日銀がゼロ金利政策をはじめたのは、1999年2月のことで
す。そのとき速水日銀総裁は次のようにいっているのです。
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『デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで、ゼロ
金利政策を継続する』。
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この発言の問題点は、経済の現状には「デフレ懸念がある」こ
とを認めている点です。しかし、この時点で政府はもとより、日
銀でもデフレであることを公式には表明していないのです。
そういう状況において、「デフレ懸念」ということばは非常に
微妙なニュアンスを帯びています。そういうものがあるともいえ
るし、ないともいえないというあいまいな表現です。
そして、2000年8月11日に日銀はゼロ金利政策を解除し
たのですが、多くのエコノミストたちは、解除の時期は少なくと
も「デフレ懸念の払拭が展望できる情勢ではない」として日銀の
判断を批判しています。
日銀としては、ゼロ金利解除時期を当初2000年7月17日
に予定していたのですが、そごうの破綻が起こってゼロ金利解除
を見送ってしまったのです。
このとき多くの金利トレーダーたちは、「当面ゼロ金利解除な
し」として安心して夏休みに入ってしまったといいます。そごう
破綻の影響は決して小さくはないですが、たかが一企業の問題で
国の金利政策が影響されるはずはないと考えて「当面解除なし」
と考えたわけです。当然の判断であると思います。
それをいきなり8月11日にゼロ金利を解除したのですから、
金利トレーダーたちは大混乱です。彼らは、「7月解除間違いな
し」と読んで金利高に賭けたら裏切られ、8月は「低金利持続」
と判断したら今度は解除ですから、大損をする羽目になったので
す。日銀の判断は常識的ではないということです。
そして日銀は、おそらく不本意ながら2001年3月19日に
量的緩和策をとることを表明します。いや、表明せざるを得なか
ったというべきでしょう。しかも、今回の目標は「物価がマイナ
スからプラスに転ずるまで」というものであり、相当長期にわた
ることも考えられます。物価がそう簡単にプラスになるはずがな
いのです。そのため、相当長期にわたって20兆、30兆という
巨額な資金の投入が不可欠になってきます。それを日銀はキチン
とやれるのでしょうか。
森永卓郎氏をはじめとする多くのエコノミストは日銀の適切な
量的緩和による解決策を示唆しています。概略を述べると次のよ
うになります。
日銀が本気で量的緩和に取り組むと、物価は上昇に転ずるはず
です。そしてその後から金利が上昇していけば、今までデフレの
障害であったいろいろな事象がよい方向に回転をはじめ、日本経
済を安定成長軌道に乗せることは理論的には可能です。
デフレが止まって地価の下落が止まれば、銀行は中小企業にも
融資を復活するはずです。そして、地価の下落が止まれば、銀行
の不良債権の増加は抑えられることになります。さらに金利が上
昇することによって、長年低金利で苦しめられてきた生保各社も
逆ざやを解消することができるようになります。
いいことずくめですが、これがうまく行くかどうかは日銀が本
気になって量的緩和に取り組むかどうかにかかっています。日銀
は、今まで決してやらなかった長期国債の買い切りオペを行わざ
るを得ませんが、おそらく日銀はおそるおそる小出しにやる可能
性が高いと思います。しかし、このやり方では、デフレはさらに
継続し、深刻な事態になってしまいます。
この日銀の姿勢は、量的緩和策に転じてからのマネタリーベー
スの動きを見ることによって判断できます。しかし、3月のマネ
タリーべースは前年同月比1.2%のプラス、4月のマネタリー
ベースは前年同月比1.4%のプラスですから、何も変化はない
と判断できます。
しかも日銀が4月26日に発表した「経済・物価の将来展望と
リスク評価」を見ると、2001年度の消費者物価の見通しは、
マイナス1.0%〜マイナス0.3%なのです。つまり、物価が
プラスになるまで量的緩和を続けるといいながら、2001年度
中は無理であるという結論を早くも出していて、完全に腰が引け
てしまっているのです。これを見れば、日銀が本気で量的緩和に
取り組む姿勢は今のところ皆無といえるのです。
7月12日と13日の両日、金融政策決定会合が開かれます。
この決定会合に財務省の代表が出席し、「一段の金融緩和が望ま
しい」という政府の意向を伝えるはずですが、日銀としては現在
の景気情勢は「3月19日に金融の量的緩和策を決めた時点での
想定範囲内」というのんびりした見解を持っているのです。しか
し、株価が1万2000円割れ寸前まで売り込まれているだけに
日銀としてはきちんとした対応をする必要があります。
木村剛氏という優秀なエコノミストがおります。木村氏は足元
のデフレよりもインフレの方がはるかに怖いといっています。木
村氏は日本経済について、過剰流動性が発生しているといってい
ます。マネーサプライで見ると、名目GDPの120〜130%
に達しており、バブル期の110%を上回っています。つまり、
バブル期よりもお金が余っているというのです。
しかし、このお金は銀行融資を通じて経済活動の拡大に向わず
滞留しているというのです。現在、銀行貸出しは前年比マイナス
4%で推移していて、減少傾向が続いているからです。お金自体
は余っているのですから、何かのキッカケで動き出し、急激な勢
いで物価を押し上げる力となるというのです。そして、インフレ
が襲ってくるというのです。彼は、構造改革派エコノミストです
が、その所説は一理ありEJで改めて取り上げるつもりです。
−−[円の支配者日銀/14]
2001年07月13日
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