2022年04月07日

●「『地政経済学』という学問がある」(第5706号)

 今回のEJのテーマは「新しい資本主義」です。岸田政権が実
現すべきテーマとして取り上げたからです。このテーマでは、新
しい視点から経済を分析するために、経済評論家の中野剛志氏に
よるMMT(近代貨幣論)の考え方をベースに解説しています。
 ブレジンスキーによるソ連邦崩壊後の米国の外交指針──この
構想は、既に完全に壊れています。まず、ジョージ・ブッシュ米
(子)大統領がイラクに侵攻したことによって、中東との関係が
不安定化しています。しかし、オバマ米政権によって、イランと
6カ国(米・英・仏・独・ロ・中)の核合意が結ばれ、修復が行
われたものの、2018年にトランプ米大統領が、何の戦略もな
しに、この合意から米国は離脱し、経済制裁を復活させると表明
しています。
 さらにトランプ米政権は、中国を敵視し、熾烈な関税戦争を仕
掛けて、中国との対立を深めています。それに加えて、今回のウ
クライナ紛争によって、ロシアと米国は深刻に対立してしまって
います。これに対して西側諸国の経済制裁は、非常に厳しいもの
であり、これによって、中国、ロシア、北朝鮮を必要以上に接近
させる結果になっています。このように、ブレジンスキーによる
ソ連邦崩壊後の米国の外交指針は完全に崩壊したといってよいと
いえます。
 さて、経済学の話が、なぜ、現在のウクライナ紛争に話になっ
たのかということですが、中野剛志氏は「地政経済学」というも
のを提唱しているからです。この地政経済学について、中野剛志
氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 私は、日本の経済成長の低迷し始めた時期と、冷戦終結のタイ
ミングが一致しているのは偶然ではないと思っています。日本の
高度経済成長は冷戦構造という下部構造の上に実現し、日本の経
済停滞は冷戦終結という下部構造と関係があるというふうに見て
おかなければならない。つまり、経済学と地政学は密接に関係し
ているということです。
 この視点なくして、まともな国家政策などありえません。経済
が地政学的環境にどのような影響を与えるのか、そして地政学的
環境が経済をどのように変化させるのかについても考察しなけれ
ば、国際政治経済のダイナミズムを理解できず、国家戦略を立案
することもできないのです。このことを訴えるために書いたのが
『富国と強兵/地政経済学序説』という本だったんです。
 地政経済学は、私の造語ですが、経済力(富国)と政治力・軍
事力(強国)との間の密接不可分な関係を解明しようとする社会
科学です。地政学なくして経済を理解することはできず、経済な
くして、地政学を理解することはできない。だから、地政学と経
済学を総合した「地政経済学」という思考様式が必要だと考えた
んです。              https://bit.ly/3DNrIIP
─────────────────────────────
 「地政学」とは、その国がどこにあるのか、どんな海と山に囲
まれているのか、資源は豊かなのか・・・といった地理的要素か
ら、その国の政治や外交、行動原理などを読み解く学問です。世
界の動き、国際政治の思惑が見えてくる「地政学」は、ビジネス
につながる学問・教養としてニーズが高まっています。
 この地政学と経済学を結びつけて考えるのが「地政経済学」で
すが、経済は所与の政治的秩序の上に成り立っているものであり
政治から切り離しては、有意義な研究をすることができないと中
野氏は主張しています。
 例えば、日本の場合、隣国にロシア、中国、北朝鮮といういず
れも核兵器を持つ、価値観の異なる国があります。しかるに、日
本経済はデフレに沈んでおり、隣国が着々と軍事費を積み上げて
軍備を強化しているのに、日本はリスクに対する何の対応措置も
とってきていない状態です。
 今回のロシアとウクライナの戦争をみてもわかるように、IT
デジタル技術が重要な戦力になることがわかっていますが、日本
は、そのITデジタル技術においても、他国に大きく遅れていま
す。つまり、地政学的には何もしていないのです。これは、ノー
テンキ以外のなにものでもないといえます。
 ところが、日本の同盟国の米国も、経済学と地政学は分離して
しまっています。なぜ、地政学と経済学は分離してしまったので
しょうか。これらの疑問に対して、中野剛志氏は次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 興味深いのは、地政学と経済学が分離した理由について、ダー
トマス大学教授のマイケル・マスタンドゥノが、冷戦構造の影響
を指摘していることです。
 冷戦下においては、アメリカにとって安全保障上の脅威はソ連
でしたが、ソ連は経済的な競合相手ではありませんでした。一方
アメリカの経済上の脅威は、西ドイツや日本だったけれど、これ
らの国々は同盟国であり、安全保障上の脅威ではありませんでし
た。そのため、対ソ連を想定した軍事研究から経済への関心が脱
落し、経済研究は安全保障を無視したというわけです。
 しかし、1998年の時点でマスタンドゥノは、冷戦が終結す
れば、安全保障と経済は再び結びついていくであろうと論じてい
たのですが、それから20年がすぎても、依然として地政学は経
済学との接点を欠落させたままです。ただし、地政学者や国際政
治学者の多くは国力の基礎に経済力があることは認めています。
どうやら、彼らが経済に関する知識に乏しいのが原因となってい
るようなんです。          https://bit.ly/3LHhf4t
─────────────────────────────
 経済学──主流派経済学では、数学で武装された偏狭な専門主
義が進行しており、ますます現実とは隔離している状況です。そ
れは、地政学はおろか、歴史学、政治学、社会学への接近すら拒
否しているという偏狭主義に陥っています。
              ──[新しい資本主義/062]

≪画像および関連情報≫
 ●評論家、小浜逸郎が読む『富国と強兵 地政経済学序説』
  (中野剛志著)主流派経済学を超える試み
  ───────────────────────────
   古い経済学を捨てて、地政学と経済学との融合を、目指す
  600ページ超の野心的な大作。利益を目指して合理的に行
  動する経済人という主流派経済学の人間規定は根本から問い
  直されるべきだ。それは動態としての人間をとらえず、未来
  への行動に付きまとう不確実性や、制度を通して動く集団と
  しての人間を視野から外してしまう。政治と経済とは密接・
  複雑に関係しているのに、主流派経済学は自律的な科学のよ
  うに君臨してきた。しかしこの経済学の基礎にあるのは新自
  由主義というイデオロギーである。これが生み出したグロー
  バリズムは、国家が経済活動に対して持つ欠くべからざる意
  義を無視し、格差の拡大、成長の行き詰まり、金融危機、世
  界不況、技術開発の鈍麻、政治的秩序の混乱など、経済自由
  主義が潜在的にもつ危機的な側面を露呈させただけだった。
   著者は西欧近代の黎明(れいめい)期から現在の国際社会
  に至るまで、人間の政治経済活動を大きく動かしてきた動因
  と原理に詳細な視線を巡らす。特に著者が強調するのは、時
  代や国に応じて戦争が古い経済体制を塗り替え、行き詰まっ
  ていた体制に息を吹き返させてきた経緯である。それは経済
  のみならず、技術、組織形態、国民的意識や政治制度をも刷
  新する。そして重要なのは、それらが戦後終息してしまうの
  ではなく、そのまま残り続けるという事実である。
  ───────────────────────────
『富国と強兵/地政経済学序説』.jpg
『富国と強兵/地政経済学序説』
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]