2007年07月20日

●なぜ、マクロ経済学を勉強する必要があるのか(EJ第2126号)

 経済学には、ミクロ経済学とマクロ経済学があります。ミクロ
経済学について、経済書では次のように定義しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ミクロ経済学は、経済学が経済主体の最小単位と定義する家計
 (消費者)、企業(生産者)、それらが経済的な取引を行う市
 場をその分析対象とし、世の中に存在する希少な資源の配分に
 ついて研究する経済学の一分野である。 ――ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済学の定義というと、何やら小難しくなりますが、要するに
最小単位の経済主体の行動を扱うためにミクロ経済学と呼ばれる
のです。
 それでは、なぜ、マクロ経済学が必要になるのでしょうか。
 それは、ミクロの経済行動を足し合わせた合計がマクロの結果
にはならないからです。
 リチャード・クー氏は、マクロ経済学が成立する唯一の根拠は
経済学に「合成の誤謬」という可能性があるからである――この
ようにいっています。
 「合成の誤謬」――難しい専門用語ですが、そんなに難しいこ
とをいっているのではありません。ミクロ経済の世界で、個々の
経済主体が慎重に判断して最もベストであると考える経済行動を
とっても経済全体、つまり、マクロの世界の視点で見ると、経済
的に見てとんでもない現象を引き起こす可能性がある――これが
合成の誤謬というのです。マクロの世界では、一家計や一企業の
収支を改善する方法が通用しないことが多いのです。
 資産価格が暴落してバランスシートが傷んだことを知った企業
経営者が債務を最小化するために、キャッシュフローを借金返済
に回すことは企業経営者としてベストな経営行動であり、誰もそ
れを止められないのです。
 しかし、それをマクロの視点から見ると、多くの企業が一斉に
それをやると、深刻なバランスシート不況に陥ることはここまで
見てきた通りです。これが合成の誤謬です。財政赤字の深刻さを
説明するとき、よく家計の借金に例える向きがありますが、それ
は正しいことではなく、国民の判断をミスリードさせる恐れがあ
り、とても危険なことです。
 現在、「公共事業=悪」ということになってしまっています。
確かに人があまり通らない田舎の道路建設や採算の取れないハコ
もの建設はムダそのものであり、悪といえます。しかし、公共事
業や公共投資は、けっして悪ではないのです。
 先日、政治番組「報道2001」において、亀井静香氏が安倍
政権は国民に痛みだけを押し付けていると発言をしたとき、少し
財政出動について触れたのです。そうすると、黒岩キャスターは
ヒステリックに次のようにいったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 亀井さんはまた国債を発行して、借金を積み重ねて無駄な公共
 事業をやれというのですか。      ――黒岩キャスター
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は亀井氏の発言は間違っていないと思います。政府は減税が
必要な時期に増税をしているからです。しかし、怖いのは、この
黒岩キャスターの発言が真実らしく聞こえることです。繰り返し
いいますが、ミクロ世界で正しいと思えることはマクロの世界で
は違っていることが多いのです。
 クー氏のいう「陰」の世界と「陽」の世界を10の経済項目で
比較したのが次の表です。これを見ると、「陰」の世界と「陽」
の世界の違いがよくわかります。
―――――――――――――――――――――――――――――
             「陽」の世界    「陰」の世界
  1.現象       教科書の経済 バランスシート不況
  2.法則      神の見えざる手     合成の誤謬
  3.企業財務内容  資産−負債>0   資産−負債<0
  4.行動原理     利益の最大化    債務の最小化
  5.結果     最大多数最大幸福   放置すれば恐慌
  6.金融政策         有効        無効
  7.財務政策        逆効果        有効
  8.物価         インフレ       デフレ
  9.金利      通常の金利水準      超低金利
 10.貯蓄           美徳        悪徳
                  ――リチャード・クー著
     『「陰」と「陽」の経済学』 ――東洋経済新報社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この比較表によると、経済政策においてやるべきこと、やって
はならないことがよくわかります。重要なポイントをまとめてお
くことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.経済が「陰」の局面にあるとき、金融政策はまったく効か
   なくなること
 2.経済が「陰」の局面にあるとき、政府としてとるべきは財
   政政策である
 3.経済が「陽」の局面にあるとき、財政政策はマイナスの結
   果をもたらす
―――――――――――――――――――――――――――――
 リチャード・クー氏は、いわゆるケインズ政策といわれる財政
政策は、バランスシート不況――経済が「陰」の局面にるときだ
けに使うものであるとして、前著『デフレとバランスシート不況
の経済学』(徳間書店刊)において次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 50年代と60年代に、ケインズ理論は全能とあがめられ、財
 政政策はあらゆる機会で景気の微調整に動員された。当時は誰
 も、ケインズの財政政策が本当はバランスシート不況のためだ
 けにあるということに気がついていなかったのである。
――――――――――――――― [日本経済回復の謎/35]


≪画像および関連情報≫
 ・「プレジデント」編集長/藤原昭広氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  最近、経済アナリストがよく口にする「合成の誤謬」という
  言葉がある。つまりは、企業も個人も過剰感のある借金を一
  生懸命返済するとういう、それ自体は正しい経済活動を行う
  と、結果としてマクロレベルでの経済活動が縮小し景気が回
  復しないという事態。次号(10月22日発売)の特集「怒
  れ!ビジネスマン」のなかで評論家の櫻井よしこ氏が、日本
  の官僚組織の自己保身の論法を「詐欺師紛い」だと一刀両断
  に切り捨てている。読むとすっきりしますのでご興味のある
  方は、次号をぜひお読みいただきたいのですが、どうも日本
  の官僚たちの行いも、ある種の「合成の誤謬」ではないかと
  思うのだが、いかがか。
  http://www.president.co.jp/pre/special/rabbit/005.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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