2022年04月28日

●「なぜ2%目標は達成できないのか」(第5721号)

 デフレの話を続けます。そして、どうしたら、日本は、デフレ
から脱却できるかについて考えたいからです。
 デフレとインフレには、次の違いがあります。
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   ・インフレ ・・・ 継続的に物価が上昇する状態
   ・ デフレ ・・・ 継続的に物価が下落する状態
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 市中に流通する通貨の供給量を増やすとします。そうすると、
商品に対して通貨の価値が下落します。これによって、商品の価
値が上がるので、物価が上がることになります。これがインフレ
の状態です。
 これに対して、通貨の量が少ない場合は、商品に対して通貨の
価値が上がるので、商品の価値が下がります。これによって、物
価が下がることになります。これがデフレの状態です。
 安倍政権時のアベノミクスによると、インフレもデフレも貨幣
現象であるとして、「マネタリズム」の立場で、デフレ脱却を目
指したのです。
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◎マネタリズムとは何か
 ケインズ経済学に基づく裁量的経済政策に反対し、市場機構の
作用に信頼をおき、貨幣増加率の固定化を主張する政策的立場の
こと。ミルトン・フリードマンによって代表される。
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 現在、日本はデフレ下にあります。日本がデフレから脱却する
には、通貨量をもっと増やせばよいということになります。そう
すれば、通貨の価値が下がり、商品の価値が上がるので、結果と
して、物価が上がることになるからです。
 そこで日銀は、安倍政権時の2013年から、インフレ目標を
2%に定め、日銀と政府の政策協定による異次元金融緩和を始め
たのです。しかし、この金融政策は、安倍政権から菅政権、そし
て現在の岸田政権まで引き継がれてきていますが、現在でも2%
のインフレ目標は達成されてはいない状況です。
 マネタリズムでは、日銀は民間銀行から国債などを買い入れて
その代金を銀行が日銀に設けている「日銀当座預金」に積み上げ
ます。これを「マネタリーベース」といいます。そうすれば、銀
行は必要に応じて、当座預金から資金を引き出して、融資のかた
ちで、市中に流すことができます。つまり、資金需要が旺盛であ
れば、市中に循環する資金量は増加します。この市中に循環する
通貨量のことを「マネーストック」といいます。
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   ◎マネタリーベース ・・・ 日銀当座預金の金額
   ◎マネー・ストック ・・・ 市中に循環する通貨
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 日銀は、国債残高を毎年80兆円ずつ増加させ、結果として、
約450兆円もの巨額な資金を日銀当座預金に積み上げたのです
が、それでも2%のインフレ目標が達成できなかったのです。な
ぜ、達成できなかったのでしょうか。
 問題の核心はここです。マネタリズムが正しければ、約450
兆円もの巨額の金額を当座預金に積み上げたのですから、それに
よって市中に通貨供給ができるはずです。条件は整っています。
しかし、そのとき日本は深刻なデフレ下にあり、日銀の思うよう
にならなかったのです。
 確かに、日銀がやれることは資金を当座預金に積み上げるまで
であって、それらの資金が市中に通貨として供給されるには、銀
行が資金を引き出して、企業や個人などに幅広く融資する必要が
あります。しかし、その肝心の資金需要がなく、資金は空しく当
座預金に積み上げられるのみ。これを「ブタ積み」といいます。
 しかし、日銀の黒田東彦総裁ほどの金融のプロが、それをなぜ
予測できなかったのでしょうか。これは、私の推測ですが、黒田
総裁は「信用乗数は一定である」と信じていたのではないかと思
います。信用乗数とは次のことを意味しています。
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◎信用乗数とは何か
 中央銀行が市場に供給する資金量(マネタリーベース)と経済
全体の通貨供給量(マネーストック)との比率。「貨幣乗数」と
も呼ばれる。「マネーストック=信用乗数×マネタリーベース」
で表すことができる。信用乗数が低下すると、マネーストックも
低下することになる。
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 わかりやすくいうと、マネタリーベースは中央銀行が当座預金
に積み上げた資金量のことであり、これに対してマネーストック
は、銀行が当座預金から資金を引き出し、融資などのかたちで市
中に流した通貨量のことです。この割合がプラスで一定であれば
中央銀行がマネタリーベースを増やせば、その一定割合は市中に
流れ、マネーストックは増加するはずです。主流派経済学では、
そう考えられているのです。
 これに対して、MMT(現代貨幣論)の考え方では、信用乗数
は一定ではなく、そもそも信用乗数は、後から計算されるもので
あって、最初から決まっているものではないとします。井上智洋
駒澤大学准教授は、次のように述べています。
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 マネタリーベースを減少させることでマネーストックを減少さ
せられても、マネタリーベースを増大させることで、マネースト
ックを増大させることは必ずしもできなくて、その際に信用乗数
が低下してしまうことがあります。これはよく「ひもで引っ張れ
ても、ひもで押せない」というたとえで説明されています。
                      ──井上智洋著
     『MMT/現代貨幣論とは何か』/講談社新書メチュ
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/077]

≪画像および関連情報≫
 ●鵜呑みにできない!現代日本のリフレ派経済学
  /経済学者・青木泰樹氏
  ───────────────────────────
   それではなぜ支配的な経済学の貨幣の定義には、預金通貨
  が含まれていないのでしょう。先に示した国民経済の簡略イ
  メージを思い出してください。個人や企業(実体経済)の保
  有する預金とは、「預け入れ」という名称がついております
  が、実際は銀行への「貸し付け」のことです。
   すなわち実体経済の預金(資産)は、銀行にとっての同額
  の負債であり、民間経済内で合計すると、純額としてゼロに
  なってしまうのです。その場合、民間ムラで資産(購買力)
  として残るのは現金だけとなります。
   このように経済学の基本的な考え方は、単純に「政府」と
  「民間」を対峙させるだけで、各部門の内部(2軒の家の存
  在)にまで洞察を加えないために、どうしても現実経済を考
  える場合に齟齬が出てしまうのです。
   しかし、経済学の貨幣の定義と現実のそれが異なっていよ
  うと、両者を関連づける概念があります。それが、マネース
  トック(M)とベースマネー(H)の比率として定義される
  「貨幣乗数(M/H)」です。この貨幣乗数の値が一定の値
  として安定しているならば、「貨幣とは現金のことだ」とす
  る経済学の定義を現実に適用しても問題はなくなります。そ
  の場合、ベースマネーとマネーストックの間に一定の比例関
  係が常に維持されます(貨幣乗数の定義式を因果式と解釈す
  れば)。            https://bit.ly/3Lis2Cp
  ───────────────────────────
黒田東彦日銀総裁.jpg
黒田東彦日銀総裁
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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