2022年02月08日

●「矢野論文には大きな間違いがある」(第5667号)

 『文藝春秋』/2021年12月号に、岸田首相と作家でタレ
ントの阿川佐和子さんとのインタビューが出ています。聞き手の
阿川さんは、『聞く力』(文春新書)の著者です。話は矢野論文
に及びますが、その部分のやり取りを再現します。
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阿川:本誌(『文藝春秋』)先月号で、財務省の矢野康治事務次
 官が、政治家によるバラマキ政策を批判された。どう受けとめ
 ていらっしゃいますか。
岸田:いろんな議論があっていいと思っています。ただ、政府の
 結論が出てから「自分の意見はこうだから」と言うのでは、政
 府としてけじめがつかない。最後に結論が出たら従ってもらえ
 ると、私は信じております。
阿川:現時点で矢野次官の処分はお考えですか?
岸田:全く考えていません。     https://bit.ly/3LdUaXv
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 本来であれば、これは処分ものです。本人は、麻生副総理や直
接上司の鈴木財務相の了解を得ているので、平然としていますが
財務次官が自分の担当の財政の問題点を論文にして、一般誌に寄
稿するなど前代未聞であり、あってはならないことだからです。
 今後のこともあるので、岸田首相は、矢野事務次官を更迭すべ
きであったと思います。なぜなら、矢野事務次官の論文には誤り
があるからです。どこが違うかについては今後EJで詳しく説明
するつもりです。もし、岸田首相が矢野事務次官を即座に更迭し
ていたら、多くの人が岸田首相を大きく見直して、支持率がさら
に上がったと思います。
 矢野康治財務次官は、論文の核心部分において、次のように記
述しています。
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 国民は、永田町や霞が関に対して、「やるべきこと(真に必要
なこと)だけをちゃんとやってくれよ」と思っている方が多いの
ではないだろうか。だとすると国の将来を心配している国民の期
待に、自分たちは的確に応えられていないのではないかと思って
きました。ですから、この原稿では、国民のみなさんにも、事実
を正直にお知らせし、率直な意見を申し上げて、注意喚起をさせ
ていただきたいのです。
 わが国の財政赤字(「一般政府債務残高/GDP」)は256
・2%と、第2次大戦直後の状態を超えて過去最悪であり、他の
どの先進国よりも劣悪な状態になっています(ちなみにドイツは
68・9%、英国は103・7%、米国は127・1%)。
                  https://bit.ly/3B5aIN0
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 高橋洋一氏は「矢野論文は、財務全体を見ないで、一般会計の
ひとつの会計しか見ておらず、資産を無視している」と問題点を
指摘しています。すべての会計を合わせて、資産と負債の両方を
見るのが、会計学の基本ですが、一部を見て、資産を無視してい
るのです。財務省は一貫してこの姿勢です。
 矢野論文では、なぜか日本の債務残高については書かれておら
ず、政府債務のGDP対比の数字を強調しています。GDP対比
256・2%。この方が負債の大きさをわかりやすく示せると考
えているのでしょう。
 地方と政府の債務残高は約1500兆円です。巨額ではありま
すが、日本政府(地方を含む)には1000兆円の資産がありま
す。これでも500兆円の赤字ですが、これは日本銀行との連結
で考えれば問題は解消します。日本銀行は日本の国債500兆円
を保有しています。日本銀行は日本政府の子会社ですから、連結
決算が会計学の常識であると高橋洋一氏はいいます。つまり、連
結で見ると、日本の政府債務は「プラスマイナス=ゼロ」という
ことになります。
 この矢野論文について、はっきりと間違いであると明言したの
は、政治家では安倍元首相だけです。安倍首相は、矢野論文につ
いて、次のように述べています。
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 矢野さんは、一般会計における税収と歳出の不均衡と債務残高
をもとに、財務危機を論じています。しかし、一般会計だけでな
く、特別会計を含めたすべての政府関係予算を合算して見なけれ
ばならない。日銀は金融政策において政府から独立していますが
会計的には政府と連結して考えるべきです。
 政府と日銀の連結バランスシートを見ると、1500兆円の資
産に対して、負債は国債の1500兆円と銀行等の500兆円。
銀行券には金利がつかないし、償還しなくてもいいので、形式的
な負債といえる。少しでも会計を勉強すれば、日本が債務超過に
陥っていないことがわかるはずです。     ──安倍元首相
         ──月刊『WILL』/2021年12月号
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 「統合政府」という考え方があります。これは、政府と中央銀
行を一体と捉える考え方で、「現代貨幣論/MMT」と呼ばれる
非主流派の経済理論がとっている考え方です。高橋洋一氏もこの
考え方に立っており、著書に「統合政府のバランスシート」の図
が掲載されているので、添付ファイルにしてあります。
 資産に「徴税権」がありますが、これは将来にわたって税金を
徴収する権利です。見えない資産といえます。これをどのくらい
のタイムスパンで考えるかで、金額が変わってきますが、50兆
円を8年としても400兆円です。日本政府には、毎年50兆円
以上の税収があるので、日本はまったく財政的に問題はないとい
えます。財政破綻などありえないのです。
 MMTは、メインではないものの、EJのテーマとして一度取
り上げていますが、もう一度ていねいに研究し直す必要があると
思います。なぜなら、MMTの視点に立つと、何か新しいもの、
新しい考え方が見えてくるからです。
             ──[新しい資本主義/第024]

≪画像および関連情報≫
 ●財務次官論文を考える
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   財務省の矢野康治事務次官が「財務次官、モノ申すこのま
  までは国家財政は破綻する」と題する論考を月刊文藝春秋に
  寄稿した。「最近のバラマキ合戦のような政策論を聞いてい
  て、もうじっと黙っているわけにはいかない」という矢野次
  官の論考には賛否両論の議論がある。
   矢野氏は、国と地方あわせて国内総生産(GDP)の2・
  2倍にあたる長期債務がありながら、「さらに財政赤字を膨
  らませる話ばかりが飛び交っている」と指摘。向こう半世紀
  近く続く少子高齢化を乗り切るため、「平時は黒字にして有
  事に備える」という歳出・歳入の構造改革が不可欠だと主張
  する。
   これに対して、矢野氏の論考の反対論者は、@日本経済が
  低迷する状況での緊縮政策は国民生活を悪化させる、A自国
  通貨建て国債は債務不履行(デフォルト)にならない、B増
  発する国債の元利払いは日本銀行の通貨発行で賄えるーーな
  どとして、歳出・歳入の改革よりも新型コロナ対策を優先せ
  よと主張する。
   そもそもバブル崩壊後、税収減と景気対策で発行残高が急
  増していた日本国債のデフォルトリスクを指摘する海外の格
  付け会社に対して、財務省が「日本国債のデフォルトリスク
  はない」と主張していたことも反対論者が緊縮政策は不要と
  する根拠になっている。     https://bit.ly/3grhQcP
  ───────────────────────────
統合政府のバランスシート.jpg
統合政府のバランスシート
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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