る。国が破産しなければいいが・・・」──これは現代の日本人
のほとんどが認識しています。そして、いずれ増税のラッシュが
来るに違いないと考えています。
しかし、MMT(現代貨幣論)の主唱者であるステファニー・
ケルトン教授は、「日本経済はMMTの正しさを世界に証明して
いる」と発言しています。そして、日本の債務は危機でも何でも
なく、日本がその気になれば明日にも返済は可能であるとして、
次のように述べています。
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たとえば、日本の例を見てみよう。日本の債務の対GDP比は
240%と、先進国で最高だ。2019年9月末時点で日本の債
務残高は、1335兆5000億円と過去最高を記録した。実に
1000兆円を超えているのだ。エンツィ上院議員が1000兆
という単位の借金を聞いたらなんと思うだろうか。恐ろしくたく
さんのゼロが並んでいる。「タイム」誌が、特集するとしたら、
「あなたには1050万円(約9万6000ドル)の借金があり
ます」という書き出しになるだろう。しかしアメリカと同じよう
に、日本も債務の持続可能性については何の問題もない。なぜな
ら日本は通貨主権国であり、日本政府の支払義務をすべて処理し
てくれる中央銀行があるからだ。金利が好ましくない動きを見せ
れば日本銀行が止められるので、金融市場が日本を債務危様に追
い込むことはできない。日本も日銀のコンピュータのキーボード
を叩くだけで、債務をそっくり返済することができる。
──ステファニー・ケルトン著
『財政赤字の神話/MMTと国民のための経済の誕生』
早川書房刊
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1000兆円を超える財政赤字──とんでもない借金ですが、
ここで昨日のEJで説明したA、B、Cの3種類のバケツの話を
思い出していただきたいのです。Aが財政赤字、Bが財政均衡、
Cが財政黒字を表しています。世間一般の評価では、Cの財政黒
字が理想で、次はBの財政均衡、いちばんイメージの良くないの
はAの財政赤字ということになります。
しかし、本当のところは、非政府部門(つまり、民間部門)の
バケツにドルが貯まるのは財政赤字のときだけです。すなわち、
財政が赤字のときだけに民間部門にドルがもたらされることを意
味しています。銀行に企業や個人から借り入れがあったときに、
新たに預金が生まれるのと同じ、「信用創造の仕組み」が働いて
いるからそうなるのです。
日本の財務省は、国民を脅かすのに使えるデータ、すなわち、
「巨額の恐ろしい財政赤字」を強調する一方で、その巨額の財政
赤字が民間部門に及ぼすプラスの影響についてはなぜか説明しよ
うとしないのです。矢野論文はまさにそうです。
「財政黒字」がそんなによいのでしょうか。
米国のケースですが、政府債務がゼロだったことが1回だけあ
ります。1835年、アンドリュー・ジャクソン大統領の時代が
そうです。FRBの設置が1913年のことですから、中央銀行
が債務を引き受けたわけではないのです。せっせと赤字財政を転
換し、債券保有者にお金を返済したのです。これに10年かかっ
ています。その結果、1823〜1836年は財政黒字だったの
です。それではその間よいことがあったのでしょうか。
そうではなかったのです。それまでには、経験のしたことのな
い最悪の景気後退に突入してしまったのです。その原因は明らか
です。財政黒字は、経済から資金を吸い上げるからです。財政赤
字はその逆であり、民間の所得、売り上げ、利益を下支えし、景
気を維持するのです。
次の表は、米国の政府債務の減少率の年と、景気後退の始まる
年を示したものです。これを見ると、政府債務が減少するに伴い
景気後退が始まっていることがわかります。
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政府債務ゼロの期間 債務減少率 景気後退開始年
1817〜1821 29% 1819
1823〜1836 100% 1837
1852〜1857 59% 1857
1867〜1873 27% 1873
1880〜1893 57% 1893
1920〜1930 36% 1829
──ステファニー・ケルトン著の前掲書より
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かつての米国の、政府債務を完済するというこの試み、に関し
て、ステファニー・ケルトン教授は、自著で次のようにコメント
しています。
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国家債務の完済は、当初は国をあげてのパレードに催するほど
の偉業と思われた。ホワイトハウスは当初、毎年発表する『大統
領経済報告』で、このニュースを大々的に取り上げるつもりでい
た。だがその後、怖気づき、結局報告書のこの章はひつそりと削
除された。それが明らかになったのは、ナショナル・パブリック
ラジオ(NPR)の経済番組『プラネットマネー』が、政府の秘
密の報告書を入手したからだ。そこには政府が債務をすべて返済
するという、恐ろしいシナリオが描かれていた。ホワイトハウス
はそれを全国民に発表せず、ひっそりと隠した。なぜか。それは
米国債市場そのものを消し去ることの影響を懸念したからだ。政
府高官の多くが国家債務に抱く、愛憎入り混じった感情がまたも
頭をもたげたのだ。ホワイトハウスは国家債務の消滅を願いつつ
米国債をすべて消滅させるようなリスクは負えなかった。
──ステファニー・ケルトン著の前掲書より
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──[新しい資本主義/第043]
≪画像および関連情報≫
●コラム:財政赤字は「むしろ良い」、変わりつつある評価
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[ロンドン2020年1月8日/ロイターBREAKINGVIEWS]
最近まで、ほとんどのエコノミストは、政府が平常時にさ
さやかな規模以上に借り入れを膨らませる行為を非難してき
た。彼らはおおむね政府を信用せず、公的債務が民間投資を
圧迫するだけでなく、物価を高騰させ、景況感を冷やすと証
明できる理論を持っていた。ところが今や、財政赤字はそれ
ほど悪い存在ではない。むしろ、総じて良いとの見解が優勢
だ。古い考え方が死に絶えたわけではない。政府はいわば国
家という大きな家族で、収入以上にお金を使うべきでないと
いう理屈は直観的に訴えかける力がある。ドイツのメルケル
首相も、こうした価値観を「シュバーベン地方の主婦」たち
の倹約精神になぞらえている。
「財政赤字悪玉論」により、ユーロ圏加盟国は平常時に財
政赤字を国内総生産(GDP)比3%までに抑えるよう求め
られ、ドイツは「債務ブレーキ」と呼ばれる制度を導入。財
政赤字がGDPの0.35%に達すると、原則としてさらな
る政府借り入れを禁じているほどだ。
依然として少数の政治家(主としてドイツ人)は、大規模
な財政赤字を計上するのは、単純によろしくないと考えてい
る。一部の有名エコノミストも同意見だ。ブルームバーグに
よると、米大統領経済諮問委員長を務めたクリスティナ・ロ
ーマー氏は最近、大幅な財政赤字の持続は「強力かつ健全な
超経済大国になるための方策にならない」と発言した。
https://bit.ly/3pCFPuE
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ステファニー・ケルトン教授