
第2次ブーム ・・・ 2010年代
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1960年代の「黎明期」に何が起きたのでしょうか。
この年代は、今になって考えると、映像の革命が起きた年代で
あったといえます。帝劇では「シネラマ」という立体映画を長期
間上映していました。シネラマは、3台の撮影機でパノラマ式に
撮影し、これを横長の画面に3台の映写機で映す映画の一方式で
す。私はこのシネラマを帝劇で見たことがあります。
1964年のことです。この年の10月10日に東京五輪が開
催されています。映像作家であるモートン・ハイリグという人が
「センソラマ/Sensorama」 というものを発表したのです。イメ
ージとしては、添付ファイルを見ていただきたいのですが、機械
のなかに頭を突っ込んで椅子に座ると、目の前のスクリーンに道
路が映り、バイクに乗って走るイメージを体験できるのです。自
動車教習所などにあるシミュレータのようなものです。
体験者はこのシステムの椅子に座り、ストリートを走る映像を
見ていると同時に、ファンが向かい風を送風し、街のノイズや臭
いを模擬して聴覚と嗅覚を刺激してきます。これらの要素、映像
音響、臭い、振動や風などは、同期しており、体験者は、その排
気ガスの臭いの化学物質も排出され、バスのエンジン音が聞こえ
るといった仕組みになっています。これがVRデバイスのはしり
といわれています。
1990年代の第1次ブームの立役者は、アイバン・サザラン
ド氏(84歳)です。サザランド氏は、米国のコンピュータ科学
者で、現在のカーネギーメロン大学(当時カーネギー工科大学)
で学士号、カルフォルニア工科大学で修士号、1963年にMI
T(マサチューセッツ工科大学)で、「情報理論の父」といわれ
るクロード・シャノン氏の指導の下で、博士号を取っています。
CGや設計現場で使われるソフトウェアCADの発明者であり、
コンピュータ上で、グラフィックをどう扱うかについての基礎を
作った人物です。
当時のコンピュータでは、文字はドットで表示できますが、ラ
イン(線)は描けなかったのです。そこでサザランド氏は、「ス
ケッチパッド」を開発し、それを可能にしています。GUI(グ
ラフィカル・ユーザー・インターフェイス)という概念がない時
代に、コンピュータと人間とのインターフェースについて、最先
端を走っていたといえます。驚くなかれ、電子ペンを使って図形
を描いているのです。
スケッチパッドをデモしている貴重な映像が残っています。解
説は英語で約20分の映像ですが、内容は貴重なものです。興味
があれば、ぜひご覧ください。
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◎「スケッチパッド/Sketchpad」のデモ
https://bit.ly/2QaAYh3
時間:19分19秒
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もうひとつサザランド氏については、特記すべきことがありま
す。それは、インターネットの原型といわれるアーパネットを生
み出した米国国防総省の高等研究計画局のプロジェクト(ARPA)
のメンバーの一人であるということです。
1965年にサザランド氏は、次のタイトルの短い論文を発表
しています。
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◎「究極のディスプレイ」
The Ultimate Display
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この論文は、今日のVR技術の原点ともいえる画期的なもので
あるといえます。「究極のディスプレイ」とは何か。これについ
て、スタートアップ「クラスター」代表の加藤直人氏は、自著で
次のように述べています。
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そのビジョンとはざっくり言えば、「究極のディスプレイとは
コンピュータが物体の存在をコントロールできるような部屋であ
る」というものだった。サザランドが示した世界観は、たとえば
その部屋に椅子がほしいと思ったら、ボンと出てくるという魔法
のような生活スタイルであった。
他に論文の中で示されていたのは「手錠を出そうと思った瞬間
サッと手錠が現れて、その部屋にいる人間を拘束できる」といっ
たものだ。究極を謳うからには、他者という存在に影響を与え、
強制的に制御することができてしまうものでなければならないと
考えたらしい。
VRデバイスをかぶったことのある現代人にとってあまりピン
とくる内容ではないかもしれないが、この論文が画期的だったの
は、ディスプレイを「映像が映るもの」という固定観念に縛られ
ず、その上位概念として「部屋」を用いて人類が至るべき生活ス
タイルを夢想し、今から50年以上前の時点で提示しているとこ
ろにある。(中略)
このサザランドの考え方は、バーチャル・リアリティの根幹に
あるものだ。黎明期というよりは、発芽期といったほうがいいか
もしれない。ここにバーチャル・リアリティの原型、ひいては、
メタバースの土台となる世界の始まり、ビジョンが生まれた。
──加藤直人著
『メタバース/さよならアトムの時代』/集英社
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──[ウェブ3/メタバース/044]
≪画像および関連情報≫
●スケッチパッドで「合生」される世界
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1963年にアイヴァン・サザランドは、博士論文「スケ
ッチパッド:マンマシン・グラフィカル・コミュニケーショ
ン・システム」を発表した。サザランドはそこで、「スケッ
チパッド・システムは、線を描くことで(キャプション以外
の)文章入力を不要にし、マンマシン・コミュニケーション
の新しい世界を切り開いた」と書いている。
スケッチパッドで特徴的なインターフェイスは、ディスプ
レイに線を描く「ライトペン」というペン型のデバイスであ
る。ライトペンとディスプレイ外に設置されたボタンの操作
により、スケッチパッドでは、様々な図形を描くことができ
る。また、スケッチパッドが実装されたTX─2コンピュー
タには多くのボタンが備え付けられ、それぞれに、「円を描
く」「直線を描く」「消す」「コピー」「移動」などの機能
が割り当てられていた。ユーザはそれらのボタンを押すこと
で、これから行う操作をあらかじめコンピュータに伝え、ラ
イトペンを動かしながらディスプレイに図形を描いていく。
サザランドはTX─2の入出力のコントロールの柔軟性と拡
張性の高さによって、自らのアイディアをいろいろと試すこ
とができ、最終的にコンピュータによる描画を実現できたと
書いている。 https://bit.ly/3gXXFqV
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センソラマ