経済調査部首席エコノミストです。よくテレビにも登場しますし
経済の解説も平易でわかりやすく、ていねいです。
永濱氏もMMTの本を書いていますが、その本で、パナソニッ
クの創業者・松下幸之助氏の言葉を引用して、MMTに関連して
次のように述べています。
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「それが必要であり、やらねばならないことであれば、即刻に
やる。またやってはならないことがあれば、仮に金があってもし
ない/松下幸之助」
即刻やらなければならないことに関しては、「予算がないので
次の年度まで待ってくれ」と言い訳をするのではなく、財源の制
約なしにやるべきだし、もしやる必要がないことであれば、「予
算が余ったのでムダだけどやります」という役人根性ではなく、
お金があってもやらないという姿勢が求められるというのが、松
下氏の考え方であり、この考え方はある意味、MMTに通じる考
え方と言えるかもしれません。
──永濱利廣著/ビジネス教育出版社刊
『現代貨幣論/MMTとケインズ経済学』
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昨日のEJで述べた「生産的政府支出」(PGS)などは、政
府として即刻やらねばならないことですが、日本政府は、国債残
高の対GDP比が256%もの借金を抱えているので、どうして
も、必要な予算でも抑制してしまうのです。これは、政府が財務
省のワナにはまっているといえます。
実際問題として、政府が何か新しいことをやろうとすると、必
ず「財源はどうするのか」という議論が起こり、非常にやりにく
くなっています。MMTでは、財源などは気にすることなく、そ
れが将来の経済の成長に寄与すると判断できるものであれば、躊
躇なくやるべきであるとしているのです。
永濱利廣氏は、MMTの原則として「政府は自国通貨建てで売
られるものであれば、常に購入可能であり、財源成約はない」と
断じています。しかし、これは「政府は無制限に支出すべきだ」
ということを意味していないと断っています。そんなことをすれ
ば、インフレが起きてしまうからです。
しかし、日本は現在超長期デフレであり、インフレのことなど
心配せず、何でもやれるし、やるべきであります。それは、デフ
レから脱却するためにも必要なことです。
昨日のEJで、政府の発行する国債を中央銀行である日銀が引
き受ける「財政ファイナンス」は禁じ手であり、財政法第5条で
禁じられているということを述べました。しかし、これはあくま
で建前であり、実際にそれは平然と行われているのです。昨日も
述べたように、政府が予算執行するとき、政府は、政府短期証券
を発行し、それを日銀に購入させて、財源を賄っています。
この件に関して、井上智洋氏という若い経済学者が、自身のM
MTの本で、意味深なことを述べています。井上智洋氏は、駒澤
大学経済学部准教授で、専攻はマクロ経済学です。井上氏は非常
にわかり易いMMTの本を書いており、そこで「明示的財政ファ
イナンス(Over Monetary Financing)OMF」 というものを紹
介しています。
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財政ファイナンスというのは、政府が貨幣発行を財源に支出を
行うことです。これは実際に行われていることで、MMTの文脈
では、中央銀行がキーストロークによって作り出したお金を、政
府が支出に充てることを意味します。
ただし、実際には政府支出の財源が租税や国債であるかのよう
に偽装されています。支出と同額の税金を徴収したり国債を発行
したりすることによって、あたかも財政ファイナンスを行ってい
ないかのような装飾が施されているというわけです。
OMFは、その装飾をはぎとって、あからさまに財政ファイナ
ンスを実施しょうということです。 ──井上智洋著
『MMT/現代貨幣論とは何か』/講談社選書メチェ
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意味深な表現というのは、「政府支出の財源が租税や国債であ
るかのように偽装されています。支出と同額の税金を徴収したり
国債を発行したりすることによって、あたかも財政ファイナンス
を行っていないかのような装飾が施されている」の部分です。
これは何を意味しているのでしょうか。
実際には、財政ファイナンスを日常的に行っているのですが、
財政法第5条ではこれを禁止しているので、政府支出の財源が租
税や国債であるかのように偽装されているといっているのです。
そもそも税の考え方がMMTでは異なるのです。税に関して、
中野剛志氏は、次のように述べています。
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そもそも、税の考え方が間違っているんです。これまで税金は
政府の支出に必要な財源を確保するのに不可欠なものだと考えら
れてきましたが、MMTによれば、これがそもそもの間違いなん
です。なぜなら、自国通貨を発行できる政府は、原理的にはいく
らでも国債を発行して、財政支出ができるからです。そのような
政府が、どうして税金によって、財源を確保する必要があるんで
しょうか?そんな必要はないんです。とはいえ、無税にするとハ
イパーインフレになってしまう。だから、税というものは、需要
を縮小させて、インフレを抑制するために必要だと考えるべきな
のです。インフレを抑えたければ、投資や消費にかかる税を重く
する。逆に、デフレから脱却したければ、投資減税や消費減税を
行う。つまり、税金とは「財源確保の手段」ではなく、「物価調
整の手段」なのです。 ──中野剛志氏
https://bit.ly/36ss7np
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──[新しい資本主義/第052]
≪画像および関連情報≫
●消費増税は意味なし!・・・日本はMMTの正しさを証明し
たのか
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MMTが正しいのならば、変動相場制を採用しており、自
国通貨を発行できる日本は財政赤字を気にする必要はないわ
けで、そもそも消費増税をしなくてもよいのだが、なぜ増税
を実施したのか。
これまで通り、極力中立的な立場で説明を重ねたいため、
その理由を財務省が公表している資料から見ていきたい。内
閣府の『令和元年度年次経済財政報告』には消費増税する理
由として、財政健全化のほか、社会保障について言及されて
いる。財務省が公表しているデータによれば、1990年度
の当初予算において、66・2兆円の歳出のうち、17・5
%に当たる11・6兆円が社会保障費だった。
しかし、少子高齢化が進んだことで、2019年度の予算
では、99・4兆円の歳出のうち、34・2%に当たる34
兆円を社会保障費が占めており、この30年間で社会保障費
は約3倍に膨れ上がったことがわかる。19年度予算におけ
る一般会計歳出101兆4571億円のうち、社会保障費は
34兆593億円であり、歳出総額の約3割(33・6%)
を占めるまでになった。基本的には社会保障費は保険料で賄
うものだが、それだけだと、現役世代に負担が集中してしま
う。そこで、国債の発行や税金でも賄っているが、国債は子
どもや孫の世代に負担を先送りにしていることと等しいとし
て、消費増税によって財政の健全化を図ろうとした。
https://bit.ly/3udT5Hy
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永濱利廣氏