2022年04月27日

●「デフレのこわさを知らない日本人」(第5720号)

 こんな話があります。長期化するコロナ禍で日本経済がおかし
くなっています。2020年4月のことですが、新型コロナウイ
ルス対策の一環として、国民全員に一律10万円を給付する「特
別定額給付金」が決定されたときのことです。
 所得制限を設けないで国民全員に一律に現金を給付する──こ
れは、日本としては画期的な政策だったのですが、あまりにも金
額が少な過ぎたといえます。なぜなら、コロナによる政府の行動
自粛要請によって、仕事や収入を突然失う人が大勢出て、それら
の人々が当面暮らしていくには、最低でも、20万円程度は必要
だったからです。
 これについて、「少ない」と考える学者グループが立ち上がり
それを政府に伝える努力をしたのですが、どうしても叶わなかっ
たそうです。MMT(現代貨幣論)に詳しい駒澤大学経済学部の
井上智洋准教授もその一人です。政府としてはこの他に、持続化
給付金や雇用調整助成金の拡充なども合わせて行っており、これ
で何とかやれると考えていたものと思われます。
 しかし、日本以外の先進国では、消費税の減税を行ったり、給
付金を複数回給付したりしていますが、日本では給付金は1回限
りであるし、減税は完全に無視されています。それどころか、東
日本大震災のときのように、頃合いを見て、増税実施を口にする
議員もいるのですから驚きです。
 それでも安倍政権は、決まっていた「低所得層に30万円を配
る」という案を公明党の意見を受け入れて撤回し、所得制限なし
に国民全員に10万円の定額給付金を配布したのは、正しい決断
だったといえます。その「30万円の案」をプランニングしたの
は、当時の岸田政調会長、現在の岸田首相なのです。
 この日本政府の姿勢について、井上智洋准教授は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 国民の間に、追加給付を切望する声が挙がっていたにもかかわ
らず、政府が採用しなかった理由は明確だ。お金をケチるという
「緊縮」体質が政府にしみついているからだ。この非常時におい
て一見意識が変わってきているように思えるが、政府は「財政規
律を守るべきだ」という基本的なスタンスを捨て切れていないだ
ろう。財政支出の大幅な増大は避けられないが、それでもなるべ
く少なく抑えたいという思惑が見え隠れする。政府のこの緊縮路
線は、コロナ対策に十分な予算を確保しないという問題だけでな
く、コロナ収束後の増税という次なる問題を生み出すだろう。
         ──ステファニー・ケルトン著/早川書房刊
    『財政赤字の神話/MMTと国民のための経済の誕生』
         井上智洋駒澤大学経済学部准教授/解説より
─────────────────────────────
 上記ステファニー・ケルトン教授の著書の井上准教授の解説に
はさらに興味あるエピソードが載っています。MMTの考え方は
「自国通貨を持つ国にとって、政府支出が過剰かどうかを判断す
るバロメータは、赤字国債の残高ではなく、インフレの程度であ
る」ということになります。
 つまり、日本を悩ませている例のGDP対比240%の国債残
高というのは関係ないというわけです。日本の場合、インフレど
ころか、デフレであり、このさい財政出動を思い切って行い、一
刻も早くデフレから脱却する努力をするべきです。
 2019年7月、MMTの旗手であるステファニー・ケルトン
教授の講演が日本で行われましたが、そのさい、聴衆からインフ
レに関する質問をいくつも浴びせられて、ステファニー教授は、
次のようにいっていたそうです。
─────────────────────────────
 日本はデフレ気味なのに、みなさんインフレの心配ばかりし
 ている。        ──ステファニー・ケルトン教授
─────────────────────────────
 日本は、デフレの怖ろしさがわかっていないのです。デフレに
慣れてしまったといえます。インフレは物価が異常に高騰するな
ど、直接目に見える現象があらわれるし、お金の価値が下がるの
で、直接生活にも影響します。これに対してデフレは、物価が少
しずつ続落するほかは、その他に目に見える現象があらわれない
し、ある程度の年数を重ねてじわじわと経済力が弱まり、気が付
いたときは、現在の日本のように賃金が上がらず、経済が成長し
ない状況に陥ってしまうのです。
 第2次世界大戦後、世界中の経済政策担当者が最も恐れたのは
デフレであり、大戦後、何とかしてデフレにならないよう努力し
てきたのです。ところが、日本は1991年ごろにバブルが崩壊
し、1997年の消費増税などの緊縮財政を主因として、デフレ
に突入し、20年以上が経過した現在も、デフレから完全に脱却
できていません。このように日本は、第2次世界大戦後、世界で
初めてデフレになった国なのです。
 日本人はその言い訳として、「日本は成熟化した社会になって
いて、もはや経済成長は望めない」という人がいますが、それは
おかしな意見です。確かに新興国のように高度成長は望めないと
しても、日本以上に成熟しているはずの欧米先進国は、ちゃんと
成長しているのですから・・・。
 デフレになると、人々はモノを買わなくなるので、マーケット
が縮小します。その結果、企業の売り上げが下がり、対応を誤る
と赤字に転落し、倒産する企業が増えます。労働者は、給与が下
がり、やがて仕事そのものがなくなり、失業者が増加します。そ
の結果、現代の世代がどんどん貧困化していくことになります。
 加えて、デフレ下では、企業は投資しなくなります。マーケッ
ト自体が縮小して行くので、投資はリスクがあるからです。その
結果、将来世代も貧困化していくことになります。長い年月をか
けて、そういう現象が起きていくのです。日本は、もっと真剣に
デフレと向き合う必要があります。
              ──[新しい資本主義/076]

≪画像および関連情報≫
 ●コロナ後はインフレかデフレか/上智大学/中里透氏
  ───────────────────────────
   コロナ前の状況を振り返ると、日本だけでなく米国や欧州
  各国でも、低インフレ、低金利と低成長の併存が大きな関心
  事となっていた。金利の引き下げの余地が限られる中で経済
  がデフレに陥ると、通常の金融緩和政策によってそこから抜
  け出すことは困難になり、経済の停滞が続いてしまうおそれ
  があるからだ。
   もっとも、コロナ禍を経てこのような状況には変化が生じ
  最近ではむしろインフレの高進を懸念する声が聞かれるよう
  になった。コロナ禍によって生じた供給制約と財政金融両面
  からの大規模な対策が物価を押し上げるというのがその理由
  だ。資源価格の高騰が、それに加わる。コロナ前に経済の緩
  慢な動きをとらえて真っ先に「長期停滞論」を唱えたローレ
  ンス・サマーズ教授(ハーバード大学・元財務長官)が、最
  近ではインフレの高進に対する懸念を繰り返し表明している
  ことは、やや極端ではあるが、象徴的な出来事といえるだろ
  う。実際、米国の消費者物価指数の前年同月比は足元6・2
  %と31年ぶりの高い伸びを示しており(エネルギーと食料
  品を除いた指数でみると4・6%上昇)、インフレに対する
  懸念が一定の広がりをみせている。
   日本については原油高の影響などにより、9月の消費者物
  価指数(生鮮食品を除く総合)が1年半ぶりに前年同月比プ
  ラスに転じた。円安の進行による食品や日用品の値上がりも
  懸念される。         https://bit.ly/3OzCHuu
  ───────────────────────────
井上智洋駒澤大学経済学部准教授.jpg
井上智洋駒澤大学経済学部准教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック