2022年03月08日

●「クラウディングアウト違っている」(第5685号)

 主流派経済学──私が大学で学んだ経済学もこの経済学ですが
この分野には多数の優れた学者がいます。しかし、MMT(現代
貨幣論)のロジックに立つと、それはきわめて常識的であり、素
人でも理解できるロジックで、正しいように思えます。しかし、
主流派経済学では、多くの場合、それは違うというのです。どう
して、意見がこうも異なるのでしょうか。
 「クラウディングアウト」という経済学の用語があります。こ
れについて、ウィキペディアには次の説明があります。
─────────────────────────────
 クラウディングアウトとは、行政府が資金需要をまかなうため
に大量の国債を発行すると、それによって市中の金利が上昇する
ため、民間の資金需要が抑制されること。「クラウディングアウ
ト」(crowding out)の字義は「押し出す」という意味である。
                    ──ウィキペディア
─────────────────────────────
 このウィキペディアの説明をもう少しわかりやすくいうと、次
のようになります。
 政府が大量の国債を発行し、財政出動するとします。この国債
を購入するのは主に銀行です。したがって、銀行から政府へお金
が回ることになります。そうすると、銀行が持っているお金が減
ります。これは、お金の希少性が上がったことを意味します。
 希少性が高くなったお金を融資するさいは、当然ですが、金利
が上昇します。金利が上昇すると、会社の経営者は従来の金利な
ら設備投資をしようかと思っていても、上昇した金利で借りてま
で投資をするべきかどうかを考えるでしょう。その結果、投資を
諦める会社がきっと出てくるはずです。これによって民間の投資
が縮小します。この現象をクラウディングアウトというのです。
 つまり、政府が国債を大量に発行すると、それは市中金利を上
昇させ、民間の経済活動(投資のための資金調達や住宅購入など
の消費行動)に抑制的な影響を与えてしまうことをいうのです。
 ウェイン・ゴドリー(1926−2010)という英国の経済
学者がいます。彼は、英国経済に対する悲観論と英国政府に対す
る批判で有名な経済学者であったといわれます。MMTの主唱者
であるステファニー・ケルトン教授の本に、ゴドリーの財政に関
する考え方の解説が出ています。それは、政府の収支(黒字か赤
字か)がわれわれにどのような影響を及ぼすかを理解するための
シンプルではあるが、非常に説得力のあるモデルです。
─────────────────────────────
    「政府部門の収支」+「非政府部門」 =0
    「政府部門の赤字」=「非政府部門の黒字」
─────────────────────────────
 このモデルはきわめてシンプルです。上記2つの等式は、同じ
ことの裏返しです。経済の片側で赤字が出れば、反対側にちょう
ど同じだけの黒字ができます。経済の片側の支払いが受け取る分
より多ければ、もう一方はまったく同じだけ受け取る分のほうが
多くなるはずです。つまり、マイナスの反対側にはつねに同じだ
けのプラスがあるのです。
 添付ファイルに2組のバケツの絵が3つ(ABC)ありますが
それは、次の3つのことを示しています。
─────────────────────────────
         A ・・・・ 財政赤字
         B ・・・・ 財政均衡
         C ・・・・ 財政黒字
─────────────────────────────
 第1に、Aのバケツを見てください。
 政府は100ドルを私たち(非政府部門)のバケツに入れます
が、90ドルを税金として抜き取るとします。そうすると、政府
は10ドルマイナスになり、私たちは10ドルのプラスになりま
す。この場合、政府部門は赤字になります。重要なことは、財政
赤字は国民の貯蓄を食いつぶすのではなく、増やしていることで
す。政府がこのペースで、赤字支出を続ければ、毎年10ドルず
つ私たちのバケツに貯まっていき、時間が経過すると、それは私
たちの金融資産になります。
 第2に、Bのバケツを見てください。
 これは支出を税収の範囲内にとどめるとします。政府は100
ドル支出し、100ドルを税として徴収します。そうすると、両
方のバケツから黒字は消滅します。これが財政均衡です。日本の
財務省はこの財政均衡を目標としています。プライマリーバラン
スは、この考え方をベースとしています。しかし、これは、家計
とまったく同じ考え方です。
 財政均衡によって経済全体の状況が良くなるのであれば、すな
わち、完全雇用や物価安定が実現すれば、財政均衡に文句をつけ
る筋合いはないのです。しかし、経済の均衡を保つには、財政赤
字による支援が不可欠なのです。
 第3に、Cのバケツを見てください。
 これは、政府が90ドル支出し、税として100ドル徴収する
ケースです。増税をして財政健全化を達成しようとするとこうな
ります。いま財務省が何とかして達成したいと考えているのはこ
の政策です。
 これは政府のバケツから私たちのバケツにドルが流れ込んでく
るのではなく、逆方向に流れ出しています。政府の側にプラスサ
インが付き、私たちのほうにマイナスがついたのです。これを続
けると、政府は黒字化しますが、私たち、すなわち民間は赤字に
なります。
 これは、クラウディングアウトの認識とは逆になります。民間
の貯蓄を食いつぶすのは、財政赤字ではなく、財政黒字というこ
とになるからです。なぜ、この事実を指摘する主流派経済学者は
いないのでしょうか。政府の財政収支には意を払うが、民間のバ
ケツにどう影響するかを全く考えていないのです。
             ──[新しい資本主義/第042]

≪画像および関連情報≫
 ●「クラウディングアウト」は起こらない
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   昨日、大阪で行われた勉強会に参加してきました。いち参
  加者として、ほかの参加者からの質問に答えるという形は、
  とても居心地がよかったです。また、いままでに知ったこと
  を一人の民間人として伝える側に回ることもとても大切なこ
  とだと実感しました。さて、その中で受けた質問に対して、
  ブログでも書いておきます。
   質問は「国債を発行すると、お金が政府に取られるので、
  それだけ民間に回るお金が少なくなるのではないか」という
  質問です。経済学では「クラウディングアウト」(締め出し
  効果)と言われるものです。今までの主流派経済学では「国
  債の発行+政府支出増」という「信用創造の第2の経路」を
  無視しています。そのため、国債を発行しても通貨の供給量
  は増えないという立場を取っています。
                  https://bit.ly/3IMr6VF
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ゴドリーの3つのモデル.jpg
ゴドリーの3つのモデル
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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