2022年02月21日

●「貨幣は物々交換から始まっている」(第5675号)

 2月19日付、日本経済新聞の有名コラム『大機小機』は、次
のように記述しています。
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 永田町でMMT(現代貨幣理論)が流行している。国債をいく
ら出しても大丈夫だ、と与党の政治家が公然と議論している。政
治家が「財政破綻はあるはずないからいくら金を使っても大丈夫
だ」という姿には、「北朝鮮が攻めてくるはずはないから自衛隊
は遊んでていい」という主張と同じくらい違和感を持つ。国民が
「財政破綻はない」と安心して信じることを政治の目標にするの
には賛成だが、それは政治家自らが「財政破綻は起きない」と信
じ込むこととは違う。危機に備える心構えを政治家が示して初め
て国民は危機が起きないと信じられる。
   ──2022年2月19日付、日本経済新聞「大機小機」
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 MMTをごく簡単にいうと、「自国通貨を持つ国は、過度なイ
ンフレにならない限り、政府はいくらでも借金できる」というこ
とになります。これに対して、「そんなバカなことがあるか」と
『大機小機』の筆者は怒っているのです。
 しかし、1万円札を発行するコストはわずか20円ほどです。
したがって、いささか極端なことをいえば、国債の償還をしたい
なら、お札を印刷して返せばよいのです。1万円札は単なる紙切
れであり、日本銀行が「1万円」と印字しているから価値を持っ
ているに過ぎないとMMT論者はいいます。
 しかし、主流派経済学者や財務省は、国債償還は増税で行うべ
きであると主張します。そして彼らの決まり文句の「次世代にツ
ケを回すべきでない」とエラソーに主張します。財務省が実質支
配する岸田内閣は、きっとコロナが収束したら、増税しようと考
えていると思います。東日本大震災の「復興特別所得税」のよう
にです。これは、現在も所得税に2・1%上乗せされ、2038
年まで徴収されることになっています。旧民主党の菅政権のとき
でしたが、増税を主張したのは「日本学術会議」です。旧民主党
の菅政権も日本学術会議も何もわかっていません。旧民主党の菅
政権と野田政権は、首相が財務省に完全に洗脳され、公約にない
増税路線を取り、日本の「失われた30年」に貢献しています。
 中野剛志氏によると、主流派の経済学者は、「貨幣とは何か」
がわかっていないことに問題があるといいます。主流派経済学の
標準的な教科書とされる『マンキュー・マクロ経済学I入門編』
には、貨幣について、次のように記述されています。ニコラス・
グレゴリー・マンキュー氏は、著名なハーバード大学経済学部教
授です。
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 原始的な社会では、物々交換が行われていたが、そのうちに何
らかの価値をもった「商品」が便利な交換手段(つまり貨幣)と
して使われるようになった。その代表的な「商品」が貴金属、と
くに金である。これが、貨幣の起源である。
 しかし、金そのものを貨幣とすると、純度や重量など貨幣の価
値の確認に手間がかかるので、政府が一定の純度と重量をもった
金貨を鋳造するようになる。
 次の段階では、金との交換を義務づけた兌換紙幣を発行するよ
うになる。こうして、政府発行の紙幣が標準的な貨幣となる。最
終的には、金との交換による価値の保証も不要になり、紙幣は、
不換紙幣となる。それでも、交換の際に皆が受け取り続ける限り
紙幣には価値があり、貨幣としての役割を果たす。
             ──N・グレゴリー・マンキュー著
  『マンキュー・マクロ経済学I入門編』/東洋経済新報社刊
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 要するに最初は物々交換から始まったといっているのです。し
かし、物々交換はやはり不便であり、金や銀などの貴金属、つま
りそれ自体で価値のあるモノを選んで、それを「交換の手段」と
したというわけです。これを「商品貨幣論」といいます。
 中野剛志氏は、この「商品貨幣論」が間違っているといってい
るのです。これでは、「不換貨幣」の普及がきちんと説明ができ
ないからです。中野氏は次のようにいっています。
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 いや、この考え方は間違いだと、本当は私たちはすでに知って
います。なぜなら、1971年にドルと金の兌換が廃止されて以
降、世界のほとんどの国が、貴金属による裏付けのない「不換貨
幣」を発行しています。ところが、誰も貨幣の価値を疑いはしま
せんでした。そして、マンキューがそうであるように、商品貨幣
論では、なぜ不換貨幣が流通しているのかについて納得できる説
明ができないのです。
 そもそもイギリスでは、17世紀後半、すり減って重量が減っ
た銀貨が流通していましたが、物価や為替相場にまったく影響を
与えませんでした。銀貨にはそれ自体に価値があるから流通して
いるのだとすれば、すり減った銀貨が同じ価値で流通しているの
は“おかしな現象”ということになりますよね?
                 https://bit.ly/36pRM05
─────────────────────────────
 この商品貨幣論は、主流派経済学では定説になっていますが、
MMTではこれが間違いであると主張するのです。交換の手段と
して使っている兌換紙幣そのものには価値はないが、金などに交
換できるので価値があるとする考え方は、不換紙幣になったとき
問題を起こすはずです。しかし、そういう問題は、一切起きてい
ないし、スムーズに不換紙幣に移行しています。
 それに、かつて貨幣の起源を研究した歴史学者や人類学者、社
会学者たちも、今日に至るまで誰ひとりとして、「物々交換から
貨幣が生まれた」という証拠資料を発見することができないでい
ます。それでは、MMTでは、貨幣をどのようにとらえているの
でしょうか。明日のEJで検討します。
             ──[新しい資本主義/第032]

≪画像および関連情報≫
 ●お金の起源を教えます!過去から現在までのお金の歴史
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   一度は社会科の授業などで聞いたことがあるかもしれませ
  んが、お金が生まれる前は「物々交換」を行っていた、とい
  うのが現在の通説となっています。
   その昔、各集落で猟師や漁師、農夫といった得意分野を持
  つ人々が、それぞれの得意分野の食糧を多めに確保し、必要
  に応じて不得手な分野の食糧と交換していました。また、食
  糧以外のものが交換対象となることもしばしばありました。
   しかしこの方法では、相手が自分の持っているものを欲し
  くない場合には、相手のものと交換してもらうことができま
  せん。また食糧同士で交換すると、鮮度が異なる・得意分野
  のものと価値が釣り合わないといった問題も出てきます。
   その後、人々は「物品交換」を行うようになります。物々
  交換では直接欲しいもの同士を交換しますが、物品交換では
  「布・塩・貝・砂金(金と銀を配合したもの)」などの比較
  的価値が下がりにくい物品と欲しいものを交換します。
   現在のお金の役割を特定の物品が担っていた、と考えると
  分かりやすいですよね。とくに中国では貝(貝貨)を用いた
  物品交換が一般的となりました。今でも「財」「貯」「貨」
  などお金に関する漢字に「貝」が多く使われているのはこの
  ためだといわれています。ただ、この物品交換にも欠点があ
  りました。布や塩、貝などは物品交換を行わなくても製造や
  入手が可能でした。また、砂金の配合率を変えること、つま
  り偽造が比較的容易で、適正な価値で取引をすることが困難
  なケースがあったのです。   https://bit.ly/3gVEwlV
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グレゴリー・マンキュー教授.jpg
グレゴリー・マンキュー教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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