2022年02月09日

●「矢野論文を小林/中野両氏が激論」(第5668号)

 矢野財務次官の論文について、「文春オンライン」において、
きわめて興味ある議論が行われています。論文に賛成の立場に立
つ小林慶一郎氏と反対の立場に立つ中野剛志氏による討論です。
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 ◎文春オンライン/2021年12月16日配信
  「この程度の認識だったのか」バラマキ批判の”矢野論文”
  をめぐり、財政再建派と反対派が激突!
                  https://bit.ly/3GyFHSq
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 小林、中野両氏ともに経済産業省の官僚からスタートし、今や
2人ともに著名なマクロ経済学の専門家です。どちらかというと
小林慶一郎氏は正統派であり、財務省の考え方に近く、中野剛志
氏は革新派であり、MMT研究の大家でもあります。この討論を
再編集し、分析を行いたいと思います。
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司会:本日は、矢野氏に近い「財政再建派」の小林さんと、反対
 の立場をとる中野さんとで議論していただくわけですが、まず
 論文に対する率直な感想をお聞かせください。
小林:わりと「正統派の財務省の言い分がそのまま書いてある」
 という印象ですね。ちょっと財政破綻の危機感を煽りすぎてい
 る嫌いはありますが、大筋では同意できます。矢野さんがイメ
 ージする「財政破綻」とは、国の借金が膨らみ続けることで日
 本国債の格付けが下がり、金利が暴騰して、ハイパーインフレ
 を招くシナリオだと思いますが、その懸念は私も共有するとこ
 ろではあります。
中野:財務省がなぜそこまで財政再建にこだわるのか、実はあま
 りよく分かっていなかったんですが、この論文を読んで「この
 程度の認識だったのか」と驚きました。もちろん内容には何一
 つ賛同できません。日本の財務次官がいかに間違っているかを
 示したという意味で、歴史的文献としての価値は高いと思いま
 すが(笑)、この論文には、少なくとも3つの大きな問題点が
 あると思います。
小林:では、ひとつずつうかがいましょう。
中野:第一に日本財政の破綻を懸念するこの論文自体が、日本財
 政の信認を毀損している点です。矢野さんがご自身で書かれて
 いる通り、財務次官は(財政をあずかり国庫の管理を任された
 立場)にあります。学者や評論家ではない。そういう責任ある
 立場の人が日本の財政について「タイタニック号が氷山に向か
 って突進しているようなもの」と書いたわけで、そのこと自体
 が日本国債の格付けを下げて、日本経済全体に悪影響を及ぼす
 ことになりかねない。日本財政の信認を守るべき財務次官とし
 て、あるまじき行為です。
小林:しかし例えば90年代の不良債権のときは、誰もがその問
 題を認識しながらも、そこに触れると「マーケットや国民がパ
 ニックになる」という理由で多くの官僚は口を噤んでいたわけ
 です。それが官僚として正しい態度だったのか。
  私は、大きな問題が存在し、現状で解決の方法が見出されて
 いない場合は、その問題を国民に明らかにしたうえで、「一緒
 に解決法を考えましょう」と呼びかけるべきだと思う。その意
 味で矢野さんの行動は評価されていいのではないでしょうか。
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 中野剛志氏の指摘する3つの問題点のうちの第1点については
私は中野氏の意見に賛成です。矢野次官は財務省の事務方のトッ
プとして、財政をあずかり、国庫の管理を任された立場にあるの
ですから、各党の政策に関して異論があるのであれば、自分の仕
事として、政策に反対し、財務省として撤回に努力すべきです。
それは、おそらく非常に困難なことでしょうが、そういう意見を
論文にして、たとえ上司の許可を得たとしても、職名を使って一
般誌に寄稿するなど、もってのほかです。そのようなことは、上
司に相談があった時点で、上司がストップをかけるべきです。
 もし、ある企業でそのようなことを担当職の管理者がやったと
したら、間違いなく、その担当職は職を解かれるはずです。それ
に、そもそも今回矢野次官が論文として発表した内容は、改めて
矢野次官から説かれるまでもなく、財務省の見解として、繰り返
し、国民に対し、訴えかけてきた内容と同じであり、そこに新し
さはほとんどありまぜん。もし、新しさがあるとすれば、日本を
タイタニック号に喩えたぐらいのことです。
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中野:そこで私が考える矢野論文の第二の問題点が出てきます。
 それは財政を掌る財務次官が官僚としてのタブーを破ってまで
 「このままでは財政破綻する」というメッセージを発したのに
 マーケットがほとんど無反応だった点です。矢野さんのメッセ
 ージ通り、日本が本当に財政破綻に向かっているのなら、この
 論文が出た直後に長期金利が上がってもおかしくないのに、実
 際には0・1%に満たないままです。要するに、日本は財政破
 綻に向かっていないということです。矢野さんはご自身の主張
 の間違いを自ら証明した恰好になったんですよ。
小林:私はマーケットが反応しない状況だからこそ、このタイミ
 ングで論文を出したんだと思います。つまり今はコロナの影響
 もあり、日本はデフレ下にあり、日銀が国債を買い支える状況
 が続いている。だから論文が出ても、金利や物価が急に上がる
 心配はなかったわけです。問題は日銀が買い支えられなくなっ
 たときで、このままならいずれその日が来る。だから今、警鐘
 を鳴らすんだというのが矢野さんの主張ですよね。
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 小林慶一郎氏は、矢野次官は、自分の意見がマーケットに反応
しない時期を見計らって論文を出したといっていますが、これは
おかしな意見です。それはさておき、なぜ長期金利が上がらない
のかは重要です。これについては、明日のEJで解説します。
             ──[新しい資本主義/第025]

≪画像および関連情報≫
 ●公然とバラマキ批判/財務次官の乱心ではなかった
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   冷静に考えれば、財務省の事務次官が勝手に『文藝春秋』
  でバラマキ合戦と化した与野党の政策論争を公然と批判する
  わけがない。矢野次官は財務省内でも財政再建原理主義者と
  して知られる過激派だ。だが、官僚としてわきまえる範囲を
  軽々しく乗り越えてしまうほどバカではない。そんな男が事
  務次官まで登りつめるはずがない。
   しかし、これには自民党が猛反発。高市成長会長は「失礼
  だ」とNHKの討論番組で怒りにあらわにした。また自民党
  内からは「たかが役人ふぜいが政治家を批判するなど許し難
  い。罷免しろ」という声が溢れ出している。
   だが、矢野次官の裏には麻生前財務大臣がいるのだ。だか
  ら後任の鈴木財務大臣も記者会見で矢野次官の寄稿は「手続
  き的にも、これまでの政府の基本方針にも反してはいない」
  と擁護した。
   総裁選で金融所得課税を強く訴えてた岸田総理は、株式市
  場の下落をみて、あっという間に課税案を引っ込めてしまっ
  た。矢野次官の造反劇は岸田総理の軽さと比べたらじつに立
  派である。もちろん、コロナので痛んだ今、財政出動は必要
  だ。誰に、どう配るのか。中身を精査することなく、またど
  んぶり勘定のバラマキの規模を競うことが、衆院選勝利の決
  め手だと信じ込んでいる政治家どもは、国民はバカにしてい
  る。矢野次官のバラマキ批判に怒り心頭してるひまがあるな
  ら、メリハリのある精緻なバラマキにバージョンアップすべ
  きだ。             https://bit.ly/3speWLp
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小林慶一郎氏VS中野剛志氏.jpg
小林慶一郎氏VS中野剛志氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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