きわめて興味ある議論が行われています。論文に賛成の立場に立
つ小林慶一郎氏と反対の立場に立つ中野剛志氏による討論です。
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◎文春オンライン/2021年12月16日配信
「この程度の認識だったのか」バラマキ批判の”矢野論文”
をめぐり、財政再建派と反対派が激突!
https://bit.ly/3GyFHSq
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小林、中野両氏ともに経済産業省の官僚からスタートし、今や
2人ともに著名なマクロ経済学の専門家です。どちらかというと
小林慶一郎氏は正統派であり、財務省の考え方に近く、中野剛志
氏は革新派であり、MMT研究の大家でもあります。この討論を
再編集し、分析を行いたいと思います。
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司会:本日は、矢野氏に近い「財政再建派」の小林さんと、反対
の立場をとる中野さんとで議論していただくわけですが、まず
論文に対する率直な感想をお聞かせください。
小林:わりと「正統派の財務省の言い分がそのまま書いてある」
という印象ですね。ちょっと財政破綻の危機感を煽りすぎてい
る嫌いはありますが、大筋では同意できます。矢野さんがイメ
ージする「財政破綻」とは、国の借金が膨らみ続けることで日
本国債の格付けが下がり、金利が暴騰して、ハイパーインフレ
を招くシナリオだと思いますが、その懸念は私も共有するとこ
ろではあります。
中野:財務省がなぜそこまで財政再建にこだわるのか、実はあま
りよく分かっていなかったんですが、この論文を読んで「この
程度の認識だったのか」と驚きました。もちろん内容には何一
つ賛同できません。日本の財務次官がいかに間違っているかを
示したという意味で、歴史的文献としての価値は高いと思いま
すが(笑)、この論文には、少なくとも3つの大きな問題点が
あると思います。
小林:では、ひとつずつうかがいましょう。
中野:第一に日本財政の破綻を懸念するこの論文自体が、日本財
政の信認を毀損している点です。矢野さんがご自身で書かれて
いる通り、財務次官は(財政をあずかり国庫の管理を任された
立場)にあります。学者や評論家ではない。そういう責任ある
立場の人が日本の財政について「タイタニック号が氷山に向か
って突進しているようなもの」と書いたわけで、そのこと自体
が日本国債の格付けを下げて、日本経済全体に悪影響を及ぼす
ことになりかねない。日本財政の信認を守るべき財務次官とし
て、あるまじき行為です。
小林:しかし例えば90年代の不良債権のときは、誰もがその問
題を認識しながらも、そこに触れると「マーケットや国民がパ
ニックになる」という理由で多くの官僚は口を噤んでいたわけ
です。それが官僚として正しい態度だったのか。
私は、大きな問題が存在し、現状で解決の方法が見出されて
いない場合は、その問題を国民に明らかにしたうえで、「一緒
に解決法を考えましょう」と呼びかけるべきだと思う。その意
味で矢野さんの行動は評価されていいのではないでしょうか。
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中野剛志氏の指摘する3つの問題点のうちの第1点については
私は中野氏の意見に賛成です。矢野次官は財務省の事務方のトッ
プとして、財政をあずかり、国庫の管理を任された立場にあるの
ですから、各党の政策に関して異論があるのであれば、自分の仕
事として、政策に反対し、財務省として撤回に努力すべきです。
それは、おそらく非常に困難なことでしょうが、そういう意見を
論文にして、たとえ上司の許可を得たとしても、職名を使って一
般誌に寄稿するなど、もってのほかです。そのようなことは、上
司に相談があった時点で、上司がストップをかけるべきです。
もし、ある企業でそのようなことを担当職の管理者がやったと
したら、間違いなく、その担当職は職を解かれるはずです。それ
に、そもそも今回矢野次官が論文として発表した内容は、改めて
矢野次官から説かれるまでもなく、財務省の見解として、繰り返
し、国民に対し、訴えかけてきた内容と同じであり、そこに新し
さはほとんどありまぜん。もし、新しさがあるとすれば、日本を
タイタニック号に喩えたぐらいのことです。
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中野:そこで私が考える矢野論文の第二の問題点が出てきます。
それは財政を掌る財務次官が官僚としてのタブーを破ってまで
「このままでは財政破綻する」というメッセージを発したのに
マーケットがほとんど無反応だった点です。矢野さんのメッセ
ージ通り、日本が本当に財政破綻に向かっているのなら、この
論文が出た直後に長期金利が上がってもおかしくないのに、実
際には0・1%に満たないままです。要するに、日本は財政破
綻に向かっていないということです。矢野さんはご自身の主張
の間違いを自ら証明した恰好になったんですよ。
小林:私はマーケットが反応しない状況だからこそ、このタイミ
ングで論文を出したんだと思います。つまり今はコロナの影響
もあり、日本はデフレ下にあり、日銀が国債を買い支える状況
が続いている。だから論文が出ても、金利や物価が急に上がる
心配はなかったわけです。問題は日銀が買い支えられなくなっ
たときで、このままならいずれその日が来る。だから今、警鐘
を鳴らすんだというのが矢野さんの主張ですよね。
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小林慶一郎氏は、矢野次官は、自分の意見がマーケットに反応
しない時期を見計らって論文を出したといっていますが、これは
おかしな意見です。それはさておき、なぜ長期金利が上がらない
のかは重要です。これについては、明日のEJで解説します。
──[新しい資本主義/第025]
≪画像および関連情報≫
●公然とバラマキ批判/財務次官の乱心ではなかった
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冷静に考えれば、財務省の事務次官が勝手に『文藝春秋』
でバラマキ合戦と化した与野党の政策論争を公然と批判する
わけがない。矢野次官は財務省内でも財政再建原理主義者と
して知られる過激派だ。だが、官僚としてわきまえる範囲を
軽々しく乗り越えてしまうほどバカではない。そんな男が事
務次官まで登りつめるはずがない。
しかし、これには自民党が猛反発。高市成長会長は「失礼
だ」とNHKの討論番組で怒りにあらわにした。また自民党
内からは「たかが役人ふぜいが政治家を批判するなど許し難
い。罷免しろ」という声が溢れ出している。
だが、矢野次官の裏には麻生前財務大臣がいるのだ。だか
ら後任の鈴木財務大臣も記者会見で矢野次官の寄稿は「手続
き的にも、これまでの政府の基本方針にも反してはいない」
と擁護した。
総裁選で金融所得課税を強く訴えてた岸田総理は、株式市
場の下落をみて、あっという間に課税案を引っ込めてしまっ
た。矢野次官の造反劇は岸田総理の軽さと比べたらじつに立
派である。もちろん、コロナので痛んだ今、財政出動は必要
だ。誰に、どう配るのか。中身を精査することなく、またど
んぶり勘定のバラマキの規模を競うことが、衆院選勝利の決
め手だと信じ込んでいる政治家どもは、国民はバカにしてい
る。矢野次官のバラマキ批判に怒り心頭してるひまがあるな
ら、メリハリのある精緻なバラマキにバージョンアップすべ
きだ。 https://bit.ly/3speWLp
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小林慶一郎氏VS中野剛志氏