演説で、予備役の部分動員を認める大統領令に署名したことを公
表しました。その規模は約30万人といわれています。
予備役とは、兵役の経験のある元軍人で、現在は一般社会で生
活している者をいいます。これに対して現在兵役に従事している
軍人は現役軍人と称しています。ロシアには、2500万人の予
備役がいるので、30万人集めるのは可能です。今回召集される
のは、ウクライナでの紛争で必要となる特殊技能を持つ者とされ
ていますが、どういう技能かは公表されていません。
そのため、自分が対象者であるかどうか分からず、現在、ロシ
ア人はパニックになっており、予備役への徴兵を逃れようと、海
外に逃亡しようとする者も多く、ビザなしで渡航できるトルコな
ど海外への航空チケットは価格が高騰し、入手困難に陥っている
といわれます。トルコのイスタンブール行きのチケットは通常は
3万円程度ですが、37万円に値上がりしています。また、ロシ
ア全土で動員令の反対デモが頻発しています。
もう既に召集令状が届いている者も多いといわれますが、これ
についてこんな話があります。「プーチンの口」といわれるペス
コフ報道官の息子のところに召集令状が届き、その息子が出頭を
拒否したというニュースです。
ある程度事情がわかっているロシア人は、この戦争はロシアの
戦争ではなく、プーチンの戦争であることをよく知っています。
しかし、自分に関係がなければ、勝手にやってくれというスタン
スだったのですが、召集令状などが届き、自分に影響が及んでく
ると、「オレはプーチンの戦争で死にたくない」と、慌てて逃げ
出すなど、無責任な話です。
数字を整理してみましょう。なぜ、30万人なのかです。ロシ
ア軍が2月にウクライナに侵攻したとき、投入した兵力は約19
万人といわれています。これに東部ドンバス地方に、親ロシア派
戦闘員が数千人いたとされています。
ロシア政府は、これに加えて、金銭的な優遇と引き換えに、大
規模な兵の募集を行っています。これに応じて、シベリアやコー
カサスといった貧しい地域から、チェチェン紛争を経験した戦闘
員などが追加の部隊員としてウクライナの戦場に投入されていま
す。人数については不明です。
ロシアでは、徴兵制度があり、18〜27歳の男性に対して、
1年間の兵役義務があります。しかし、健康状態や学生であるな
ど、さまざまな理由によって免除されます。したがって、高官の
子弟などは、留学と称して海外に逃亡するなど、さまざまな理由
をつけて兵役逃れをしている者が多くいます。
なお、ロシアでは、平時における軍の規模を次のように定めて
います。
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軍人上限 ・・・・ 100万人
一般職員 ・・・・ 90万人
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これについても、プーチン大統領は、8月に13万7000人
を追加雇用する大統領令に署名しています。これは来年1月から
実施されることになっていますが、これも兵が不足していること
あらわしています。
5月28日、ロシア政府は「志願兵の年齢上限の撤廃」を発表
しています。志願兵の年齢は、ロシア人なら18歳から40歳、
外国人は18歳から30歳と定められていたのですが、この上限
を法改正で撤廃したのです。ロシア軍は、既にこの時点で、兵力
不足に陥っていたのです。
まだあります。ワグネルという軍事会社があります。ワグネル
はウクライナのドンバス戦争において、2014年から2015
年にかけて、ドネツクとルガンスクの地域において、親ロシア派
分離主義勢力を焚き付けて支援し、やがて共和国を設立させるに
いたるのです。クリミアと同じ手口です。
ロシア政府はワグネルに依頼して、囚人から兵士を募集してい
ます。情報によると、6カ月間の兵役で、釈放と20万ルーブル
(約47万円)の報酬を約束しています。最前線には出さないし
後方支援の仕事であるとも強調していたようです。
ロシアの受刑者の支援団体が、独立系メディアの取材に応じた
ところによると、この試みは、次のような悲惨な結果に終わって
いるようです。
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受刑者支援団体の分析によると、ワグネルと契約を結んだ囚人
は約3000人。10日間から2週間の訓練で前線に送られたも
のの、ほぼ全員が戦死したと結論づけています。
https://bit.ly/3xGvqlN
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しかし、ロシアはこの特別軍事作戦での死者は「5937人」
としか発表していません。本当にそうであれば、こんなに、たび
たび兵を募集する必要などないはずです。ロシア兵の死者情報を
まとめておきます。英国とウクライナの数字は、2022年7月
現在発表のものです。
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◎特別軍事作戦でのロシア軍の死者数
ロシア国防省 ・・・・ 5937人
イギリス国防省 ・・・・ 25000人
ウクライナ国防省 ・・・ 50000人
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現在、ロシアでは、召集令を逃れるため、大混乱になっている
ようです。国外に逃亡しようとする者、自ら腕などを折って、健
康検査で不合格になることを狙う者、コネを使って召集を逃れよ
うとする者が続出しているようです。このような精神の若者が仮
に召集され、兵役に就いても、およそ軍人として、使いものにな
らないことは明らかです。 ──[新中国・ロシア論/047]
≪画像および関連情報≫
●ロシア軍の死者・負傷者「7万〜8万人に達した」/米国防
総省が推計
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米国防総省は8月8日、2月にウクライナ侵攻が始まって
以来、ロシア軍の死傷者は7万〜8万人に達したとの推計を
明らかにした。カール次官(政策担当)は「ロシアが戦争開
始時の目的を何一つ達成していないことを考えると、注目す
べきことだ」と強調した。
カール氏は記者会見で「戦争において正確な数字は分から
ないが、ロシア軍は6カ月足らずで7万〜8万人の死傷者を
出したとみて間違いないだろう」と述べた。これは戦闘によ
るロシア軍の死者と負傷者を合計した数だという。
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は7月20日、死
傷者は約6万人(うち死者約1万5千人)とする推計を明か
していた。今回の数字は、これを上回る推計となった。
また、ロシア軍が現時点までに3千〜4千両の軍事車両を
失ったとも指摘。精密誘導兵器や巡航ミサイルなども「かな
りの割合」を消費していると述べた。
カール氏は最近の戦況について「この数週間、ロシア軍は
東部で少しずつ前進しているが、大きな犠牲を伴っている」
と指摘。「東部の状況は基本的に安定し、焦点は南部に移り
つつある。ウクライナ軍が南部に圧力をかけ始め、ロシア軍
が再配備を余儀なくされたことが一因である」との見方を示
した。 https://bit.ly/3dzjlbk
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30万人の予備役を召集するプーチン大統領