2007年07月23日

●ドイツ経済はバランスシート不況の中にある(EJ第2127号)

 リチャード・クー氏によると、ドイツの経済は現在「陰」の局
面にまだあり、バランスシート不況であるといいます。そこで、
ドイツ経済を分析してみることにします。
 添付ファイルを見てください。このグラフ1は、ドイツ経済の
中で、どの部門が貯金(=資金余剰)し、どの部門がそれを借り
て使っているか(=資金不足)を示しています。日本のケースに
ついては、既に分析済みですが、グラフ2で示します。
 既に述べたように、このグラフの理想的なかたちは各部門が次
のように位置することです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     家計部門 ・・・ 上方に位置している
     企業部門 ・・・ 下方に位置している
     海外部門 ・・・ ゼロ線の付近にいる
     政府部門 ・・・ ゼロ線の付近にいる
―――――――――――――――――――――――――――――
 家計部門が上方にあるということは、貯蓄しているか、その累
積分があることを示しています。一方、企業部門が下方にあれば
資金が不足しているということであり、家計部門の貯蓄を借りて
使うことが期待できるわけです。
 グラフを見ると、4つの部門の位置が理想形をしていたのは、
日本では1990年だったのですが、ドイツでは2000年がそ
れに該当します。日独ともにバブルの頂点であった年に、そのよ
うな理想形になっていたのです。
 日本の場合、6大商業地の地価は、1990年以降、ピーク時
の水準から最大87%も下落したのですが、ドイツの場合は地価
の下落は限定的であったものの、2000年に崩壊したテレコミ
ュニケーション・バブルによって株価が暴落し、とくにドイツの
新興株式市場であるノイマルクトは、2000年のバブル崩壊後
3年でピークから96%も下落したのです。
 これによって上場企業のバランスシートは大きく毀損し、多く
の企業が「債務超過」の状況に置かれたのです。しかし、これら
の企業の多くは、本業のキャッシュフローは健全であったので、
企業としてはバランスシートの健全化を図るため、キャッシュフ
ローを借金返済に回しはじめたのです。
 日独両国は、この間世界最大級の貿易黒字を維持してきており
そういう意味でも両国の企業は高度な技術力と優れたマーケティ
ング力を背景にして高い競争力を維持していたのです。したがっ
て、企業防衛上借金返済という行動をとることは当然なのです。
 この企業の経営行動はグラフに明確にあらわれているのです。
グラフ1の中の企業部門(非金融法人企業)の線に注目してく
ださい。2000年には最も低い位置にありましたが、バブルが
崩壊すると同時に上昇し、ゼロを突き抜けてプラスになっていま
す。これは借金返済を始めたことを表わしています。
 この企業部門の線の動きは日本と同じなのですが、ドイツの場
合は日本と大きく違う点があります。日本の場合は借金返済ペー
スが急激(企業部門の上昇が急)であるのに対し、ドイツの場合
は日本よりも緩やかであること――さらに日本の場合は家計部門
が貯蓄を切り崩している(家計部門の線が企業部門の下になって
いる)のに対して、ドイツの場合は家計部門は依然として貯蓄を
積み上げている点です。これは家計部門の線が、2000年以後
一段と上昇していることで明らかです。
 ここまでの検討でも明らかなように、バランスシート不況にな
ると銀行にお金が積み上がるので、貯蓄の取り崩しはそれが消費
に回るという意味において、経済にとっては良いことなのです。
しかし、ドイツでは企業部門は借金返済というかたちで、家計部
門は貯蓄というかたちでともにお金を銀行に積み上げているので
それが消費に回らず深刻な事態となっているのです。これが20
00年からの5年間、ドイツ経済が全く振るわなくなってしまっ
た本当の理由であるといえます。
 しかし、ドイツは日本と違ってクー氏の唱えるバランスシート
不況論を参考にしようとしているのです。というのは、クー氏の
バランスシート不況論の最初の本の英語版が一番読まれたのがド
イツだったからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    リチャード・クー著/楡井浩一訳/徳間書店刊
      『デフレとバランスシート不況の経済学』
      ―― Balans Sheet Recession ――
―――――――――――――――――――――――――――――
 リチャード・クー氏は、その根拠について次のように述べてい
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドイツ銀行のアッカーマン会長が私の本を読んで、同行のレポ
 ートに私の本を紹介してくれ、一気に読者が増えたのである。
 それで私は、ブンデスバンク(ドイツの中央銀行)に2回、欧州
 中央銀行(ECB)に1回、講演を頼まれて行った。実際に同銀
 行では、日本とドイツの類似点につぃて大変有意義な議論が行
 われた。彼らも日本の経験から学ぼうと必死だったのである。
                  ――リチャード・クー著
     『「陰」と「陽」の経済学』 ――東洋経済新報社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ドイツの場合、マーストリヒト条約によって財政出動
を厳しく制限――メンバー国の財政赤字はGDPの3%以内――
されていることは既に何度も指摘した通りです。クー氏にいわせ
ると、マーストリヒト条約は経済が「陰」の局面に入ることを全
く想定せずにつくられた欠陥条約であるといっています。
 そこでドイツ企業がとった対策は、ユーロ圏内の景気の良い地
域に輸出を促進させることだったのです。ユーロ圏内なら同じ通
貨の世界であり、合わせて関税障壁がないので、これを活用した
のです。その結果、ドイツは日本を抜いて世界最大の貿易黒字国
になったのです。      ――[日本経済回復の謎/36]


≪画像および関連情報≫
 ・ドイツの経済状況について/日本総研
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ドイツ経済が長年低迷してきた原因は、同国が歴史的に社会
  福祉を重視し、「手厚い社会福祉国家体制」を築いてきたこ
  とにある。家計に手厚い各種制度が、グローバル化・少子高
  齢化・IT化といった環境変化への適応を妨げ、90年代以
  降に「高コスト体質」という構造問題が一層顕在化すること
  となった。1999年に実施された「欧州通貨統合」が、こ
  うした高コスト体質を背景とした経済低迷を一段と深刻化さ
  せた。「東西ドイツ統合」もドイツ経済の低迷の一因として
  考えられる。
  http://www.jri.co.jp/press/press_html/2006/060623.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

gCco.jpg


@{o.jpg


posted by 平野 浩 at 04:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。