なのでしょうか。黒田総裁は、2014年3月の日本商工会議所
での講演で、次のように述べています。
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日本銀行としては、「物価の安定」を消費者物価指数の前年比
で数値的に定義すると「2%」であると考えています。その理由
をあらかじめ申し上げると、次の3つです。
第1の理由は、消費者物価指数の特性、すなわち、消費者物価
指数には、上方バイアス、つまり、指数の上昇率が高めになる傾
向があるということです。
第2に、景気が大きく悪化した場合にも金融政策の対応力を維
持するために、ある程度の物価上昇率を確保しておく方が良いと
いう、「のりしろ」と呼ばれる考え方です。
第3に、こうした考え方は、主要国の中央銀行の間では広く共
有されており、多くの中央銀行が「2%」の物価上昇率を目標と
する政策運営を行っていることです。つまり、「2%」は、「グ
ローバル・スタンダード」になっているということです。
──黒田日銀総裁の講演より/https://bit.ly/3y1osZe
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消費者物価指数というのは、消費者が購入するモノやサービス
などの物価の動きを把握するための統計指標であり、総務省から
毎月発表されています。
消費者物価指数は、全国と東京都区部の2種類あり、東京都区
部は速報で集計され、当月分が発表されます。全ての商品を総合
した「総合指数」の他、価格変動の大きい生鮮食品を除き500
品目以上の値段を集計して算出されている「生鮮食品を除く総合
指数」も発表されます。この数値が2%台を持続的に維持するよ
うにしようというわけです。
物価論をはじめると長くなるので、これ以上踏み込みませんが
黒田総裁は豊富な資料に基づいて、緻密な話をされる人です。こ
の人にとって失言はあり得ないと思います。まして講演で話をさ
れるときは、多くの資料分析に基づいて話をされています。「家
計が値上げを受け入れている」という発言は、講演で黒田総裁が
提示したグラフをメディアが掲載しなかったことに原因があると
思います。「表現が不適切だった」と陳謝したのは、黒田総裁は
この件で騒ぎを大きくしたくなかったのだと思います。
4月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年比で「2・
1%」に達しています。といってもこれは、物価上昇率の上振れ
であり、一時的なものとされています。2%が安定的に持続され
ることが大切なのです。実際に、食料、エネルギー、情報通信費
を除く消費者物価は「プラス0・5%程度」とされています。
現在米国では、中央銀行に当たるFRBが、金融政策として、
利上げを繰り返していますが、これは急速なインフレを抑えよう
として必死になっているからです。その物価上昇率は8%を超え
ており、深刻です。これに対して日銀は一貫して異次元の金融緩
和政策を続けており、これが異常な円安の原因になっているので
す。西側諸国の物価上昇率と今年の経済成長の見通しは次のよう
になっています。
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物価上昇率 今年の経済成長見通し
米国 ・・ 8・6% 3・7%
ユーロ圏 ・・ 8・1% 2・8%
日本 ・・ 2・1% 2・4%
──2022年6月18日付、朝日新聞
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日銀は、6月16日〜17日に開催した金融政策決定会合にお
いて、黒田総裁は利上げに動くという観測もありましたが、大規
模金融緩和を継続する方針を決めています。これは、当然のこと
であるといえます。なぜなら、日本のGDPが新型コロナウイル
スの流行前の水準にまだ戻っていないからであり、景気回復の勢
いが依然として弱いからです。
しかし、これによって、さらに円安が進み、「1ドル=140
円」もあり得る状況になっています。これがさらなる物価上昇を
招き、賃金も上がらず、年金も減額されているなかで、国民の生
活が一段と苦しくなることは確かです。
円安によるインフレ──これを「岸田インフレ」と野党は呼び
日銀に対しても利上げを迫っていますが、もし、利上げをした場
合、ただでさえ勢いのない日本の景気をどん底に落としかねない
のです。利上げは緊縮政策であり、デフレ基調の日本でこれをや
るとデフレが一層深化してしまうからです。
ガソリン代も「1リットル=170円」を超えようとしていま
すが、政府はガソリンの元売り会社に補助金を支払い、対応して
いるだけです。これはきわめて姑息なやり方です。補助金でお茶
を濁しているからです。
こんなときこそ「減税」──それも野党各党の掲げる消費税の
時限的引き下げです。財務省は、時間がかかることや、戻すとき
大変であることなど、できない理由を並べてやろうとしませんが
減税も立派な経済政策であり、今こそやるべきです。
岸田首相は、「消費税は社会保障の安定的財源であり、時限的
にせよ、引き下げは考えていない」と述べていますが、消費税の
増税分はほとんど社会保障に回っていません。消費税は、社会保
障の目的税ではないからです。
コロナ禍での経済疲弊、諸物価高騰、上昇しない賃金など、こ
れだけ揃っても、政府が何もしないとすればそれは無能です。コ
ロナ禍では西側のほとんどの国が減税をやっています。やらない
のは日本だけです。トリガー条項を解かないのも、消費税の減税
がからんでいるからです。とにかくこの内閣は、減税に関わるこ
とは絶対にやらない方針です。それどころか、参院選が終わった
ら、防衛費増強のために増税をしかねない内閣です。
──[新しい資本主義/110]
≪画像および関連情報≫
●日銀黒田総裁の常識は「世界の非常識」 緩和継続・円安
放置で海外投資家の笑いモノに
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もはやテコでも動かず、円安を放置だ。日銀は17日まで
開いた金融政策決定会合で、異次元緩和の継続を決定した。
会合後の会見で、黒田東彦総裁は「最近の急激な円安は経済
にとってマイナス」との認識を示したが、「為替をターゲッ
トに政策を運営することはない」とも語り、庶民を苦しめる
物価高騰の元凶である円安進行にはノータッチ。会見終了後
は、ジワジワと円安が進み、再び1ドル=135円台に近づ
いている。
「会合前の市場は、外国人投資家が日銀の緩和策も限界と
とらえ、政策修正に動くとの観測から円を買い戻す動きが活
発化。16日には一時132円台まで上昇していたのです。
なぜなら、世界規模の物価上昇を受け、『緩和どころじゃな
い』が海外の常識。各国とも積極的な利上げで通貨価値を下
支えし、輸入インフレ防止に必死です。かたくなに緩和を維
持する黒田総裁の常識は世界の常識と乖離しています」(経
済評論家・斎藤満氏)
15〜16日には先進国の中央銀行が相次いで金融引き締
めの方針を打ち出した。米連邦準備制度理事会(FRB)は
通常の3倍にあたる「0・75%」の大幅利上げを決定。英
・イングランド銀行も5会合連続の利上げを決め、スイスの
中央銀行は市場の予想に反して、「まさか」の利上げに踏み
切った。 https://bit.ly/3OsWsDf
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会見する黒田日銀総裁