田政権では、経済安全保障担当大臣が新設されるなど、重要な政
策分野として浮上しています。経済と安全保障が密接に結びつい
ているという考え方は新しいものではありませんが、近年、中国
が経済規模や技術水準、軍事力などの様々な面で、米国と競合す
るなか、外交・安全保障における経済的要素の重要性が認識され
るようになってきているからです。
その流れにおいて、経済制裁が戦争に代わる有効な手段として
重視されてきています。ウクライナ侵攻で、ロシアには今までか
つてなかったほどの厳しい経済制裁が科せられているとされ、や
がてロシアはデフォルトに陥るといわれていますが、一向にその
気配はありません。プーチン大統領は、かねてから、「経済制裁
には十分耐えられる」と豪語しています。
確かに、ロシアの通貨の対ドルレートは、侵攻前の「1ルーブ
ル=1・3セント前後」から、3月7日には0・73セントまで
約44%も下落しています。しかし、3月25日以降は、「1ル
ーブル=1・2セント台」まで回復しているのです。
それでは、3月上旬のルーブル急落は何だったのかというと、
経済制裁に直面したロシアの富裕層たちが、国内のルーブル建て
資金をドル・ユーロなどの外貨や金、暗号資産にシフトして、資
金を保全しようとしたからです。
このとき、ロシアの中央銀行総裁であるナビウリナ氏は、中央
銀行総裁として、実に適切な手を打っています。ナビウリナ総裁
は、プーチン大統領が、ウクライナ侵攻を命令した時点で辞任し
ようと申し出たのですが、プーチン大統領による必死の引き留め
によって、留任したといわれています。
ナビウリナ総裁は、金利を一時20%まで引き下げ、輸出で受
け取った外貨の売却義務などの厳しい為替管理を課して、資本の
流出を抑えたのです。こうしておけば、ルーブルの相場を決める
のは、経常収支ということになりますが、ロシアの経常収支は、
過去10年くらいは、GDP対比2〜7%の黒字であり、これに
よって、ルーブルは安定したのです。史上最強の経済制裁は、今
のところまるで効いていないといえます。
それだけではないのです。ロシアは2014年のクリミア併合
後、ロシアの中央銀行は金をコツコツと貯め込んできたのです。
プーチン大統領はなかなかしたたかです。このロシアの金保有に
関して、4月9日付の「日刊ゲンダイ・デジタル」は、次のよう
に報道しています。
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ロシアという国の信用によってお金の価値が決まる通貨管理制
度では、ルーブルはジリ貧です。ロシア中銀が金を買っているの
はルーブルと金を結びつけ、ルーブルの信用を金で担保する“金
本位制”を実行しているのです。3月末以降のルーブル高はこの
影響が大きい。2014年のクリミア併合以降、ロシアは金の保
有を増やしてきました。
海外にある金の一部は凍結されている可能性がありますが、何
より、世界3位の金産出国です。掘れば金の保有量は増えます。
当面、ルーブルを担保する金は準備できるとみられます」(金融
ジャーナリストの森岡英樹氏) https://bit.ly/3rzMln9
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オレグ・ウステンコ氏という経済の専門家がいます。2019
年5月からウクライナのゼレンスキー大統領の経済アドバイザー
を務めていますが、ウステンコ氏は、ロシアのウクライナ侵略を
止めるためには、金融制裁だけでは力不足で、米欧の西側諸国が
ロシアからのエネルギー輸入を完全に止めなければならないと主
張しています。
なぜかというと、ロシアは今でも石油とガスの輸出を続けてい
るからです。しかも、今回のロシアのウクライナ侵攻によって、
これらの製品の価格は上昇し、ロシア経済の最も重要な部門に大
きな利益をもたらしているからです。
しかし、米国は4月6日になって、今まで影響が大きいとして
見送っていたロシア最大手銀行ズベルバンクとの取引禁止を決め
ましたが、焦点のエネルギー分野で特例を設定しているし、EU
もエネルギー輸入禁止には及び腰です。これでは、ロシアを追い
詰めることは不可能です。これに関して、ゼレンスキー大統領は
次のように批判しています。
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戦争犯罪よりも西側諸国は経済的損失を恐れている
──ウクライナ・ゼレンスキー大統領
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3月になると、外国企業の事業休止が相次いでいます。IKE
A、スターバックス、マクドナルド、ユニクロと、ロシア人に愛
されるブランドが次々と閉店しています。しかし、その一方で、
KFCやバーカーキングなどは、ロシア人がオーナーのフランチ
ャイズ店はそのままです。
赤の広場に面する130年の伝統を誇るグム百貨店では、ルイ
・ヴィトン、ディオール、ブルガリ、カルティエ、エルメス、グ
ッチ、シャネルなどの高級ブランドが軒並み店を閉じていますが
撤退を決めたわけではないのです。
注意すべきは、「ロシアから撤退」ではなく、「一時休業」で
あることです。ロシアには、企業側の理由で従業員を解雇する場
合、次の仕事が見つかるまでの期間、最大3か月は給与を補償し
なければならないという法律があります。仮に今から企業が一時
休業ではなく完全撤退を決めたとしても、ロシアで失業問題が本
格化するのは6月かそれ以降になるはずです。したがって、ロシ
ア人は西側諸国が期待するように、経済の面では何も困っていな
いのです。せいぜい砂糖などが不足する程度です。
しかし、ブチャでの惨劇などは、ロシアにとって大ダメージに
なります。これによって、ウクライナ問題は、節目が変わる可能
性があります。 ──[新しい資本主義/064]
≪画像および関連情報≫
●ロシアへの経済制裁が「まだ十分に効果を発揮していない」
これだけの理由
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ウクライナ侵攻に伴い、西側各国がロシアに科した経済制
裁が十分な効果を発揮していないとの見方が出ている。最大
の原因は、ロシアにとっての生命線である原油の禁輸措置を
実施しているのが、米国だけにとどまっていることである。
ロシアに致命的な打撃を与えるには、欧州への天然ガス供給
を止める必要があるが、これは西側経済にとって大打撃とな
るため、なかなか踏み切れないという事情がある。
西側各国は、ロシアに対して主に2つの経済制裁を実施し
ている。ひとつはロシアが保有する外貨準備の引き出しを制
限する措置、もう1つはSWIFTと呼ばれる国際送金ネッ
トワークからのロシアの排除である。どちらもロシア経済に
とって大打撃であることは間違いないが、致命的な影響を与
えているとまでは言えない。実際、プーチン政権は譲歩する
構えを見せていないし、ロシア国内ではインフレが進んでい
るものの、経済が、壊滅状態という状況にはなっていない。
厳しい経済制裁を科しているにもかかわらず、ロシア経済が
完全に破綻していない理由の1つは、経済制裁が効果を発揮
するまでには時間がかかるというタイムラグの存在である。
だが、それ以上に大きいのは、ロシアにとって最大のアキレ
ス腱である石油と天然ガスの禁輸措置が実施されていないこ
とである。 https://bit.ly/3NS2sG5
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ナビウリナロシア中央銀行総裁