2022年06月14日

●「日本はけっして借金大国ではない」(第5750号)

 もう一度矢野康治財務事務次官の論文の冒頭部分を読んでみて
ください。
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 私は一介の役人に過ぎません。しかし、財政をあずかり、国庫
の管理を任された立場にいます。このバラマキ・リスクがどんど
ん高まっている状況を前にして、「これは本当に危険だ」と憂い
を禁じ得ません。すでに国の長期債務は973兆円、地方の債務
を併せると1166兆円に上ります。GDPのの2・2倍であり
先進国でずば抜けて大きな借金を抱えている。それなのに、さら
に財政赤字を膨らませる話ばかりが飛び交っているのです。
               ──財務事務次官/矢野康治著
    「財務次官、モノ申す/このままでは財政は破綻する」
             『文藝春秋』/2021年11月号
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 散々聞かされてきている「国の長期債務は973兆円、地方の
債務を併せると1166兆円、GDPの2・2倍」──借金だけ
が誇張されていますが、正確にいうと、ウソがあります。メディ
アなどは、「国の借金1000兆円/国民一人当たり800万円
の借金」と大々的に報道しています。国民はこれをそのまま信じ
ています。メディアはわかっていないかもしれませんが、財務省
は、よくわかっていてウソをついています。
 それは「国の長期債務973兆円」という部分です。これは、
正確にいうと「政府の長期債務」というべきです。国と政府は違
います。「国=政府」ではなく、国とは、政府と民間を合わせた
ものをいいます。確かに、政府は約1000兆円の借金を負って
いますが、そのほとんどは民間が貸しています。
 つまり、貸し手も日本、借り手も日本、これは国のなかでの貸
し借りの問題であって、国の借金ではないのです。この場合、民
間といってもピンとこないと思うので、正確にいいます。日本政
府の国債の90%以上は日本の機関投資家が保有しています。機
関投資家とは何でしょうか。銀行、生命保険会社、損害保険会社
年金運用基金など、国民の資産を集めて運用する機関が機関投資
家で、彼らが日本政府の借金(国債)のほとんどを貸しているの
です。民間が貸しているのですから、民間の「資産」ということ
になります。
 ところで、2022年5月28日付の日本経済新聞に次の記事
が掲載されています。
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◎日本の対外純資産最高/昨年末15%増411兆円、円安影響
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 日本に住む人が海外で保有する資産の評価額が、円安の影響で
膨らんでいる。財務省が27日発表した対外資産負債残高による
と、2021年末時点の日本の対外純資産は20年末に比べて、
15・8%増の411兆1841億円と、過去最高を更新した。
31年連続で世界最大の純債権国となり、2位のドイツを100
兆円近く引き離した。
 日本の対外純資産が400兆円を超えたのは初。13年末以降
は300兆円台で推移していたが、21年末は増加幅が56兆円
とこれまでで最も大きかった。20年末に33兆円程度に縮まっ
たドイツとの差が再び開いた。
         ──2022年5月28日付、日本経済新聞
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 対外純資産については、毎年財務省が発表しています。しかし
これについては、毎回非常に控え目に報道されるので、多くの人
は気がつかないで、見逃してしまいます。
 日本を主語にしていうと、対外純資産とは、日本が海外に投資
している金額から、海外から投資されている金額を差し引いた金
額のことです。ここで投資とは、政府債券や社債、株式、土地な
どの資産を現地通貨で保有することです。
 確かに日本も海外から投資を受けていますが、それよりもはる
かに多くの金額を海外に投資しています。日本の対外純資産が世
界一多く、しかも31年連続で日本は世界一なのです。それなの
に、多くの日本人は、日本は世界一の借金大国であることを信じ
ています。財務省のプロパガンダがそうさせているのです。
 ただ、対外純資産が長年にわたって日本が世界一であることに
はマイナスもあります。それは、日本国内に魅力的な投資先がな
いことを意味するからです。これについて、みずほ銀行チーフエ
コノミストの唐鎌大輔氏は、次のようにコメントしています。現
在の日本には、巨大な借金よりも改善すべきことがあるのです。
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 対外純資産が増えること、つまり国内から国外への証券投資や
直接投資(端的にいえば外国企業の買収・合併)が旺盛だという
ことは、裏を返せば、国内への投資機会が乏しいということにも
なる。日本経済の1990〜2010年は「失われた20年」と
呼ばれるが、その間一度も転落することなく「世界最大の対外純
資産国」であり続けてきたということは、それは「失われた20
年」の産物だったともいえるのではないか。
 ちなみに、直接投資の急増は、この10年弱で進んでいるトレ
ンドだ。「失われた20年」を経て、多くの日本企業が「国内市
場には期待収益の高い投資機会はない」と判断した結果なのだろ
う。より厳しい言い方をすれば、縮小し続ける国内市場に投資す
るより、海外企業への買収や出資を通じて時間や市場を買うほう
が中長期的な成長につながると判断した結果だったともいえる。
 2010〜2020年の10年間は「日本の企業部門が日本と
いう国を見限り始めた期間」という解釈は、対外純資産の内訳を
見る限り、もはや的外れとは言えない現状がある。今後、198
080〜2020年が「失われた30年」と呼ばれる日もやって
くるのかもしれない。       https://bit.ly/3MLuOQq
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              ──[新しい資本主義/106]

≪画像および関連情報≫
 ●日本が一番の対外純資産保有国…世界全体で対外純資産額の
  実情(2022年時点最新版)
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   国単位での資産額は債務と債権を相殺した、特定の国から
  他の国々に対する「対外純資産額」で示される。その額につ
  いてIMFの公開値を基に、世界全体での実情を確認する。
  対外純資産とは、対外資産と対外負債を合算したもので「対
  外」とは該当国が他国に保有している資産や負債のこと。大
  まかな説明としては「資産…海外に対して色々な形で貸し付
  けているもの」「負債・・・海外から色々な形で借り受けて
  いるもの」となる。
   次に示すのはIMFのデータベースで対外純資産額を確認
  できる国のうち、年ベースで取得可能な最新値となる、20
  20年分がある国はその値、またない国は得可能な2005
  年以降の値で最新のものを適用した計174か国について、
  上位国と下位国を抽出したもの。基データにある通り米ドル
  換算された値を用いている。
   全世界を対象としても、最大の対外純負債を持つのはアメ
  リカ合衆国。次いでスペインだが、アメリカ合衆国の額が大
  きすぎてグラフがアンバランスとなっている。アメリカ合衆
  国とスペインとの差は10倍以上。スペインの次はイギリス
  フランス、アイルランド、オーストラリア、メキシコ、ブラ
  ジル、トルコ。経済的に難儀していることもあり、やはりそ
  うなのかという感想を抱く国もあれば、意外なところで顔を
  見せていると思わせる国もある。 https://bit.ly/3xE1jM2
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対外純資産/2020年.jpg
対外純資産/2020年


posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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