ライナ軍が、これまでロシア軍が制圧していた東部ハリコフ洲の
大部分の地域を奪還したことです。9月13日のことです。ロシ
ア側もこの事実を認めています。
ハリコフ州の中心都市であるイジュム市は、ロシア軍の補給路
になっており、ロシアの支配地域では最重要の都市であったとい
えます。もともとロシア軍は兵力不足に悩んでいます。それでも
イジュム市は要衝なので、エリート部隊で固めていたのです。
しかし、まさか攻めてこないと考えていた南部のクリミア半島
にウクライナ軍が頻繁に攻撃を仕掛けてきたので、ロシア軍は東
部部隊の一部を南部に移します。その結果、手薄になった東部地
域に、ウクライナ軍が、ロシア軍の想定を上回る戦車など機甲戦
力で攻撃してきたのです。軍事専門家によると、米軍がよくやる
作戦で、明らかに米軍の知恵が入っているといいます。
これについて、元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は、ウ
クライナ軍のハリコフ洲の奪還について、次のような分析を行っ
ています。
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ウクライナ軍による南部奪還作戦に焦ったロシア軍が、東部の
エリート部隊を南部に転用し、その結果、イジュム市などに穴が
できた。ウクライナ軍は、主導性のない作戦や、規律の乱れ、士
気の低下などで、自ら危機を招いている。 ──渡部悦和氏
2022年9月12日/夕刊フジ
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このウクライナ軍によるハリコフ洲の奪還について、ロシア側
は軍の再編成と一部撤退とアナウンスしていますが、メディアは
「ロシア大敗」と報道しています。これは文字通り「ロシア軍の
大敗北」といえます。それは次の3つの理由からです。
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第1は、ロシア軍は、自軍の戦車や榴弾砲や弾薬などを置き去
りにして逃げている。
第2は、ロシア兵士の多くは、軍服を脱ぎ捨てて、一般市民に
紛れて敗走している。
第3は、未確認ではあるもののロシア軍のトップとされる将官
が捕虜になっている。
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第1の理由について考えます。
戦争において、占領地を計画的に撤退するときは、自軍の兵器
は、すべて爆破するなど、敵軍が使えない状況にして撤退するの
が原則です。しかし、ロシア軍はすべてをそのままにして逃走し
ています。慌てふためいて逃げたという印象です。
第2の理由について考えます。
多くのロシア軍の兵士は、軍服を脱ぎ捨て、一般人に紛れて逃
げています。あちこちにロシア軍の軍服が、脱ぎ捨ててあったか
らです。それは、撤退するのに、十分な時間がなかったことを物
語っています。
第3の理由について考えます。
ウクライナ軍のイジュム市への攻撃によって、多くのロシア軍
人が捕虜になっていますが、そのなかに軍のトップレベルの将官
と思われる人物が捕虜になっています。まだ本人と特定されたわ
けではないですが、おそらくアンドレイ・シチェポイ陸軍中将で
はないかとみられています。
この人物は、捕虜になったとき、中佐の軍服を着ていたそうで
すが、おそらく身分を隠すため、階級が下の将官の軍服を着てい
たと考えられます。もし、この人物が本当に中将であったとすれ
ば、第2次世界大戦後はじめてのことになります。ネットでは、
次のように報道されています。
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ウクライナ軍の反転攻勢により、ロシア軍の前線は突破され、
部隊が混乱する中、ある一人のロシア軍士官が、ウクライナ軍に
よって捕らえられた。9月9日にSNSに投稿された映像には後
ろ手に手錠を掛けられ、跪く2人の兵士。2人の恰幅の良い兵士
は右目あたりから血を流している。この男性、ロシア軍西部軍管
区司令官アンドレイ・シチェヴォイ中将とされている。彼は中佐
の階級章が付いた軍服を着ているが、身分を隠すために下級将校
の制服に着替えたとされている。シチェヴォイ中将は7月20日
に、西部軍管区司令官に任命されている。中将という将軍クラス
が捕虜となれば、第二次大戦以来の大戦果となる。これまで12
人の将軍クラスの将校が戦死しており、このクラスの戦死は非常
に稀だが、捕虜となるのは更に稀だ。しかし、シチェヴォイ中将
の捕虜については、ウクライナ、ロシア双方ともに公式発表はな
い。 https://bit.ly/3RNurs2
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ロシアは、東部ハリコフ洲の大敗北を「軍の再編成」と称して
いますが、これについては、「東部ドンバス地域」(ドネツク、
ルガンスク両洲)の解放という特別軍事作戦の目的を達成するた
めであるとしています。
この東部ドンバス地域では、ルガンスク州の制圧については、
ほぼ終わっていますが、ドネツク州では、60%は制圧している
ものの、残り40%については、まだウクライナ軍が支配を継続
しています。
これについて米シンクタンクの「戦争研究所」は、9月11日
に次のような見解を発表しています。
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ハリコフ州の喪失で、露軍がドネツク州を制圧できる見通しは
無くなった。露軍が今後、局所的な前進に成功する可能性はある
ものの、戦いの流れはウクライナ側に傾いた。
──戦争研究所 https://bit.ly/3dmayJr
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──[新中国・ロシア論/044]
≪画像および関連情報≫
●ウクライナ軍の奪還地域、6000平方キロ以上
ルガンスク一部解放/高橋杉雄氏の分析
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ウクライナは8月下旬にヘルソン州など南部の奪還作戦を
始めたと発表し、その後、電撃的に北東部ハリコフ州での反
転攻勢に着手した。ロシア軍はウクライナ軍が北東部に兵力
を集めていることに気づいていたはずだが、「敵の本命は南
部」と思い込み、迎撃準備を十分にしていなかった可能性が
大きい。どんなに技術が発達しても、最終的に判断するのは
人間だ。今後の戦況を左右するほどの判断ミスをしてしまっ
た。奪還されたハリコフ州のクピャンスクは、鉄道網の要衝
だ。ここを失ったことで露軍は北東部での補給を維持できな
くなった。ロシア領に接する地域を奪還されたことで、自国
に逆侵攻されることにも警戒せざるを得なくなった。この地
域を露軍が再奪還することは難しく、北東部からのウクライ
ナ軍への圧力は減る。
露側に思い違いをさせたこの作戦を陽動作戦と言い切れな
いのは南部の奪還が単なる「おとり作戦」ではないからだ。
ヘルソン州を奪還すれば、東部からクリミア半島まで地続き
だった露軍の支配地域は分断される。ウクライナ軍の南部奪
還の動きは続くとみられる。米国から供与された高機動ロケ
ット砲システム(ハイマース)は露軍の補給路を断つのに効
果を発揮し、北東部へ戦力を向ける下地を作った。このこと
は、西側諸国の今後の支援にも弾みをつけるだろう。
https://bit.ly/3BRhcBb
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捕虜説のロシア軍のシチェボイ陸軍中将