2022年06月16日

●「資本主義は借金をすることで回る」(第5752号)

 なかなか受け入れられない考え方かもしれませんが、「資本主
義は借金をすることで回る」のです。なぜなら、誰かの借金は、
誰かの資産になるからです。日銀が金融緩和を続けていますから
資金は潤沢にあるのです。しかし、そのお金が市中に流れず、滞
留してしまっています。それがデフレの原因です。
 借金とは正反対ですが、無駄遣いをせず、せっせと貯蓄に励む
──これは一人ひとりにとっては正しいことですが、国民の多く
がこれをやると、経済は停滞してしまいます。企業も同様です。
銀行から借金をして積極的に事業を拡大せず、過去の負債をひた
すら返済する──バランスシートを修復すると、確実に経済の成
長は止まってしまうのです。
 これを「合成の誤謬」といいます。個々のレベルでは正しい対
応をしても、経済全体で見ると、悪い結果をもたらしてしまうこ
とをいいます。かつて野村総合研究所創発センター主席研究員の
リチャード・クー氏が、日本のデフレを「バランスシート不況」
と名付けて次のように解説しています。
─────────────────────────────
 一国の経済というのは家計部門が貯蓄した資金を企業部門が借
りて使うことで回っている。ところが、企業部門がバランスシー
トの修復のため借り入れをやめ、借金返済に回ると、家計部門が
貯蓄した資金は借りて使う人がいなくなり、そのまま銀行に滞留
してしまう。しかも企業部門も全体で見て借金返済の方が借り入
れより大きいとなると、この純借金返済額も誰も借りる人がいな
いことになり、銀行に滞留してしまう。ということは、現状では
家計の貯蓄総額と企業の借金返済の合計が「使われぬカネ」とな
り、経済全体のデフレギャップとなってしまうのである。この状
況を放置しておくと、毎年毎年、家計の貯蓄と企業の借金返済分
だけ総需要が失われ、経済は縮んでいくことになる。
            ──リチャード・クー著/楡井浩一訳
     『デフレとバランスシート不況の経済学』/徳間書店
─────────────────────────────
 添付ファイルを見てください。これは1980年から2017
年までの38年間のM2、GDP、国内銀行貸出残高、国債残高
を示しています。
 「M2」とは何でしょうか。正確には「マネーストックM2」
──これは、日本中の現金・預貯金のうち、ゆうちょ銀行や農協
に預けたお金を除いた金額のことです。全てを含めたものを「マ
ネーストックM3」というのですが、M2が日銀のデータで一番
継続性があるので、よくM2が使われます。
 これを見ると、@のマネーストックM2は、一貫して右肩上が
りで増え続けています。しかし、バブル崩壊後の1991年から
1992年にかけて一瞬停滞しているのがわかります。信用収縮
が起きたからです。
 信用収縮とは、信用が破綻して借金が減り、同時にお金が減る
ことを意味しています。バブルが崩壊し、経済成長がストップし
た状態です。信用収縮は信用創造の逆です。
 信用収縮の前と後が対照的なのはBの民間銀行の貸出です。信
用収縮の前は、1980年から右肩上がりで上がっていて、一時
は500兆円でピークをつけています。しかし、信用収縮後は急
激に減り、100兆円減って400兆円まで下っています。しか
し、アベノミクスが始まる2013年頃からは、グラフは、少し
上向きになっています。しかし、日本の銀行は、1993年以降
はお金を貸さなくなっています。
 その原因を作っているのは、CのGDPがまったく横ばいであ
ることです。つまり、経済が成長しなくなったからです。経済が
成長しなくなると、銀行は貸し出しを増やせないのです。
 しかし、@のマネーストックM2は、右肩上がりで増えていま
す。これを支えているのは、Aの国債残高です。バブル崩壊後は
国債残高は急激に増加し、@に迫る勢いです。これは、銀行が民
間貸出を増やさなくなったので、政府が代わりに借金を増やして
M2を支えているのです。そのおかげてマネーストックM2は一
応右肩上がりで増えているのです。
 私は、安倍政権は、森友問題、桜を見る会など、いろいろ不祥
事がありましたが、それまでの政権に比べると、経済運営はよく
やった方だと思います。アベノミクスもその考え方は間違ってい
なかったし、最初の1年はそれまでの民主党政権のときとは見違
えるほど、経済に勢いが出てきたのです。それは、異次元の金融
緩和と機動的財政出動が効いたといえます。
 問題は、既に法律化されている8%への消費増税です。しかし
安倍首相は異例の2度目の首相登板であり、その経験から財務省
の役人のいうことをそのまま受け入れず、多くの識者から意見を
聞いても引き上げに慎重だったのです。しかし、信頼する黒田総
裁からも要請があったので、最終的に増税を決断します。これに
ついて、田村秀男氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 奇妙なことに、日銀の黒田東彦総裁は、2013年に「消費税
を予定通り8%に引き上げないと、国債が暴落するテールリスク
がある」と増税に慎重な安倍晋三総理(当時)を脅して、増税に
踏み切らせました。テールリスクとは巨大隕石の衝突のような天
文学的確率のリスクのことですが、それを強調するようでは中央
銀行総裁の資格はありませんね。そんな詭弁を弄してまで、出身
母体である財務省の増税画策に与したのです。増税の結果、デフ
レ不況が長引き、日銀自身が政府との共同声明で公約している物
価安定目標のインフレ率2%を達成できなくなっています。そう
いう意味でも黒田さんの罪は重いと私はいまでも憤っています。
                      ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/108]

≪画像および関連情報≫
 ●検証アベノミクス:2度の消費増税で財政政策が機能せず
  =藤井・元内閣参与
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  [東京26日/ロイター]第2次安倍内閣で内閣官房参与を
  務めた藤井聡氏(京都大学大学院教授)は、歴代最長政権と
  なった安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」について、
  消費増税によって第2の矢である財政政策が十分に機能しな
  かったとの見方を示した。
   その上で足元のコロナ禍で内需が低迷する状況に対応する
  ため、さらなる財政出動と消費税減税が必要と語った。24
  日に書面で回答した。
  <財政政策がマイナスに>
   藤井氏はアベノミクスの成果について、「2014年3月
  までの期間、消費税5%の状況下で10兆円の補正予算を組
  んだこと。この時、非常に大きな効果があったことは間違い
  ない」と指摘。3本の矢のうち、2本目に当たる「機動的な
  財政出動」の初期の対応を評価した。一方で藤井氏は「14
  年の消費増税で、この成功は消し飛んでしまった。そもそも
  第2の矢は『財政支出額マイナス増税額』で測るべきもので
  増税前まではプラスだったものが14年4月の増税以降、そ
  れがマイナスになった」と説明。「アベノミクスをやろうと
  してやれなかったことを意味する」との見方を示した。「第
  1の矢(大胆な金融政策)や第3の矢(民間需要を喚起する
  成長戦略)をいくらやっても、第2の矢を打たなければ資金
  は市場には回らないし、デフレも終わらない」と述べた。
                 https://bit.ly/3tsWAdG
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マネーストックとGDP/借金の推移.jpg
マネーストックとGDP/借金の推移


posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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