しての価値を持つのでしょうか。この素朴な疑問に答えるために
「商品貨幣説」と「信用貨幣説」があり、MMTは後者に属して
いるというところまで説明が進んでいます。正確にいうと、貨幣
をめぐる学説には、もうひとつあります。
ドイツの統計学者であるゲオルク・フリードリッヒ・クナップ
は、貨幣の価値を担保しているのは、国家による法的な強制力で
あるといっています。これを「貨幣固定説」といいます。MMT
が立脚する「信用貨幣論」はその一種です。貨幣固定説について
は、ウィキペディアに次の解説があります。
─────────────────────────────
マクロ経済学において、貨幣国定説とは、お金は物々交換に付
随する問題に対する自然発生的な解決策あるいは債務を代用貨幣
化する手段というより、経済活動を管理しようとする国の試みに
起因し、不換紙幣(法定通貨)の交換価値は国が発行する通貨で
支払われる税金を経済活動に対して賦課する権力に由来すると主
張する貨幣理論である。 ──ウィキペディア
https://bit.ly/3sVJd4y
─────────────────────────────
信用貨幣論は、実質的に価値のない紙幣が価値を持ちうるのは
それを使って税が納められるからであるという説です。すべての
国民は税を納めるという「負債」を負っており、その納める手段
が貨幣だというのです。納税すると、負債は消滅します。この点
に関して、中野剛志氏と記者は次のやり取りをしています。
─────────────────────────────
中野:政府は円やポンドやドルを自国通貨として法律で定めます
が、次に何をするかというと、国民に対して税を課して、法律
で定めた通貨を「納税手段」として定めるわけです。これで何
が起こるかというと、国民にとって法定通貨が「納税義務の解
消手段」としての価値をもつことになります。納税義務を果た
すためには、その法定通貨を手に入れなければなりませんから
ね。ここに、その貨幣に対する需要が生まれるわけです。こう
して人々は、通貨に額面通りの価値を認めるようになり、その
通貨を、民間取引の支払いや貯蓄などの手段として──つまり
「貨幣」として──利用するようになるのです。要するに人々
がお札という単なる紙切れに通貨としての価値を見出すのは、
その紙切れで税金が払えるからというのがMMTの洞察です。
貨幣の価値を基礎づけているのは何かというのを掘って掘って
掘り進むと、「国家権力」が究極的に貨幣の価値を保証してい
るという認識に至ったのです。
――なるほど・・。つまり、フライデーが発行した「借用証書」
をクルーソーがフライデーに持っていったら魚がもらえるよう
に、政府が発行した「借用証書」を政府に持っていったら「租
税債務」を解消してもらえるということですね?
中野:そういうことです。 https://bit.ly/3H906hb
─────────────────────────────
貨幣は、納税の手段としての価値を持ちますが、それを担保し
うる徴税権力が確立した国家においては、必ず貨幣として流通す
るようになります。そのうえで、しだいに納税だけでなく、社会
習慣として貨幣が一般の交換手段としても受け入れられるように
なるです。実際にそうなっています。
しかし、これだけの説明では、いまひとつ納得できない人もい
ると思います。そもそも現在使われている通貨は貴金属などの物
理的価値による裏付けがないのにもかかわらず、なぜ流通してい
るのかという基本的な問いに、物々交換からスタートしたとする
主流派経済学では、次のような説明しかできないでいます。
─────────────────────────────
みんなが受け取ると信じているからである
─────────────────────────────
これをMMT論者は、「答えになっていない。無限後退に陥っ
ている」と強く批判しています。「無限後退」とは、ものごとの
説明または正当化を行うさい、終点が来ずに同一の形の説明や正
当化が、連鎖して無限に続くことをいいます。
MMTでは、1万円と印刷されている紙幣を、1万円分の何か
と交換できるという意味にとらず、「政府が納税時に1万円分と
して受け取ってくれる証」として考えます。そして貨幣が流通す
る理由を「納税義務に必要だから」と説明するのです。そこに政
治権力がかかわっているからこそ流通するというのです。この考
え方に立つと、納税時に使えないビットコインなどの暗号資産は
通貨ではないということになります。
これに関して、ステファニー・ケルトン教授は、自著で次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
MMTは、このような歴史的に不正確な物々交換説を拒絶し、
代わりに表券主義(チャータリズム)に関する膨大な研究に依拠
している。表券主義とは古代の統治者や初期の国民国家が独自通
貨を導入することを可能にしたのは税金制度であり、それによっ
て通貨が個人間の交換手段として使われるようになったと考える
立場だ。 ──ステファニー・ケルトン著
『財政赤字の神話/MMTと国民のための経済の誕生』
早川書房刊
─────────────────────────────
MMTをバカにせず、ていねいに調べて考えてみると、今まで
多くの人が常識的に正しいと信じていた経済財政の知識が、まる
で間違っていたことがわかってきます。しかもそれが、それなり
に強い説得力を持っているのです。
政府が貨幣を納税の手段として認めるということは、国家がそ
れを認めることを意味しています。それこそ、それが、なぜ、流
通しているのかの正解であるからです。
──[新しい資本主義/第034]
≪画像および関連情報≫
●MMTが、こんなにも「エリート」に嫌われる理由
───────────────────────────
MMT(現代貨幣理論)は、高インフレでない限り、財政
赤字を拡大してよいと主張する。これに対して、主流派経済
学者は、「そんなことをしたら、超インフレになる」と激し
く批判している。(中略)
問うべきは、なぜ、このような極端な議論がまかりとおっ
ているかということである。日本は、20年という長期のデ
フレに苦しんでいる。そんな日本が超インフレを懸念して、
デフレ下で政府支出の抑制に努めたり、増税を目指したりし
ている姿は、どう考えても異常である。「インフレ恐怖症」
とでも言いたくなるほどだ。
なぜ、これほどまで極端にインフレが恐れられているので
あろうか。
そして、なぜ、MMTは、こんなに嫌われているのであろ
うか。その理由の根源は、貨幣の理解にある。主流派経済学
の標準的な教科書は、貨幣について、次のように説明してい
る。原始的な社会では、物々交換が行われていたが、そのう
ちに、何らかの価値をもった「商品」が便利な交換手段(つ
まり貨幣)として使われるようになった。その代表的な「商
品」が貴金属とくに金である。これが、貨幣の起源である。
https://bit.ly/36igXS4
───────────────────────────
ステファニー・ケルトン教授の本