2022年02月28日

●「信用創造の原理を深く理解すべし」(第5679号)

 前回を少し振り返ります。ある企業が銀行から1000万円の
融資を受けたとします。そのさい、銀行はその企業の口座にキー
ボードを使って「1000万円」と記帳します。そのため、これ
を「キーストロークマネー」と呼んでいます。このさい、重要な
のは、この1000万円は銀行にある1000万円の預金をその
企業に融資したのではなく、純粋に1000万円が創造されたも
のであるということです。これを「信用創造」と呼んでいます。
 これに対して「そんなことどうしていえるのか」という反論も
あります。企業はその融資金の1000万円の資金を引き出して
使うわけで、それは銀行にストックされている預金から1000
万円を引き出しているといえるのではないかというわけです。
 しかし、全国銀行協会が編集している『図説わが国の銀行』に
は次の記述があります。
─────────────────────────────
 銀行が貸出を行う際は、貸出先企業Xに現金を交付するのでは
なく、Xの預金口座に貸出金相当額を入金記帳する。つまり、銀
行の貸出の段階で預金は創造される仕組みである。
         ──全国銀行協会編/『図説わが国の銀行』
─────────────────────────────
 もうひとつ動かぬ証拠もあります。2019年4月4日の参議
院決算委員会において、「銀行は信用創造で十億でも百億でもお
金を創り出せる。借入が増えれば預金も増える。これが現実。ど
うですか、日銀総裁」という野党の質問に対して、黒田日銀総裁
は次のように答弁しています。
─────────────────────────────
 銀行が与信行動をすることで預金が生まれることは、委員ご指
摘の通りです。              ──黒田日銀総裁
─────────────────────────────
 この黒田日銀総裁の発言で、企業や個人の借り入れで、預金が
創造されることは理解できると思います。これをバランスシート
で書くと、企業では次のようになります。
─────────────────────────────
    ≪企業の場合≫
           資産         負債
     預金1000万円  借入金1000万円
─────────────────────────────
 このように企業には負債が発生します。つまり、企業が銀行に
「1000万円を期日までに返す」という負債であり、これによ
って、1000万円の預金が創造されます。この場合、銀行のバ
ランスシートは次のようになります。
─────────────────────────────
    ≪銀行の場合≫
           資産         負債
    貸出金1000万円   預金1000万円
─────────────────────────────
 この場合、銀行の「預金1000万円」がなぜ負債になってい
るのかというと、それは企業の引き出しに備えるためです。つま
り、銀行は企業に対して1000万円の現金通貨を支払う負債を
負っていることになります。
 以上の話の後、中野剛志氏と記者との間には、次のやり取りが
展開されます。
─────────────────────────────
――ところで、信用創造に元手となる資金が不要なのだとしたら
 銀行は、いくらでも、好きなだけ貸し出すことができるわけで
 すか?
中野:いやいや、さすがにそんな“ドラえもん”のような話には
 なりません(笑)。さすがに借り手側に返済能力がなければ、
 銀行は貸出しを行うことはできません。だからこそ、銀行は、
 融資の際に借り手を審査するわけです。
  つまり、銀行の貸出しの制約となるのは貸し手(銀行)の資
 金保有量ではなく、「借り手の返済能力」ということになりま
 す。大雑把にいえば、「借り手側に返済能力がある限り、銀行
 はいくらでも貸出しを行うことができてしまう」ということ。
 もっと言えば、「借り手側に返済能力がある限り、銀行はいく
 らでも預金貨幣を生み出すことができる」ということです。念
 のために付け加えておくと、民間銀行の信用創造には法令によ
 る制約はありますが、本質的には、信用創造の制約となるのは
 借り手の返済能力だと考えてよいでしょう。
――なるほど。          https://bit.ly/3MeV078
─────────────────────────────
 以上のことで明確になったことがあります。それは、信用創造
の原理が、政府が国債を発行するときにも当てはまるということ
です。現在、政府が国債を発行して、その大多数を日本銀行や民
間銀行が引き受けていますが、これは銀行が政府に対して信用創
造することを意味しており、そのさい民間の金融資産(預金)の
制約は一切受けないのです。
 したがって、国債をいくら発行して赤字財政支出が膨れ上がっ
たとしても、民間の金融資産が減ることなどないので、国債金利
が高騰するという事態も起こらないのです。
 それどころか、国債を発行して、財政支出を拡大させることに
よって、財政支出額と同額だけの預金通貨が増えるのです。信用
創造の原理が働いているからこそこういうことが起こります。国
債の発行や償還については、正確に理解されていない部分が多く
これについてもEJで取り上げて説明します。
 しかし、政府は、日本銀行にしか口座をもっていないし、民間
銀行から直接融資を受けられないのです。したがって、いささか
複雑なオペレーションが必要になりますが、これについては、明
日のEJで詳しく説明します。この信用創造の原理は大切な知識
であり、正確に理解しておく必要があります。
             ──[新しい資本主義/第036]

≪画像および関連情報≫
 ●「寓話で学ぶ信用貨幣論」の補足説明1
  ───────────────────────────
   お金ってどうやって生まれるの?
  あらゆる経済の根幹をなすこの問の答えを、特に日本では、
  驚くほど多くの人が間違えています。私の肌感覚では、専門
  家も含め、概ね日本人の9割くらいが間違えていると思いま
  す。経済学部の私のゼミ生も最初は全員間違えていました。
   典型的な間違いを挙げます。下記のリンクはグーグルで、
  で「信用創造」と日本語で検索した結果に出てきた上位3つ
  です。             https://bit.ly/3HlBli3
   そして、全部の解説が間違っています。ちなみに、「信用
  創造」とは英語の「money creation」の訳語。つまり、より
  平易に訳せば「お金の創造」のことです。
   3つの解説に共通しているのは、「銀行は預かった(もし
  くは借りた)お金を又貸ししてお金を増やしている」という
  部分です。これ、間違いです。もしこれが本当だったら、銀
  行って何なのでしょう。金主のお金を高利で貸し出す闇金と
  何が違うのでしょうか。
   もちろん、現実社会の近代的な「銀行」は、400年くら
  い前のその誕生時から現在に至るまでそんな「又貸しビジネ
  ス」はしていません。「何もないところから」借り手の信用
  を担保にお金を生み出す。これが現実社会の信用創造です。
                 https://bit.ly/3M00Lpb
  ───────────────────────────
国会で答弁する黒田日銀総裁.jpg
国会で答弁する黒田日銀総裁
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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