2007年07月25日

●2006年4月のIMFの声明文の衝撃(EJ第2129号)

 このところ難しい話が続いているので、少し論点を整理してお
くことにします。EUのマーストリヒト条約の財政規律−−財政
赤字の上限がGDP比3%−−この数値はかなり低いし、こうい
う規律によって財政政策が縛られるのは問題です。
 国債発行枠を30兆円以下にする−−いうまでもなく小泉前首
相の公約ですが、これもEUの財政規律と同じように制限を設け
る間違った政策といえます。
 しかし、小泉首相は2003年になると、国債発行枠制限につ
いて何もいわなくなります。「やろうと思ったけれども結局無理
だとわかってやめたのだろう」−−多くの人はそう思っているよ
うですが、小泉前首相はいったん口にしたことを引っ込めるよう
な人間ではありません。たとえそれをやって経済が多少おかしく
なっても、断固としてやり続ける人です。それでは、なぜ、やめ
たのでしょうか。
 米国−−というよりG7からストップがかかったのです。日本
では小泉政策により財政支出が制限されているので、日本の選択
肢は輸出しかないのです。それを可能にするためには「円安」政
策が必要になります。しかし、既に世界有数の貿易黒字国である
日本がそれをやるのは大きな問題があるのです。
 これはドイツがとっている、いやとらざるを得なくなっている
選択肢と同じです。ただ、ドイツの場合、主としてユーロ圏の景
気の良い国に輸出しようとしているのです。しかし、通貨は同じ
なので労働賃金を低くして競争力をつけているのですが、これが
EU内の周辺国から非難の的となっているのです。
 日本の場合、国債発行を制限したので、当然円安政策を望む声
が強くなります。そうしないと、輸出産業はやっていけないから
です。そのため小泉政権は史上最大の10兆円という為替介入を
実施して円安を維持しようとしたのですが、G7からはそれをや
めてくれといわれたのです。
 というのは、当時米国でも、EUでも自国通貨を安くしようと
していたので、これをそのまま放置すると、世界が1930年代
の大恐慌と同じ間違いを繰り返すことになるからです。自国の経
済を救済するために国外からの需要にたよる−−これを近隣窮乏
政策というのですが−−多くの国がこれをやると、世界レベルの
合成の誤謬が起こってしまうのです。
 ケインズが1945年に国際通貨基金(IMF)を創設したの
はこの国際的な合成の誤謬に対処するためです。国のレベルで起
こった国内的な合成の誤謬であれば、各国政府の財政出動で対処
できるのですが、国際的な合成の誤謬に関しては対応不能になる
からです。
 日本経済の回復には、基本的部分と循環的部分があります。経
済に「陰」と「陽」の両局面があり、「陰」の局面ではバランス
シート不況が発生するというここまでの説明は、基本的部分と考
えてよいでしょう。それに加えて景気には、循環的部分があるの
です。この基本的部分の解決傾向と循環的部分がうまく重なりつ
つあるのが、現在の日本経済の状況です。この傾向は2006年
頃から目立ってきたのです。
 2006年4月の時点−−日・米・欧の経済指標はきわめて好
調だったのです。そこには、景気の悪化を示唆するものは何もな
かったといえます。ところが、4月の終りから5月のはじめにか
けて世界的に急に株価が下がり、金利が下がったのです。
 何が起こったのでしょうか。
 それは、G7、OECD、IMFがほとんど時期を合わせて、
世界的な貿易不均衡問題に対して警告を発したからです。この中
で一番長いペーパーを出したのはG7であり、一番トーンが厳し
かったのはIMFなのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 世界的貿易不均衡の秩序ある解消のためには、各国の内需の再
 調整、すなわち具体的には米ドルを現状の水準から大幅に切り
 下げることと、経常黒字国、特にアジアの諸国と産油国の通貨
 を切り上げることが必要になるだろう。 ――IMFの声明文
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このIMFの声明文について、リチャード・クー氏は後日ワシ
ントンを訪れたとき、IMFの幹部に会って「この声明は米国の
合意があってのことか」と、その真意を確かめたところ、次の返
事が返ってきたというのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         Absolutely −−その通り
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これは、世界的な貿易不均衡問題は、今や待ったなしの情勢で
あることを意味しています。このところ米国が軍事・外交の面で
大きな政策転換をしてきていますが、このIMFの声明にもそれ
が見られるのです。
 つまり、米国は経済の面でも大きな政策変換をしようとしてき
ているのです。それは、米国はこれまで世界経済を引っ張ってき
ましたが、もうそろそろ限界ですよというサインにほかならない
というわけです。
 それほど、米国の貿易赤字は厳しい状況にあるのです。国の貿
易赤字がGDPの3%を超えると、IMFから警告が入ることに
なっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−       3%を超える ・・・・・ イェローカード
    5%を超える ・・・・・ レッド・カード
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ところが最近の米国のそれは7%を超えているのです。だから
こそ警告が、G7、OECD、IMFの3ヶ所から同時に出され
ることになったのです。
 これには、いろいろな背景があります。明日のEJでは、米国
の双子の赤字とドルの問題について、その内情について述べるこ
とにします。        −−[日本経済回復の謎/38]


≪画像および関連情報≫
 ・あるブログから――米国の貿易赤字について
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ・・・そんな私の数年前からの疑問は、「米国が毎年莫大な
  貿易赤字を出しているのに、なぜドルの値段はどんどん下が
  っていかないのか?」である。「それは日本が米国の国債を
  買ってあげているからだよ(日銀の米債買い支え説)」「ア
  メリカ政府はドル紙幣をどんどん印刷しているからだよ(ド
  ル紙幣印刷説)」、「アメリカ人は借金して買い物をしてい
  るからだよ(アメリカ人の過剰消費説)」などの発言も聞い
  たことがあるが、どうも私には納得出来ない。世界の金融市
  場は、そんなデタラメを許すほど甘くはないはずだ。  
    http://satoshi.blogs.com/life/2005/08/post_18.html
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

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posted by 平野 浩 at 04:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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