2022年08月09日

●「中国の対台湾への軍事演習の見方」(第5789号)

 本稿執筆時点の2022年8月7日現在、中国軍はペロシ訪台
に抗議の意思を示すとして、台湾周辺での軍事演習を続行させて
います。演習は7日までとなっているものの、台湾海峡の「中間
線越え」は今後も常態化する可能性があります。これについて、
NHKウェブでは、次のように報道しています。
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 アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問したことに対抗して、
中国軍は台湾周辺での大規模な軍事演習を7日午後まで行うとし
ていますが、今後も台湾海峡の「中間線」を越える軍事活動を常
態化させ、軍事的な圧力を強めるのではないかと懸念が広がって
います。アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問したことへの対
抗措置だとして、中国軍は今月4日から日本時間の7日午後1時
まで期間を設けて、台湾を取り囲むように合わせて6か所の海域
と空域で大規模な演習を行っています。(中略)
 一方、台湾国防部は6日も中国軍の航空機や艦艇が台湾海峡の
「中間線」を越えて活動したことを確認し「台湾本島に対する攻
撃の模擬訓練」という見方を示しています。そして「中国軍が連
日、台湾海峡周辺に航空機や船舶の航行禁止区域を設定して演習
を行っていることは、一方的な現状変更だ」と非難しました。大
規模な軍事演習の終了後も中国が「中間線」を越える軍事活動を
常態化させて、台湾に対する軍事的な圧力を強めるのではないか
と懸念が広がっています。      https://bit.ly/3dcRBbS
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 軍事的に台湾を攻略することを考えるとき、台湾海峡と、その
南側、フィリピンのルソン島との間のバシー海峡の2つの海峡を
封鎖することが必要条件になります。これら2つの海峡について
は、添付ファイル「中国軍の演習区域」を参照してください。
 今回、中国が演習を行っているエリアは、これら2つの海峡を
含んでおり、台湾進攻のさいの実践訓練を行っているものと考え
られます。これについて、笹川平和財団の小原凡司上席研究員は
なぜ、それが必要なのかについて、次のように述べています。
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 この2つの海峡を封鎖すれば、台湾の物流を止めることができ
る。戦略物資だけでなく、食料品も入ってこなくなり、台湾が干
上がる。それが「できる」という中国の意思表示だろう。
           ──笹川平和財団の小原凡司上席研究員
              2022年8月6日付、朝日新聞
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 中國には、どのような状況になったら、台湾を武力侵攻すべき
か判断する「戦争触発6項目条件」というものが定められていま
す。その6項目とは、次の通りです。
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    @台湾当局による公然とした独立宣言
    A台湾当局による独立をめぐる住民投票の実施
    B台湾の外国軍駐留
    C台湾の核兵器開発再始動
    D台湾が軍事手段を持って大陸を攻撃したとき
    E台湾での大規模暴動発生 ──福島香織著/徳間書店
      『習近平最後の戦い/ゼロコロナ、錯綜する経済/
                    失策続きの権力者』
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 このように中国は、台湾はあくまで中国の一部であるとする、
「1つの中国」を主張しますが、はっきりいってこれは無茶苦茶
な主張といえます。なぜなら、台湾は、独立した政府と通貨と軍
隊を持ち、独自の憲法を有し、中国とはまったく異なる民主主義
政治を行っている事実上主権国家であるからです。
 しかし、もし、台湾が主権国家と同じような振る舞い、例えば
国連への加盟申請を行えば、中国はそれをもって台湾が@の「公
然とした独立宣言」をしたとみなし、戦争を仕掛ける口実にする
はずです。
 そもそも中国は、国交を結ぶときに「1つの中国」を認めさせ
ています。国交締結の条件にしているのです。これは、米国と日
本も同様です。しかし、米国は、「台湾関係法」を制定し、台湾
に対し、武器の支援などを行えるようにしています。
 台湾関係法は、カーター政権による台湾との米華相互防衛条約
の終了に伴って、1979年に制定されたものであり、台湾を防
衛するための軍事行動の選択肢を米大統領に認めています。しか
し、米軍の介入は義務ではなく、オプションであるため、この法
律は米国による台湾防衛を保証するものではないのです。
 今回の中国の台湾への軍事演習について、元自衛艦隊司令官の
香田洋二氏と、軍事に詳しい元官房副長官補の兼原信克氏は、ペ
ロシ訪台後の中国の軍事演習に次のように述べています。
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◎香田洋二氏
 米国は軍事的に中国よりも優位に立つ。ペロシ氏の台湾訪問は
米国が中国の脅迫や警告でけん制されないと示した。中国が(軍
事演習などで)強気に出ているのは、国内向けの発信の側面があ
る。中国軍の実戦に近い軍事演習は日米がさまざまな情報を集め
る機会にもなる。あまり利口なやり方ではない。一気に事態が緊
迫することがあり得るとすれば、中国の意図した挑発によって現
場で衝突が起きた場合だ。
◎兼原信克氏
 中国はペロシ氏の台湾訪問を脅しによって止められると思って
いたのだろう。このままでは党大会を前に習近平国家主席に傷が
付きかねないということで軍事演習を始めた。米国を甘く見たと
ころがある。米中間の緊張は高まっているものの、中国が早期に
台湾に侵攻することはないだろう。
          ──2022年8月6日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
                 ──[新中国論/016]

≪画像および関連情報≫
 ●中国、台湾周辺で過去最大の軍事演習を開始 米下院議長の
  訪台で反発
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   アメリカのナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問を受け、
  中国は4日、台湾近海で過去最大の軍事演習を開始した。実
  弾演習は、現地時間4日正午(日本時間午後1時)に始まっ
  た。台湾が領海だと主張する沿岸12カイリ(約22キロ)
  内でも演習が行われる予定。中国軍は台湾の北東沖と南西沖
  の海域に、弾道ミサイルを複数発射した。
   ペロシ米下院議長は2日深夜から3日夜までの短い時間な
  がら、台湾を訪問。物議を醸した。台湾を分離した省とみな
  している中国は3日、「必要かつ正当な」軍事演習を4日か
  ら7日まで実施すると発表した。台湾は、中国が現状変更を
  試みているとしている。中国の反発は、この軍事演習が主体
  だ。併せて台湾との貿易を一部遮断する措置も取っている。
   今回の演習では、世界で最も交通量の多い航路の一部にお
  いて、「長距離実弾射撃」などを行う予定だとしている。台
  湾は船舶に対し、代替航路を探すよう求めた。隣国・日本や
  フィリピンとは、代替航空路について交渉している。
   台湾によると、中国の戦闘機27機がすでに、台湾が設定
  している防空識別圏に侵入したという。台湾の国防部(国防
  省)は3日、ジェット機を発進させ中国側に警告を発した。
  国防部はその後、おそらくドローンとみられる正体不明の航
  空機が金門島の上空を飛行したと付け加えたと、ロイター通
  信は報じた。台湾軍は航空機を追い払うため照明弾を発射し
  警戒を続けたという。      https://bit.ly/3bATvCB
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中国軍の演習区域.jpg
中国軍の演習区域
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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