2022年08月31日

●「『習下李上』など絶対あり得ない」(第5804号)

 今年になって、ネットユーザーを中心に「習下李上」という言
葉がいわれるようになっています。「習下李上」の意味は、習近
平が下馬(下野)し、李克強が上位に立つということです。中国
では「下野」のことを「下馬」といいます。これについては、こ
のテーマの冒頭部分でも取り上げています。
 しかし、中国分析の第1人者といわれる遠藤誉氏は、これにつ
いて完全否定し、それは日本の一部の中国ウオッチャーと日本の
メディアによるフェイク情報であると断言しています。遠藤氏は
自身のコラムで次のように発言しています。
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 習近平が下馬すれば、中国大陸の八大民主党派の「中国国民党
革命委員会」とか「台湾民主自治同盟」などの党首が、習近平に
取って代わるわけではない。中国は中国共産党が統治する一党支
配体制であることに変わりはないので、何も喜ばしいことはない
のである。
 日本人は李克強がまるで個人の意思で何か発言していると勘違
いして、「習近平が失墜して李克強の人気が上昇している」とか
「李克強が習近平をガン無視」といった類のことを書いては喜ん
でいるが、李克強はあくまでもチャイナ・セブン(中共中央政治
局常務委員会委員7名)の合意の結果の一つを発表する役割をし
ているだけで、そこには、寸分たりとも「個人の意思」はない!
「個人の言葉」は皆無なのである。       ──遠藤誉氏
                  https://bit.ly/3RiQl5R
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 つまり、遠藤氏がいうには、今年の秋の共産党党大会において
李克強首相が習近平総書記に代わって総書記になることはあり得
ないし、そういう総書記を選ぶシステムになっていないというの
です。実際に今年の全人代閉幕後の記者会見において、当の李克
強首相自身が、「これが最後になる」と退官の意思を表明してい
ます。遠藤氏は「習下李上」などあり得ないというのです。
 中国のことを知るには、どのようにして、「中国共産党中央総
書記」が選ばれるのかについて、そのシステムを知る必要があり
ます。以下、遠藤誉氏の説明を参考にして解説します。
 誰が中国共産党中央総書記を選べるのか──それは約14億人
の中国人のうちの約200名しかいない中国共産党中央委員会委
員であり、彼らに投票資格があります。
 14億人の中国人のうち、約1億人が中国共産党員です。正確
にいうと、9514・8万人(2021年6月5日現在)です。
このうちの約3000人が、全国代表として全国津々浦々の行政
区分地区から選ばれた「全国代表」として、5年に1回開催され
る共産党大会に参加するのです。
 その3000人の中から、中国共産党中央委員会委員200名
を選ぶのです。具体的には、党大会の全国代表を選ぶ選出母体が
それぞれ割り当てられた「候補者」をノミネートします。これら
ノミネートされる人物が適切であるか否かは、総書記をトップと
する中央組織が審査監督するので、中国共産党にとって、不都合
な人物が総書記に候補者に選ばれることは皆無です。
 この200人の選出に当たって、中国共産党は小細工をしてい
ます。200人を選ぶのですが、10%増しの候補者をノミネー
トして、10%を落選させるのです。これを中国共産党は「党内
民主」と呼び、「中国共産党は民主的な選挙を行っている」と胸
を張るのです。
 問題は、総書記を選ぶ200人ですが、このような仕組みであ
ると、習近平氏に反対する人物がこの200人に入る可能性はほ
とんどないといえます。これについて、遠藤誉氏は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 ここで重要なのは、今年秋の党大会で「次期中共中央総書記」
に関して投票する資格を持っているのは、習近平の「指導」の下
で選ばれた中共中央委員会委員候補者で、その中から選ばれた中
共中央委員会委員であることを考えると、習近平が継続して総書
記になることに反対する者が、その候補者リストの中に入ってい
るということはほぼ「あり得ない」ということである。
          ──遠藤誉氏/ https://bit.ly/3q9fIvr
─────────────────────────────
 共産党大会が閉幕すると、直ちに一中全会(中国共産党中央委
員会第一次全体会議)が開催され、そこで中央委員会が投票して
中国共産党中央総書記が決定されます。そして、翌年3月に開催
される全人代(全国人民代表大会)で国家主席が選出され、一連
の儀式の全過程が終了するのです。
 習近平主席は、自分の前任者である胡錦濤氏が、その前任者の
上海閥の江沢民氏が権力を完全には手放さなかったため、自分が
やりたいことが思うようにできず、大変苦労しているのを見てい
たのです。
 そこで、総書記就任と同時に胡錦濤前主席にも協力を要請し、
「トラもハエもたたく」というスローガンで、汚職腐敗防止を強
化したといいます。当時、権力中枢にも、地方行政府にも汚職が
蔓延し、ひどい状態であったからです。「腐敗を防止しなければ
共産党が滅び、国も亡ぶ」と考えていたからです。
 そのかたわら、習近平主席は、地方行政府にも、自分の周辺に
も自身の腹心を配置し、権力基盤を固めていったのです。その視
線の先には、通常2期10年と決められている総書記の任期を撤
廃し、終生支配をもくろんでいたということがいえます。
 同様に、いわゆる北戴河会議においても、習近平主席は、引退
した「長老」に口出しさせないことをモットーとしてきており、
この秘密会議が以前ほど重要視されず、形骸化、儀式化されつつ
あります。したがって、この北戴河会議において、現政権の方針
が大幅に変更されることなどあり得なくなっているといいます。
このようにして、習近平主席の終生総書記実現は、不動のものと
なっているのです。    ──[新中国・ロシア論/031]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平が終身権力者になる前触れ? 中国メディアが使い始
  めた、ある尊称
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   中国共産党の秋の党大会は、どうやら10月末頃に行われ
  るようだ。情報筋から、そういう観測がだんだん伝わり始め
  た。香港英字紙「サウスチャイナ・モーニングポスト」(7
  月18日付)が特ダネとして、習近平が11月に欧州4カ国
  (ドイツ、フランス、イタリア、スペイン)の首脳を北京に
  招くことを決定したと報じた。多くのチャイナウォッチャー
  たちがこの報道を、習近平が秋の党大会を乗り越えて総書記
  任期3期目を継続することが確定しているという予測の補強
  材料にしている。もっとも、7月19日にこの件について記
  者が外交部定例記者会見で質問したとき趙立堅報道官は「ど
  こからの情報だ?フェイクニュースだ」と一蹴している。
   加えて香港紙「明報」(7月11日付)が、秋の党大会で
  正式に習近平に「人民領袖」の尊称が使われるようになると
  報じ、習近平の第3期目総書記連任は確実だという中国政治
  学者の意見を引用した。
   果たして本当に習近平総書記の3期目の連任は確実になっ
  たのだろうか。習近平を「人民領袖」と呼ぶことが決定する
  という明報の特ダネ報道については、まもなく中国中央テレ
  ビ(CCTV)が人民領袖いう言葉を使い出したので、まっ
  たくのフェイクというわけではなさそうだ。
                 https://bit.ly/3KvCmqX
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遠藤誉氏.jpg
遠藤誉氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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