2022年10月13日

●「ムーアの法則についてさらに知る」(第5832号)

 「ムーアの法則」はゴードン・ムーア博士が発見した経験則で
あるといわれます。ところで、「経験則」とは何でしょうか。改
めて考えてみることにします。
 ITの技術に少しでもかかわった人は「ムーアの法則」のこと
はよく知っています。そしてこの法則の提唱者がゴードン・ムー
ア博士であり、そしてそのムーア博士が、著名な半導体メーカー
インテルの創業者であることも知っています。しかし、ムーア氏
が「ムーアの法則」を発表したのがインテルを創業する前であっ
たことを知る人は少ないと思います。
 簡単に経歴を振り返ってみると、ゴードン・ムーア氏は、カル
フォルニア工科大学大学院で、赤外線分光学分野の研究で化学博
士号を取得しています。そして、卒業後ジョンズ・ホプキンス大
学応用物理学研究所に入社していますが、研究チームの解散とと
もに退社。その後、ウィリアム・ショックレー博士に誘われて、
1956年にショックレー半導体研究所に入社。ここではじめて
ムーア氏は半導体の仕事に携わります。
 しかし、ショックレー博士との折り合いの悪さから8人の仲間
とともに同社を退社することになります。後にこの時の8人の研
究員は「8人の裏切り者」と呼ばれることになります。そして、
1957年にムーア氏は仲間と一緒にフェアチャイルドセミコン
ダクターを設立。この企業は、1961年にはICの大量生産に
乗り出し、60年代半ばには世界最大の半導体メーカーに成長し
ています。このように、ムーア氏は1956年から半導体製作の
仕事に関わっており、様々な経験を積んでいるのです。
 1965年の春のことです。ムーア氏は、「エレクトロニクス
マガジン」誌から、同誌の35周年を記念して、コンピュータの
未来についての記事を依頼されます。当時、集積回路の最先端の
試作品でも、1つのコンピュータチップに集積されるトランジス
タの数は30個が限界だったのです。
 ムーア氏は、論文を書くために情報を集めたところ、驚くべき
ことを発見します。それは、1枚のチップに集積されるトランジ
スタの数は、1959年から毎年倍増していたという事実です。
ムーア氏は、この傾向がこれから先も続くと予測し、10年先の
1975年には、それは6万5000個という途方もない数にな
るだろうということを論文に書き上げたのです。
 この論文でムーア氏は、将来家庭用コンピュータが誕生するこ
と、携帯用通信機器や自動操縦の自動車の出現まで予測していま
す。そして、この論文が後に「ムーアの法則」と呼ばれるように
なるのです。しかし、ムーア氏は、トラブルからフェアチャイル
ドセミコンダクタを退社し、1968年7月18日にインテルを
設立します。そして、最初からこの論文を目標に半導体チップの
製造に取り組んだのです。
 つまり、ムーア氏はそれまでの自身の半導体チップ製造の経験
とその技術発展の歴史の調査に基づいて、つまり経験則に立って
チップの製造に取り組んだのです。まさに経験則です。
 これについて、非常にわかりやすいイメージで説明した記事を
ネット上で発見したので、ご紹介することにします。
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 「シリコンチップに搭載されるトランジスタは18〜24カ月
で2倍に増える」というムーアの法則。現在では、当時の4万倍
の数のトランジスタが乗っかっている計算になるという。
 これを理解しようと筆者が頭に浮かべたイメージは30センチ
×60センチお盆があって、その上に直径6センチのコップが、
50個並んでいる。1年後、同じお盆に100個のコップを並べ
てね。と言われて途方に暮れる自分の姿だった。
 普通の人間ならば、「もっと大きいお盆を持って来い」が正解
だと私は思う。しかし、研究者、技術者たちは、毎年のように、
この課題をクリアーし続けてきた。この法則が破られていないと
いうことは、現在(4万倍ならば)200万個のコップを同じお
盆に乗せていることになる。    https://bit.ly/3ehDzGH
─────────────────────────────
 1971年にインテルは、世界初のマイクロ・プロセッサであ
る「インテル4004」(よんまるまるよん)を開発しましたが
これには2300個のトランジスタが詰め込まれていたのです。
さらに、1979年の「8088」は2900個、1995年の
「ペンティアムプロ」には550万個、さらに2015年の第5
世代コアプロセッサには13億個のトランジスタが搭載されてい
ます。これは、ムーアの法則がきちんと働いている結果であると
いえます。
 いうまでもないことながら、ムーア博士によるムーアの法則の
論文が示唆した「家庭用コンピュータ」はPCとして、「携帯用
通信機器」はスマートフォンで既に実現しており、「自動操縦の
自動車」も実現しつつあり、すべて予言は的中しています。
 ムーア博士が86歳になったとき、あるイベントで、10年後
の世界はどうなるのかについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 インターネットの開発は私にとって驚きだ。ネットによって新
しい機会のドアが開くことに気がつかなかったし、高速道路で自
動運転車を見ることになるとも思わなかった。現在は、コンピュ
ーターが人間の利便性を向上するためにどんなことをできるかを
探る初期段階にあり、今後は人工知能が進化していく、と予想す
る。    ──ゴードン・ムーア氏 https://bit.ly/3ErqSnz
─────────────────────────────
 2000年以前の話ですが、、日本は半導体製造分野でトップ
を走っていたことを知る若者は少ないと思います。ムーアの法則
が発表された以後の1980年代、NEC、日立、東芝はトップ
を独走し、インテルがトップになったのは1990年代になって
からです。アイデアも品質も悪くないのですが、世界標準になれ
る製品が作れなかったことが最大の敗因といえます。
           ──[ウェブ3/メタバース/008]

≪画像および関連情報≫
 ●ムーアの法則」もう限界/新たな集積回路探る動き
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   回路の集積度を上げて機能を高めながら製造コストは下げ
  る――。半導体産業の成長を支えてきた「ムーアの法則」が
  限界に近づいている。今の微細加工技術で最小線幅が7ナノ
  (ナノは10億分の1)メートルに達する2020年ごろに
  理論的な壁にぶつかるからだ。その先、半導体はどのような
  技術革新を遂げるのか。新しい集積回路を作るアイデアが議
  論されている。
   「半導体集積回路の集積度は1年半から2年で倍増する」
  半導体最大手の米インテルを創業した一人、ゴードン・ムー
  ア氏は1965年、まだ登場していない集積回路の進歩を展
  望する論文でこんな予測を唱えた。実際に回路の集積度はこ
  の予測通りに高まり、後にムーアの法則と呼ばれるようにな
  った。半導体チップの基本素子のトランジスタは小さくなる
  と性能が高まり、1つのチップに収まる数を多くできる。微
  細化を追究することで性能を向上させてきた。そのために回
  路の線幅をできるだけ細くする技術開発を進めた。
  インテルが71年に発売した最初のプロセッサ「4004」
  は線幅が10マイクロ(マイクロは100万分の1)メート
  ルで、1つのチップに2300個のトランジスタが載ってい
  た。2015年発売の最新型プロセッサー「スカイレイク」
  は線幅が14ナノメートルになり、10億個以上のトランジ
  スタを搭載している。インテルによると、プロセッサーの計
  算能力は半世紀で3500倍向上した。
               https://s.nikkei.com/3TcRr46
  ───────────────────────────
インテル4004.jpg
インテル4004
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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