あるウクライナに理不尽にもいきなり大量の戦車などで軍事侵攻
し、ウクライナの各都市をミサイルで破壊して多くの人命を奪っ
ています。そして現在も、軍事作戦を継続し、世界中から非難を
浴びても平然としています。しかし、西側諸国からの今までにな
いほど厳しい経済制裁によって、ロシア経済は、壊滅的な打撃を
受けているように見えます。
しかし、これは西側の有力国、なかんずくG7から見た風景で
す。6月30日と7月1日付の日本経済新聞のトップコラム『岐
路に立つG7』によると、「自由民主主義国」と分類される国は
2012年には42カ国ありましたが、2021年には34カ国
に減少しています。人口ベースで見るならば、自由民主主義国は
世界のわずか13%でしかないのです。そこで悩んでいるのは、
新興国と呼ばれる国々です。どっちの陣営につくのがプラスか、
迷っているからです。
「BRICS」といわれる新興国の枠組みがあります。ブラジ
ル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国による枠組
みです。ところで今回のG7サミットでは、アルゼンチンとイン
ドネシアの両首脳を招いています。
ところが、G7会合の前日、BRICSは、オンラインで拡大
会合を開き、そこには、アルゼンチンとインドネシアの両首脳の
姿があったのです。しかも、アルゼンチンの首脳は、その場で、
BRICSへの正式加入を希望しています。おそらくプーチン大
統領の策略でしょうが、G7が招いたアルゼンチンとインドネシ
アの首脳をわざわざ拡大会合として招待したのです。
インドネシアのジョコ大統領は、G7の会合を終えると、その
足でモスクワに向かい、30日にプーチン大統領と対面での会談
に臨んでいます。もっともインドネシアの場合は、G20の議長
国であり、そのための訪問であって、モスクワ訪問はG20成功
のための業務の一環とも考えられます。そのために、ジョコ大統
領は、G7の前に、ウクライナを訪問して、ゼレンスキー大統領
とも会い、ゼレンスキー大統領の親書をプーチン大統領に届けて
います。インドネシアが、ロシアとウクライナの仲裁役を買って
出ようとしているのでしょうか。どちらからも嫌われない作戦の
ように見えます。
「ロシアに制裁!」といっても、G7各国は一枚岩ではなく、
それぞれに政治的なウィークポイントを抱えています。G7のな
かで、ロシアに一番依存していないのは米国で、石炭、原油、天
然ガス、いずれも禁輸に踏み切っています。しかし、米国では、
11月に中間選挙があり、バイデン現政権は、インフレなどの影
響もあって、支持と不支持が逆転し、足元に大きな政治的不安を
抱えています。
英国は、制裁には熱心であり、石炭と原油の禁輸に合意してい
ますが、その実施は、2022年末までにとしており、まだ実施
に移していない状況です。
EUとしては、石炭については禁輸で合意していますが、その
実施は2022年8月からであり、まだはじまっていません。ま
た、EU各国も、それぞれ苦しい事情を抱えており、その政治的
な足元はそれぞれきわめて不安定です。
フランスは、エネルギー問題が物価高などを通じて内政に影響
を及ぼし、マクロン陣営は、低所得者層を中心に不満が充満し、
6月19日の国民議会(下院)選挙で敗北し、与党連合は過半数
割れに追い込まれています。
ドイツのシュルツ首相は「ロシアへのエネルギー依存度を下げ
ることが必要だ」とはいうものの、ガス問題については口を閉ざ
しています。国際エネルギー機関(IEA)によると、ドイツの
20年のロシア産ガスへの依存度は46%であり、これはG7の
なかでは最も高いのです。英国の依存度は3%、フランスは20
%です。しかも、ドイツは既にロシアからパイプラインを通じた
ガス供給を一部削除されており、苦しい状況にあります。
それでは、日本についてはどうでしょうか。
ロシアは、岸田政権が前安倍政権と異なり、ウクライナ侵攻を
めぐって欧米と共同歩調を取って、厳しい対ロ制裁に加わってい
ることに対して、日本を欧米と共に「非友好国」に指定していま
す。そしてとくに日本が直接関係のない北大西洋条約機構(NA
TO)の首脳会議にまで出席したタイミングを狙って、ロシアは
日本に対して、切り札を切ってきたのです。それがロシア大統領
令「サハリン2/譲渡命令」です。究極の嫌がらせです。7月2
日付の朝日新聞は、これについて、一面トップ記事で次のように
伝えています。
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◎サハリン2/譲渡命令/ロシア大統領令
日本、LNG権益失う恐れ/プーチン氏、制裁対抗か
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ロシアのプーチン大統領は、6月30日、日本の商社も出資す
るロシア極東の液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリ
ン2」の運営を、新たに設立するロシア企業に譲渡するよう命令
する大統領令に署名した。
ウクライナ侵攻をめぐり対ロ制裁を強める日本への対抗措置と
みられ、日本側が事業の権益を失う恐れが出てきた。サハリン2
で生産するLNGの約6割は日本向けとされ、日本のエネルギー
戦略にも大きな影響を与える可能性がある。
──2022年7月2日付、朝日新聞
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「サハリン2」は、生産する6割が日本向けとされ、三井物産
(12・5%)と三菱商事(10%)が参加しています。この権
益が奪われると、日本のエネルギー政策にとって大打撃になるこ
とは確実です。しかも、日本も現在、参院選の真っ只中であり、
選挙結果にも重大な影響があるものと考えられます。
──[新しい資本主義/120]
≪画像および関連情報≫
●「サハリン2」継続か撤退か、割れる経済界 欧州は「脱
ロシア」急ぐ
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日本企業が出資するロシア・サハリンの資源開発から欧米
企業が撤退を表明し、日本の経済界にも、波紋が広がってい
る。エネルギーの安定供給を優先するのか、痛みを伴ってで
も欧米企業と足並みをそろえるのか、主張は割れている。
英石油大手シェルが撤退を決めた「サハリン2」は日本へ
のLNG(液化天然ガス)の輸出拠点で、三井物産が12・
5%、三菱商事が10%出資している。日本はLNGの約8
%をロシアからの輸入に頼る。石油の約4%と比べて依存度
は高い。三井物産幹部は今後の対応について「エネルギー安
全保障をどう考えるか政府と協議する」と話す。
サハリン2で生産するLNGの約6割は日本向けとされ、
東京電力と中部電力が出資する火力発電会社JERAのほか
東京ガスや大阪ガスなどが調達する。広島ガスのように調達
量の約5割を占めるところもある。撤退によって供給がスト
ップし、代わりに価格の高い短期契約で市場から買うことに
なれば、電気代やガス代のさらなる値上がりにつながる。
日本商工会議所の三村明夫会頭は3日の会見で「都市ガス
や電気を使うユーザーに影響することをきちっと考えて対応
すべきだ」と強調。日本企業が権益を手放しても中国がその
分を引き受ける可能性に触れ、現実的な対応を求めた。萩生
田光一経済産業相も8日の参院経産委員会で「我々が権益を
手放しても第三国がただちにそれをとって、ロシアが痛みを
感じないのであれば(経済制裁の)意味がない」と述べた。
https://bit.ly/3I70KxU
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サハリン2