2022年09月08日

●「『共同富裕』で中国はどうなるか」(第5810号)

 こんな話があります。中国では、人口約14億人のうち10億
人はまだ飛行機に乗ったことがないといわれます。2億8000
万人の高所得層をのぞいて、11億人の可処分所得は毎年わずか
1600元(約2万5000円)ということです。その一方で、
未曽有の大金持ちが増えており、貧富の格差が非常に大きくなっ
ています。
 そこで習近平政権では「共同富裕」という名のキャンペーンを
大々的に打ち出しています。「皆で一緒に豊かになろう」という
キャンペーンでしょうか。
 実は、この「共同富裕」は共産主義国や社会主義国にとっては
原点ともいうべきものです。資本主義は、経済を大きく発展させ
る一方で、経済格差を生みやすいデメリットがあります。そこで
貧富の差がない平等な社会をつくろうと、19世紀半ばにドイツ
のマルクスとエンゲルスが体系化したのが共産主義という思想で
す。これは全ての資本(土地やお金、生産手段)を国民が共同で
所有し、平等に分配する理想社会を目指すものです。社会主義国
は、その前段階と捉えればよいと思います。
 この「共同富裕」の概念を作ったのは毛沢東です。正確にいう
と、1953年12月の中国共産党中央委員会において、「中国
共産党中央による農業生産協同組合の発展に関する決議」を採択
したとき、この考え方を打ち出しています。
 しかし、この毛沢東の考え方に対し難色を示したのは、「4つ
の近代化」を旗印として、経済発展を優先するケ小平を中心とす
る一派です。4つの近代化とは、工業、農業、国防、科学技術の
分野のことであり、それは、すなわち、今でいう「改革開放」路
線を意味します。
 彼らは、社会主義の本質的欲求である「共同富裕」を尊重して
いたものの、社会主義の初期段階において、「共同富裕」を目指
すと、「共同貧困」になりかねないことを懸念していたのです。
 しかし、毛沢東は、聞く耳を持たず、1966年8月に「司令
部を砲撃せよ」と題する評論を人民日報に掲載し、はじめたのが
「文化大革命」です。
 しかし、この文化大革命は、毛沢東が亡くなる1975年まで
続いたのですが、大失敗に終わっています。経済が停滞し、中国
は非常に貧しい国になってしまったのです。経済的な豊かさを示
す一人当たりのGDPは、1978年の時点で中国は156ドル
で、世界138カ国中135位まで、貧しくなってしまったので
す。もっとも文化大革命をはじめる前の1960年の中国もけっ
して豊かではなかったのですが、それでも世界101カ国中84
位であり、ビリよりも18カ国も上だったのです。
 毛沢東が亡くなってからも、路線対立は収まらなかっのですが
1985年頃から、ケ小平は、最終的には「共同富裕」を目指す
ものの、「先富論」を打ち出して、改革開放路線を正式に打ち出
したのです。「先富論」とは、先に豊かになれる者たちを富ませ
落伍した者たちを助けること。そして、富裕層が貧困層を援助す
ることを一つの義務にして、最終的には「共同富裕」を実現する
ことをいいます。
 中国の改革開放政策によって、中国の経済は飛躍的な発展を遂
げて、現在にいたっています。1990年頃から、中国の一人当
たりGDPは、右肩上がりで上昇し、2010年に名目GDPで
日本を抜き、世界第2の経済大国になっています。ケ小平が推進
した改革開放は大成功であったわけです。
 しかし、習近平政権は政権発足当初から「共同富裕」という言
葉を使っていますが、少しずつ発言回数を増やしています。ブル
ームバークの調べによると、2019年までは、1年間5〜15
回述べる程度だったのですが、2020年になると30回、20
21年8月までは60回以上というように、言葉の使う回数を増
やしてきています。
 そして、2021年8月17日に開催された中央財経委員会第
10回会議からは、明確に「共同富裕」を打ち出しています。そ
れが経済の下押し圧力になることを承知のうえで、その実現のた
めに、国民の自由を規制し、中国共産党による統制を強化する動
きが加速しています。そして、打ち出されたのは、次の3つの統
制強化です。
─────────────────────────────
          @金持ち崇拝の戒め
          A新三座大山の退治
          B若年層の教育指導
─────────────────────────────
 これら3つの統制強化については、明日のEJで詳しく述べま
すが、@の「金持ち崇拝の戒め」に関して、宮崎正弘氏は「関羽
像」が解体されたとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 象徴的な出来事があった。中国は賢沢禁止令に続いて、「金儲
けの神さま」である関羽像を解体したのだ。湖北省荊州市の「関
公義園」に巨大な関羽像があった。高さ57メートル。洪水の町
として知られる荊州で、観光事業のシンボルだった。ところが、
2021年9月に中央政府の路線変更により、無駄な金遣いだっ
たとして、解体作業がはじまったのである。本拠地の湖北省は、
関羽ゆかりの地、しかも荊州は、関羽の主戦場だったゆえに高層
ビルのような関羽像を設立させたのでだ。習近平の「共同富裕」
キャンペーンは金儲けを戒める目的がある。  ──宮崎正弘著
          『中国経済はもう死んでいる』/徳間書店
─────────────────────────────
 「共同富裕」キャンペーンが開始されるや、「贅沢品は敵」と
なって、中国の宴会では必ず出るマオタイ酒で利益を上げてきた
「貴洲茅台酒」の株価が暴落し、時価総額で23兆円が蒸発して
しまっています。この蒸発分だけでも、サントリーとハイネケン
をあわせた時価総額を超えています。
             ──[新中国・ロシア論/037]

≪画像および関連情報≫
 ●突如、習近平が連呼し始めた「共同富裕」とは?
  ───────────────────────────
   中国共産党にとって一番大事なことは何か?それは共産党
  の維持、そして表裏一体になる中華人民共和国の維持だ。そ
  のなかでは反乱要因や権力を侵そうとする人たちを確実に取
  り除くというのが基本。彼らが最も恐れるのは国民の不満に
  よる社会不安であり、社会が安定するならば国民ウケする政
  策を優先し少々の経済的ダメージは厭わない。
   「共同富裕」は1953年に毛沢東が提唱した“貧富の格
  差を縮小して社会全体が豊かになる”という意味のスローガ
  ン。中国語がわからなくても漢字を読めば、意味合いはすぐ
  わかるだろう。これほど社会主義思想にぴったりくる言葉は
  ない。ただ、いきなりそれを実現するのは非現実的なことか
  ら、ケ小平が1970年代に改革開放を進めたときには“先
  に富める者から豊かになれ”という「先富論」を説き、最終
  目標として「共同富裕」を打ち出している。
   格差や不平等はいつでも世界の国々の大きな問題で戦争や
  革命の引き金になってきた。世界史的にはロシア革命がわか
  りやすいが、19世紀に入って資本主義経済が発達し、資本
  家と労働者、都市と農村の格差が拡大したことで平等な社会
  を実現するため社会主義的思想が台頭し、市民が団結、革命
  に至った。中国政府にとっても例外ではない。
                  https://bit.ly/3Bh9jo9
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関羽像.jpg
関羽像
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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