起きたといえます。安倍晋三元総理が、奈良市の近鉄大和西大寺
駅前の広場で、参院選の応援演説をしているとき、背後から近づ
いてきた男に銃で撃たれ、ドクターヘリで運ばれた橿原市の県立
医科大学付属病院において、懸命な救命措置が行われたものの、
亡くなったことです。
首相経験者が銃撃されて亡くなるケースは、戦後には例がなく
選挙演説中に銃撃され、死亡したケースとしては、1932年2
月、右翼結社の血盟団の団員が、衆議院選挙の最中、井上準之助
前蔵相が演説会場で演説しているときに銃撃され、死亡したケー
スがあります。まして今回は、街頭演説中のことであり、背後か
ら狙われたら、防ぐのは困難です。こういうことが連鎖しないこ
とを祈るばかりです。
安倍元首相の死去に関しては、世界各国の首脳から、多くの弔
電が寄せられていますが、ロシアのプーチン大統領からも、次の
ような弔電が届いています。
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安倍晋三氏の死に際し、深いお悔やみを申し上げます。犯罪者
の手は、長きにわたり日本政府を率い、両国間の関係発展に多く
を成し遂げた、優れた政治家の命を絶ちました。私とシンゾーは
定期的な連絡を取り続けましたが、その中で彼の素晴らしい個人
としての、またプロフェッショナルな資質が、完全に発揮されて
いました。 ──ロシア・ウラジミール・プーチン大統領
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おそらく現在の日本で、プーチン大統領から、これだけの弔電
をもらえる人は、安倍元首相だけであろうと思います。北方領土
返還のため、成功も前進もなかったものの、これほど努力した政
治家は、安倍晋三元首相以外いないと考えられるからです。
ロシアといえば、2018年平昌冬季五輪のフィギュアスケー
ト女子で金メダルに輝いたアリーナ・ザギトワさん=ロシア=は
8日、銃撃されて死去した安倍晋三元首相に「謹んでお悔やみ申
し上げます」と表明。2度にわたる面会の写真をインスタグラム
に24時間限定で投稿し、メッセージに「涙」の絵文字を付けて
います。秋田犬の「マサル」贈呈の件で、安倍元首相と2回会っ
ているからです。
それにしても、安倍元首相を失ったことは、自民党にとって、
いや、政府与党にとって、次の2つ喪失につながる恐れがあると
考えられます。
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@財務省と向き合えるパワーを持てる勢力の喪失
Aロシアとの関係の修復ができるキーマンの喪失
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@について考えます。
2012年12月26日からスタートした安倍政権は、202
0年9月16日に総辞職するまで、安倍首相の連続在任日数は、
2822日となり、第1次政権を含む通算在任日数は3188日
で、いずれも憲政史上最長となっています。
その間、安倍政権は、日本をデフレから脱却させるために、日
銀と連携によるアベノミクスを推進させています。アベノミクス
がうまくいったかどうかについては諸説がありますが、民主党の
野田政権と自民党プラス公明党が組んで法律化していた「社会保
障と税の一体改革」によって税率を5%〜10%に引き上げざる
を得なくなり、結果として日本経済をデフレから脱却させること
には失敗しています。
しかし、安倍政権が一貫して財務省勢力と戦っていたことは確
かであり、その点は評価できます。その他、森友問題や桜を見る
会などの不祥事はありましたが、首相を降りたものの、自民党の
最大派閥の長として、日本にとって、最も重要な防衛力強化問題
に取り組むため、財務省勢力と渡り合えるパワーを持つ存在であ
ることは確かです。しかし、安倍元首相の死去によって、政治の
パワーバランスが変わるざるを得なくなります。7月9日付、日
本経済新聞は、次のように報道しています。
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政府が6月に決めた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方
針)。安倍氏は基礎的財政収支(プライマリーバランス)の目標
年次を設けないよう働きかけた。防衛費も5年以内に国内総生産
(GDP)比で2%とするよう求め、政府に自身の主張をのませ
た。背景にあったのが最大派閥の会長という党内力学だった。首
相が率いる岸田派は党内第4派閥にとどまる。安倍氏を無視して
党プロセスを進めるのは難しく、安倍氏が決定権を握る構図が生
まれていた。1990年代以前の政府と党の関係に戻る兆しも指
摘されていた。
参院選後の政権運営を巡っても安倍氏の意向は注目を集めた。
安倍氏が次期総裁選などでも首相を支え続けるのか、他の候補を
擁立するかが政権運営を左右した。安倍氏の死去は党内力学を変
える。最大派閥の清和政策研究会(安倍派)には安倍氏の後継と
して衆目の一致する候補者が乏しい。
──2022年7月9日付、日本経済新聞より
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Aについて考えます。
ロシアによるウクライナ侵攻によって西側諸国は、経済制裁に
よる脱ロシア化を進めており、日本もそれに深く参加しています
が、ロシアという国がなくなるわけではなく、日本はロシアの隣
国であり、領土問題を抱えています。したがって、いつかは、ロ
シアとの関係修復を図る時期が来ると思います。それは、日本の
国益にとって、最善の方法で行う必要があります。
安倍元首相は、そのさいのキーマンになり得る存在であり、日
本は、そういう大事なキーマンを失ったことになります。これは
日本にとって、大きな損失になると思います。
──[新しい資本主義/125]
≪画像および関連情報≫
●安倍元首相死去、政治情勢にどう影響「岸田首相は独自路線
を取るか」政治アナリスト・伊藤惇夫〈dot.〉
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安倍晋三元首相が、街頭演説中の奈良市西大寺東町の路上
で凶弾に倒れた。最大派閥・清和政策研究会(清和会)の領
袖で保守の象徴である安倍氏は、国政に大きな影響力を示し
てきただけに、今後の政治情勢にも変化を及ぼしそうだ。岸
田文雄首相の政権運営や今後の政策にどんな影響が考えられ
るのか。政治アナリストの伊藤敦夫氏に話を聞いた。
岸田首相と安倍氏は、これまで微妙な関係を見せていまし
た。安倍氏は岸田首相に、人事や政策面でいろいろと注文を
つけていました。これに対し岸田首相はいなしたり、受け入
れるそぶりを見せたりと、「曖昧路線」をとってきました。
例えばごく最近では、防衛省事務次官の人事をめぐり、岸
田首相は安倍氏の要望を蹴っています。他方で、防衛力の強
化や改憲の問題では、一見、安倍氏の要求をのんでいるよう
な姿勢を見せていた。しかし、岸田首相は安倍氏が主張して
きた「防衛費を対GDP比で2%にする」という言質を与え
ることはしないし、改憲についても、参院選後に改憲勢力が
33分の2を占めても一気に進めるかは微妙なところです。
岸田首相の曖昧路線は、意識的なものなのか性格のためな
のかはわからないところもありますが、党内最大派閥である
安倍派の存在が首相に影響を及ぼしていたのは間違いありま
せん。安倍派は数の上ではこれからも最大派閥ですが、これ
までのような影響力を及ぼせるかは難しいところでしょう。
https://bit.ly/3bPPOss
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トランプ米大統領と安倍首相(当時)