付けられている」──この岸田首相発言は完全な間違いです。と
いうよりも、これを首相が発言すると、国民に大きな誤解を与え
ます。岸田首相は、「聞く耳を持っている」ということを売り物
にしていますが、「減税」だけは聞く耳を持っていません。真っ
向から反対します。
目的税というのは、ある特定の経費を支弁する目的で賦課する
租税のことであり、地方道路税、都市計画税、水利地役税、入湯
税、国民健康保険税などがそれに該当します。
例えば、都市計画税というのは、市街化区域に土地または家屋
を所有している人に課税される目的税です。納める税金は、道路
や公園、または下水道などの都市計画事業に充てる費用として使
われます。
消費税は、確かに第1条第1項に主たる使途についての規定は
ありますが、目的税ではありません。この規定は、消費税が導入
されたときには存在せず、消費税導入から20年以上たった20
12年、消費税率を5%から10%に段階的に引き上げる法律を
決めたときに、国民の批判をかわすためにというより、少し厳し
くいえば、国民を騙すために付け加えられたものです。しかし、
いったん税金として入ってきてしまえば、お金に色は付いてない
ので、消費税は何にでも使えるのです。
実際に消費税増税分は、社会保障費ではなく、その「8割」が
政府の(国ではない!)借金返済に使われているのです。このこ
とを2019年1月28日、第98回国会で安倍首相(当時)自
身が施政方針演説で明言しています。「増税分の5分の4を借金
返しに充てていた」と。国の借金ではありません。政府の借金を
増税して返す──政府として一番やってはいけないことではあり
ませんか。自民党はそれをやっています。
もうひとつ、高市政調会長が怒り狂っているという消費税が法
人税減税の穴埋めに使われているのではないかという件ですが、
これも事実です。しかし、これもお金に色は付いていないので、
消費税の税収分が法人税減税で減った部分の穴埋めに使われたと
いう証拠は残念ながら示せませんが、消費税を増税するときはい
つも法人税を減税していることは事実です。そのためか、財界の
首脳のコメントは、消費税増税は賛成で「よくやった」と政府に
ヨイショしています。
財務省の「一般会計税収の推移」によると、消費税が導入され
た1989年度の消費税の税収は3・3兆円でしたが、昨年度は
21・1兆円と6倍になっています。これに対して、法人税は、
1989年は19兆円でしたが、昨年度は12・9兆円に減って
います。消費税収は6倍も伸びているのに、法人税収は減少して
いる──これでは、消費税収が法人税減税の穴埋めに使われたと
いわれても、反論できないのではないでしょうか。
高市政調会長は、消費税減税について「増税前の駆け込み需要
や減税前の買い控えも起こる」「事業者も大変ですよ」などと必
死にできない理由を並べ立てていましたが、これは『文藝春秋』
上に載った矢野康治財務事務次官の主張をそのままトレースした
ものです。
これについて、昨日のEJでご紹介した税理士で立正大法制研
究所特別研究員の浦野広明氏は次のように反論しています。
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事業者から「変更が大変だから、消費税減税はやらないで欲し
い」との声は聞いたことがありません。多少手間がかかっても、
減税により消費が上向くことを望んでいます。そもそも、引き上
げはできるのに、引き下げはできないのはおかしい。また、値上
げラッシュで価格変更は日常茶飯に行われており、値札替えが負
担とも思えません。高市氏の発言は消費税減税の否定が先にあり
きで、かえって国民の不信を招いたような気がします。
──浦野広明氏/6月20日発行「日刊ゲンダイ」より
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日銀の黒田総裁の話ですが、安倍首相(当時)が消費税率を5
%から8%に引き上げるとき、多くの学者などの意見を聞いて、
さんざん迷っていたのですが、そのとき、黒田総裁は次のように
いって、安倍首相の決断を促したのです。
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消費税を予定通り8%に引き上げないと、国債が暴落するテー
ルリスクがある。 ──黒田日銀総裁
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アベノミクスが金融緩和と財政出動で軌道に乗りつつあったと
きです。信頼している黒田総裁から、このようにいわれた安倍首
相は、消費税を8%に引き上げる決断をします。
実はこのとき、財務省は財務省出身の日銀総裁である黒田氏に
「首相に増税をきちんとやるよう勧めてくれ!」と、強いプレッ
シャーをかけていたのです。黒田総裁としては、本当はやらない
方がいいのだが、立場上「やるな」とはいえないので、「テール
リスク」という言葉を使って首相に謎をかけたのです。安倍首相
は、おそらく「テールリスク」を単なる「リスク」だと勘違いし
て、税率を8%に引き上げたのです。しかし、テールリスクとは
次の意味なのです。
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マーケットには大小さまざまなリスクがありますが、発生する
確率が非常に低いリスクによって暴落や暴騰が実際に発生するこ
とをテールリスクと呼びます。ちなみに、テールとは、騰落率分
布の端や裾野を意味する言葉。突然の政権交代やテロなどが代表
的なものです。 https://bit.ly/3ybYbGz
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黒田総裁としては、「法律として決まっている消費税率引き上
げをやらなくても、国債が暴落する恐れはない」ということを首
相に伝えたかったのだと思います。
──[新しい資本主義/116]
≪画像および関連情報≫
●消費増税で穴埋めされる法人減税 逆累進性の解消が急務
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法人税の法定税率である法人実効税率が、2011年38
・54%、13年37%であったが、18年には29・74
%に引き下げられた。しかし法人税を納税できる利益を上げ
る企業は、全企業の3割ほどで、ほとんどが大手や中堅企業
だ。それゆえこの法人税率引き下げは、これらの企業を利す
るが、大多数の企業には及ばない。他方で消費税収の約8割
が、この法人減税の穴埋めとなった。
消費税を導入した1989年から2018年度までの30
年間の消費税収額合計は372兆円、その間の法人税減額合
計は291兆円(出展・消費税をなくす全国の会「ノー消費
税」300号)。要するに法人税の減税分を、消費税で穴埋
めしてきた。
ところで30%弱の法人実効税率は「資本金1億円以上の
外形標準課税適用法人」の実効税率であり、これらの企業は
法人税と「事業税プラス地方法人特別税」を外形標準課税率
で支払う。これに対して外形標準課税の対象でない資本金1
億円以下の中小企業では、たとえば18年4月〜19年3月
事業年度の同様な法人税率が36.81%、19年10月か
らは33.58%と高く、逆進的となっている。これまで法
定税率について述べたが、企業が実際に納税しているところ
の実効負担率で見ると、法人税はさらに「逆累進」となって
いる。 ──早稲田大学名誉教授・田村正勝氏
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大石晃子氏VS高市早苗氏