2022年02月14日

●「日本の長期金利が上がらない理由」(第5670号)

 国債は政府の借金です。その国債を増発し、供給量を増やし、
その残高が積み上がると、普通であれば長期金利(以下、金利)
は上昇するはずです。
 しかし、日本の場合は、そうなっていないのです。なぜ、そん
なことが起きているのでしょうか。それは、次の2つに分けて考
える必要があります。
─────────────────────────────
            @経済要因
            A需給要因
─────────────────────────────
 @の「経済要因」について考えます。
 「経済要因」としては、日本が低成長・低インフレに陥ったこ
とが上げられます。もともと低いインフレ率はさらに低くなり、
若干マイナスになってデフレに陥っています。そのデフレが30
年も続いているのです。そのような国は日本しかなく、デフレの
長期化のせいで金利が上昇しないのではないかというわけです。
 Aの「需給要因」について考えます。
 しかし、たとえデフレであったとしても、際限なく国債を発行
し続ければ、値崩れが起こり、金利は上昇するはずです。しかし
その国債の供給を受け入れる強い需要があったとすれば、どうで
しょうか。それがあったのです。
 それは、銀行や生損保などの金融機関からの旺盛な国債の需要
です。長期的に経済が低迷しているので、民間からの資金需要が
乏しく、金融機関は資金運用難に陥っており、国債ぐらいしか有
力な運用先がなかったからです。
 日本は世界有数の預金大国です。いかに金利が低下しても国民
は貯蓄性向を高めています。それは、長期経済低迷のせいでもあ
りますが、国民が強い将来不安を抱いているからです。最も多く
の預金を持つ高齢者は、年金制度が揺らぐことへの不安から、預
金を積み上げています。
 添付ファイルを見てください。2つの棒グラフがあります。財
務省のウェブサイトに出ていたものです。上のグラフは、「家計
の金融資産」の推移をあらわしています。
 現金・預金を見ると、その直近残高は、2021年6月の時点
で、約1000兆円あります。この額はおおむね国債の発行残高
と見合っています。累増する国債は、金融機関を介して、増え続
ける預金で消化されることになります。財務省は、「国債の発行
残高が1000兆円を突破」とか、「GDP対比200%の国債
の残高」と債務だけを強調しますが、家計の金融資産は、現金・
預金だけで、1000兆円を超えているのです。
 つまり、政府が国債で調達した資金は、各種の公共事業や、補
助金などで民間に支払われます。使われた資金は、最終的には銀
行預金として着地するはずです。それは、あたかもお金が政府と
銀行預金の間で、増殖しながら循環しているようなものです。
 通常の金融理論によると、金利がゼロになると、高い金利を求
めて資金は移動し、国内に有望な投資先がないと、金利の高い外
貨にシフトするものです。しかし、日本人は、「リスク回避」の
性向が非常に強いので、積極的に外貨リスクを取ろうとせず、資
金は国内に滞留することになります。
 この傾向は、企業部門においても同じなのです。添付ファイル
の下の棒グラフは、金融機関を除く企業の金融資産をあらわして
います。成長期待が乏しいという見通しから、設備投資をしてリ
スクを取るより、将来不安に備えて内部留保を厚くしておきたい
ためであると思われます。ちなみに、2020年度末の金融業を
除く企業の金融資産は1287・4兆円です。
 自民党の高市政調会長は、2021年10月13日夜のBSフ
ジの番組で、税制について次の発言をしています。
─────────────────────────────
 法人税に手を突っ込む予定だ。現預金に課税するかわりに、賃
金を上げたらその分を免除する方法もある。
                 ──自民党の高市政調会長
─────────────────────────────
 この高市発言について、野村総合研究所/金融ITイノベーシ
ョン事業本部・エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 高市政調会長が課税対象として検討する企業の現預金は、企業
の貸借対照表では、左側(借方)の資産に計上される。内部留保
とは逆側である。そして、企業の現預金、あるいは手元流動性は
内部留保と連動している訳ではない。それにも関わらず、両者を
混同した議論は多い。(一部略)企業の金融資産全体に占める現
預金の比率は、20〜25%程度で、90年以降ほぼ横ばいであ
る。この点からも、企業が利益を現預金に死蔵させており、経済
活動の活性化のために前向きに使っていない、また、その傾向を
強めているとの指摘は当たらない。      ──木内登英氏
                  https://bit.ly/3HFtIUF
─────────────────────────────
 高市発言はさておき、金融市場が矢野論文を無視したのは、こ
れまで述べてきたことをすべてわかったうえで、「変化が生ずる
ことは当面ない」と判断したからです。
 矢野論文に近い内容は、国債発行残高が100兆円未満だった
1981年の「経済白書」にも見られます。そこには、次のよう
に書いてあります。
─────────────────────────────
 最も現実的な問題である財政赤字の現状からみてみよう・・・
景気回復過程にもかかわらず、公債依存度はむしろ逆に上昇の一
途をたどり・・公債依存度は主要国中最大となっている。
          ──1981年経済白書「経済白書」より
─────────────────────────────
             ──[新しい資本主義/第027]

≪画像および関連情報≫
 ●[FT]長期金利が低いナゾ 各国財政、債務膨張で脆弱に
  ───────────────────────────
   これまでアナリストは、この奇妙な市場の振る舞いについ
  て、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が
  再び悪化する恐れがあること、中央銀行(中銀)が大量に資
  産を買い入れていること、あるいは何より、現在のインフレ
  率の急上昇は一時的であるとの見方が強いこと、などが原因
  だと説明してきた。最近の統計をみると、どれも説得力に欠
  ける。だが1つ、筋の通る説明が存在する。それは世界が、
  「債務の罠(わな)」に陥っているというものだ。
   過去40年で世界の国債残高は3倍以上に増加し、全世界
  の国内総生産(GDP)の350%に達した。中銀が金利を
  ゼロやマイナスまで引き下げる歴史的な緩和措置をとったた
  め、マネーが株式、国債をはじめとした資産に流れ込んだ。
  世界の投資市場の規模はGDPと同程度から4倍にまで膨れ
  上がった。        https://s.nikkei.com/3sts95S
  ───────────────────────────
家計と民間法人企業の金融資産.jpg
家計と民間法人企業の金融資産
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]