2022年07月25日

●「イデオロギ−化する中国コロナ対策」(第5778号)

 中国において現在も続いているゼロコロナ対策──これについ
て、話を整理します。
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◎2022年 4月29日/  共産党政治局会議
 ・ゼロコロナ対策を緩和し、経済を活性化させるべきである
◎2022年 5月 5日/中央政治局常務委員会
 ・ゼロコロナ政策は党の最も重要政策であり、科学的である
◎2022年 5月25日/国務院主催の全国会議
 ・経済における重要全国会議だが、ゼロコロナ対策は不言及
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 まず、共産党政治局会議で、ゼロコロナ対策を緩和し、経済を
活性化させるべきという決議をしています。これは、至極まっと
うな決議です。しかし、習近平主席は、その共産党政治局会議の
決議をその上部機関である中央政治局常務委員会において否定し
ています。
 習近平主席は、ゼロコロナ対策を緩和するつもりはまったくな
いようです。しかし、政治局会議の委員は25人で、全体の意見
をまとめるのが大変であるのに対し、その上部組織である中央政
治局常務委員会は委員は7人であり、習近平主席がコントロール
できるので、この委員会で潰したのです。7人の委員を色分けす
ると、次のようになります。
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    ◎中央政治局常務委員会の7人
     ★習近平主席派
      習近平、栗戦書、王こねい、趙楽際
     ★反対派
      李克強、汪洋
     ★中立派
      韓正
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 政治局常務委員会では、李克強首相と汪洋委員は、ゼロコロナ
対策に反対したものの、しかし、数の力に敗北しています。これ
によって、中国のゼロコロナ対策は絶対化され、継続されること
になったのです。
 これに反発するように、李克強首相は、国務院主催の全国会議
を開いています。この会議には、李克強首相以下、4人の国務院
副総理全員と、関連中央官庁責任者らが参加し、推定参加者人数
は10万人にのぼる大会議です。しかし、そこでは、ゼロコロナ
対策については言及されていません。
 北京冬季五輪まで1カ月を切る、2022年1月1日のことで
す。西安(シーアン)市という中国陝西省の省都があります。古
くは、中国古代の諸王朝の都となった長安のことです。国家歴史
文化名城に指定され、世界各国からの観光客も多い都市です。
 その西安市の党中央政治委員である孫春蘭副首相の名義で、あ
る指示が出されています。これを受けて、1月2日に、陝西省党
委員会の劉国中書記から次の命令が出されます。これら2つの指
示を以下にまとめます。
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  ◎孫春蘭副首相の指示
   西安市で拡大中のコロナ新規感染者をゼロにせよ
  ◎陝西省党委員会劉国中書記
   できるだけ早く、「社会面清零」目標を実現せよ
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 ここでいう「社会面清零」とは何のことでしょうか。
 これは、感染者をゼロにすること、消し去ること、いなくなる
ようにすることを意味します。
 おそらく西安市のある「小区」(コミュニティ)に感染者が出
たものと考えられます。それをできるだけ早く「消し去れ!」と
いっているのです。
 実際にその小区には、大型のバスがやってきて、そこの住民を
全員乗せて、郊外の隔離施設に連れて行ったのです。このときの
様子を福島香織氏は次のように書いています。
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 ターゲットとなった小区の住民は何の前ぶれもなく、身の回り
の必需品すら取りまとめる時間もほとんど与えられず、1台のバ
スに老人から乳幼児、妊婦まで一緒くたに詰め込まれ、目的地す
ら判明しないまま郊外、たとえば漢中や安康区の隔離施設に連れ
ていかれた。一部ではきちんとしたホテルを借り上げて隔離施設
にしているところもあるようだが、私がインターネット上で見た
動画では、水栓一つあるだけで、暖房すら備わっておらず、2段
パイプベッドが4〜5個設置されている小汚い部屋に案内された
隔離対象住民が「あまりに環境が悪い」と激怒していた。聞けば
配給の食事も人数分に満たなかったらしい。
 そもそも、感染拡大防止のための措置なのに、団地の居住者を
何世帯も一緒くたに健康な人も具合の悪い人も分けずにバスに乗
せ、狭い衛生環境の悪い部屋に隔離すれば、むしろ交差感染が起
きやすい環境をつくることにはならないか。  ──福島香織著
   『習近平/ゼロコロナ、錯綜する経済、失策続きの権力者
                 /最後の戦い』/徳間書店
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 中国のフリージャーナリストの江雪氏は、この西安市の悲劇を
『長安十日』と題するレポートにまとめ、1月4日に微信(ウィ
ーチャット)にアップして大きな話題になっています。このレポ
ートは、1月8日までに削除されています。
 「感染者を出さないようにする」という目標はいいのですが、
町から感染者及び濃厚接触者を強制隔離してそれを実現するのは
乱暴です。本当に住民のことを考えてやっているのか疑問に感じ
ます。中国におけるゼロコロナ対策は、単なる感染防止対策を超
えて、イデオロギーになってしまっています。
                 ──[新中国論/005]

≪画像および関連情報≫
 ●アングル:終わらぬ中国「ゼロコロナ」政策、経済への影響
  長期化
  ───────────────────────────
  [北京7月14日/ロイター]中国は新型コロナウイルスを
  巡り、厳格に感染を抑止する「ダイナミックゼロ」政策を小
  幅に修正しているものの脱却する兆しは見えず、ワクチン接
  種でも遅れを取っている。このことは中国経済に暗い影を落
  とし続けそうだ。
   政府はダイナミックゼロ政策脱却に向けた工程表を示して
  いない。こうした政策は来年も続くと予想されており、住民
  と企業を覆う不透明感は長引く見通しだ。最近も感染が散発
  して一部都市ではロックダウン(都市封鎖)が実施された上
  感染力の強い新型コロナ変異種「BA.5」が登場したため
  懸念はさらに強まっている。ロックダウンの影響に加え、く
  すぶり続ける不動産市場の問題と世界経済の不確実性が中国
  経済に重くのしかかる。
   今週は、上海の住民2500万人に新型コロナの集団検査
  が義務付けられた。野村の推計では、11日現在、31都市
  が全面的もしくは部分的なロックダウンを実施中。これらは
  国内総生産(GDP)の4分1に寄与する地域であり、約2
  億5000万人が影響を受けている。諸外国がコロナとの共
  生を図っているのとは対照的に、中国の習近平国家主席は厳
  格な対策によって救われた命を強調する。
                  https://bit.ly/3Ptw2Se
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中國におけるPCR検査.jpg
中國におけるPCR検査
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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