2007年07月24日

●ドイツ経済とEUの財政規律(EJ第2128号)

 ドイツ経済についてもう少し述べる必要があります。なぜなら
バブルが崩壊した2000年以降のドイツの経済状況を分析する
ことによって、マーストリヒト条約により財政政策が自由に使え
ない状況では、バランスシート不況で何が起こるかについての情
報が得られるからです。
 マーストリヒト条約はEUの財政規律であって日本には関係が
ないと楽観してはいられないのです。既に述べているように、日
本でも自民党の憲法調査会では「均衡財政」を憲法に明記しよう
と画策しており、そうなると日本でも財政政策は自由に使えなく
なってしまうからです。「均衡財政」は響きの良い言葉ですが、
政府の財政政策の手足を縛るものなのです。
 ドイツは、世界有数の工業先進国であるとともに貿易大国であ
り、GDPの規模では米国、日本に次いで世界第3位、とくに輸
出のGDPに占める割合は大きく、2002年は約35.5%を
占めるのです。ちなみに日本は約11.1%であり、これから考
えてもドイツの約36%がいかに大きいかわかると思います。
 しかし、日本もそうであるように、貿易大国であるとか貿易黒
字国であるといっても、一部の大企業が潤うだけで、国民の生活
は必ずしもよくなるとはいえないのです。
 それでは、バランスシート不況によってドイツに何が起こって
いるのでしょうか。
 ドイツの抱える現在最大の課題は失業問題です。シュレーダー
前政権下のドイツは、2001年以降、景気低迷が続くなかで失
業者が急増し、2005年1月には統計数値上、失業者が戦後初
めて500万人の大台を突破し、2月には522万人を記録する
までになったのです。
 そして、この失業問題はシュレーダー政権への大きな批判材料
となって、政権交代の原動力となったのです。その後多少状況は
改善されたものの、現メルケル政権が発足した2005年11月
の時点の失業者は次の通りとなっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 失業者数453万人 失業率10.9%――2005.11
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドイツは歴史的に社会福祉を重視し、いわゆる「手厚い社会福
祉国家体制」を築いてきた国なのです。しかし、これがグローバ
ル化、少子高齢化、IT化といった環境変化にうまく適応できず
高コスト体質といった構造問題が顕在化するようになります。
 そして、1999年に実施された「欧州通貨統合」が従来の体
質とうまくマッチングできず、それに「東西ドイツ統合問題」も
加わって一層の経済低迷を招く原因となったのです。
 前シュレーダー政権は、こうした構造問題に取り組んできたの
です。高コスト体質には労働市場改革、税制改革、社会保障改革
など――日本のように口先だけの改革ではなく、これらは少しず
つではあるが、解消に向かいつつあるといえます。
 こういう経済状況においてドイツ企業が成長していく道は、輸
出しかないのです。ユーロ圏の景気の良い地域に向けて、ひたす
ら輸出を促進するのです。ユーロ圏であれば同じ通貨であり、関
税障壁もないので、製品に競争力があればいくらでも輸出を伸ば
すことができるのです。そのために労働賃金は低く抑えられるこ
とになったのです。そして、今やドイツは日本を抜いて世界最大
の貿易黒字国になっているのです。これによって、ドイツの経済
は少し良くなりつつあることは確かです。
 この反動で現在のヨーロッパでは、ドイツの賃金は安過ぎると
いう批判が出ています。というのは、ドイツのやり方は悪くいう
と、自国の失業を近隣国に輸出していると批判されてもしかたが
ないからです。
 2005年11月に発足したメルケル政権は、EUの財政規律
を守るため、350億ユーロ規模の財政健全化策を公約とし、そ
の実現のために付加価値税(日本の消費税)を3ポイント引き上
げを決めています。すなわち、2007年1月にそれまで16%
だった付加価値税を19%に引き上げ、さらに高額所得者の所得
税率をアップさせるなど、景気を抑制させる政策を打ち出してお
り、経済の本当の意味での再生を遅らせているといえます。
 リチャード・クー氏は、ECB(欧州中央銀行)の幹部に対し
て、バランスシート不況のときは、マーストリヒト条約の例外を
認めるべきであると主張したところ、ECBはそれはできないと
いうことだったそうです。
 しかし、いずれにしてもマーストリヒト条約の財政規律には大
きな問題があります。日本総合研究所のドイツに関する次のレポ
ートでも、EUの財政規律はドイツの経済成長の足かせになると
して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 欧州通貨統合が(ドイツの)経済成長の新たな重石となる懸念
 もある。金融政策および財政政策の自由度が低下したために、
 必要なときに機動的な景気政策が打ち出せず、景気の不安定化
 を招いてしまいかねないという点が懸念されている。
           ――『ドイツ経済の回復は本物か』より
 日本総合研究所・調査部/マクロ経済センター/2006.6
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済には「陰」と「陽」の局面がある――そして、「陰」の局
面のときだけに適切かつ大胆な財政出動を行い、経済を少しでも
早く「陽」の局面に転換させる。しかし、「陽」の局面では絶対
に財政出動を行わず、金融政策で経済を支える。そして財政再建
を行って、財政赤字を削減し、次の「陰」の局面に備える――こ
ういう経済政策を行えば、大恐慌を避けることができるというの
がリチャード・クー氏の主張するバランスシート不況の経済学で
あるといえます。
 しかし、それにしても、なぜこれほどまでにケインズ的財政政
策は嫌われるのでしょうか。経済学の世界にはこのようにミステ
リアスなことが多くあるのです。―[日本経済回復の謎/37]


≪画像および関連情報≫
 ・ECBとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ECB――欧州中央銀行とは、ヨーロピアン・セントラル・
  バンクの略で、欧州全体の金融政策を決める唯一の中央銀行
  のこと。欧州通貨統合のスタートに伴い、1998年6月発
  足。本部はフランクフルト。欧州単一通貨ユーロの通貨発行
  権を持ち、管理も行う。最高意思決定機関は各国中央銀行総
  裁らを含む17人で構成する理事会。理事会は毎月開かれ、
  政策金利変更の是非を議論する。職員は政策立案から経済情
  勢分析などを行い、物価の安定を目的に、加盟国の外国為替
  オペレーションや外貨準備などを行っている。
                 ――政治・経済用語集より
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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