えれば、それは日本の借金(国債残高)があまりも巨額であるか
らでしょう。少なくとも多くの日本人はそう考えていると思いま
す。借金に借金を重ねると、日本の財政は破綻してしまうのでは
ないかと不安になるからです。
しかし、思い切った財政出動をしないと、日本経済はデフレか
らいつまで経っても脱却できないのも事実です。国債の発行を少
しでも減らし、プライマリーバランスを黒字にすると、いつまで
もデフレから抜け出せなくなるはずです。しかし、借金が多い財
政がトラウマになって、思い切った財政出動ができないでいると
いえます。
1995年にデフレが始まったとすると、今年で実に27年に
なります。こんなに長期間デフレに陥っている国は、日本だけで
す。そろそろ「20年デフレ」を卒業して、「30年デフレ」と
いっても過言ではありません。
本当に日本は財政危機ではないのでしょうか。このことを明ら
かにする必要があります。このテーマは、EJでは何回もやって
いるのですが、以前から「日本に財政問題はない」と主張する高
橋洋一氏の新著も参考にしながら、改めてていねいに考えてみた
いと思います。
「日本は重い財政問題を抱えている」という人は、何を根拠に
そういっているのでしょうか。これについて、高橋洋一氏は会計
学の観点から、次のように述べています。
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会計学では、負債の総額を「グロス」、負債から資産を引いた
額を「ネット」という。このうちどちらに着目するかが、ポイン
トだ。ひとことでいえば、財政問題があるといっている人たちは
政府のバランスシートの右側(負債だけ)、つまりグロス債務ま
たはグロス債務残高の対GDP比を見ているのだ。
政府のグロス債務残高は1000兆円、これはGDPの2倍で
ある。だから「日本は大変な財政問題を抱えている」「財政再建
が必要だ」「そのためには増税と歳出カットだ」と主張している
わけである。
これほどの財政難のなかで借金がさらに増えては困るから、増
税で税収を増やす一方、政府の支出を減らそう、もっと倹約しよ
うというわけだ。
これの何がおかしいか。すでに「答え」をいってしまったよう
なものだから、もうわかるはずだ。要するに彼らは、借金だけを
見て騒いでいるのである。 ──高橋洋一著/あさ出版
『99の日本人がわかっていない新・国債の真実』
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「資産があるじゃないか」というと、財務官僚は必ず「資産と
いっても売れない資産が多い」と反論します。確かに道路や橋な
どは売れないと思います。
しかし、高橋氏によると、日本政府の資産の大半は金融資産で
あり、売ろうと思えば、すぐ売れるのです。かつて、大蔵官僚で
あった高橋洋一氏がいうのですから、間違いがないことです。た
だ、財務省としては、売りたくないと考えているのです。
実は日本政府の金融資産は、政府関連子会社への出資金、貸付
金が多いのです。民間企業でも経営が苦しくなってきたら、関連
子会社を処分することはあり得ることです。政府の借金の額が本
当に多くてみっともないと思うなら、そういう政府関連子会社を
いくつか売却すればよいのです。
しかし、財務官僚の上層部は、絶対にそういう資産は売りたく
ないのです。だから、道路とか橋とかいうのです。本当は売る必
要がない(財政問題はない)からですが、政府関連子会社を売っ
てしまうと、財務省の幹部は、自分たちの天下り先がなくなって
しまうからです。だから、国民に負担を押し付けて、増税や歳出
削減で、財政の見映えをよくしようとしているのです。自分の再
就職先ぐらい自分で探せ!といいたいです。日本がデフレから抜
け出せないのは、財務省に重大な責任があります。実にけしから
んことです。
2017年のことです。ノーベル経済学賞を受賞したコロンビ
ア大学教授、ジョセフ・スティグリッツ氏が来日し、経済財政諮
問会議に出席したことがあります。そのとき、スティグリッツ教
授は、次の趣旨の提言をしています。
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日本は財政政策による構造改革を進めるべきである。具体的に
いうと、政府や日銀が保有する国債を相殺することで、政府の債
務は瞬時に減少する。 ──ジョセフ・スティグリッツ教授
──高橋洋一著/あさ出版の前掲書より
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スティグリッツ教授は「政府や日銀が保有する国債を相殺する
ことで」といっていますが、これは、政府の財務状況を「統合政
府バランスシート」でとらえていることを意味します。日銀は、
政府の子会社であり、民間企業が関連子会社と連結決算をするよ
うに、統合政府のバランスシートはあり得るのです。高橋氏によ
ると、一国の財務状態を「統合政府バランスシート」で考えるこ
とは海外ではそれが当たり前のことであるということです。
「日本銀行は独立性がある」とよくいわれますが、これは日銀
が金融政策を執行するときのことであって、政府は、金融政策に
基本的には介入できないのです。しかし、組織的には、日銀は政
府の子会社なのです。
そもそも国債残高の対GDP比も、日本の場合、国債残高が多
いのは事実ですが、それぞれの国の考え方によって算出された国
債残高を比較したものに過ぎず、必ずしも公正な比較とはいえな
いのです。日本の場合も、統合政府で考えると、政府の債務は、
大幅に減少してしまうのです。したがって、日本に深刻な財政問
題は存在しないということになります。
──[新しい資本主義/055]
≪画像および関連情報≫
●日本の問題をはき違えてい「財務省」の大きな罪
/リチャード・カッツ氏
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日本の財政赤字は「氷山に向かうタイタニック号」のよう
なものだという矢野康治財務事務次官の発言で唯一新鮮だっ
たのは、選挙で選ばれた政府の政策を、水面下での会話では
なく、影響力のある『文藝春秋』誌上で厳しく批判したこと
だ。約半世紀前、1978年から財務省は政府が抜本的な歳
出削減と増税をしない限り「日本は崩壊ししかねない」と、
首相を脅し続けて自分たちのいいなりにしようとしてきた。
最近は国債市場の暴落を”ネタ”にしている。財務官僚たち
は影で、首相を次々と「犠牲」にすることで消費増税を繰り
返せると影でジョークを言っているほどだ。
仮に財務省の警告が正しければ、それは国益のためだった
と言えるだろう。しかし現実には、財務省は何度も間違って
きたし、かたくなに主張を改めようとしなかった。公平のた
めに言うと、確かに財務省の見解は多くの高名なエコノミス
トの間でも共有されている。2012年にはエコノミスト2
人が、財政緊縮策を実施しなければ2020年から2030
年までの間に国債の暴落が起こると予測していた。
1990年代半ば、財務省は橋本龍太郎首相を説得して消
費税を3%から5%に引き上げさせた。引き上げ幅は健全な
経済状態では問題にならないほど小さかったが、不良債権の
肥大化により日本の体力が低下しているというアメリカ政府
の指摘が無視されていた。 https://bit.ly/3uyUkBz
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ジョセフ・スティグリッツ教授